第28話 女神たちとの決別

 黒衣の花嫁は私の“術”でほぼ、細切れにされていた。虹色の竜巻の中で。けれども、周りに集う“黒い炎”みたいな……魂、みたいな光達が切り裂かれてる黒衣の花嫁の周りに集い、私の放った“虹色の竜巻”の周りを囲む。

 リデアが言う。

 「瑠火の術って消えないわよね? それは、やっばり“生命剥奪”なの?」

 微笑みすらない美しい人からのその1言は、何故かとても動揺を産んだ。けれども、私は知ってる限りで彼女に伝えた。

 「月雲の術は基本的に“生命与奪”。だから、標的が死ぬまで術は消えない。でも、私はあの島を出てからそれが上手くはいってない、つまり……“耐性”が出来てると考えている。」

 リデアはそれを聞くと答えた、瞬時に。

 「ええ、それはそうよ。だってその為に“貴女達を迫害”したんですもの。貴女達の力を“驚異”と捉えているから。」

 「それは誰なんだ!?」

 私がそう言った時だった、

 「瑠火殿!」

レオンの声が聴こえた。私は、はっ。として、後ろを向いた。紅髪……碧の眼……、美しい騎士、聖白の鎧を着た“私の守護の盾ガーディアン”の1人である。

 切羽詰まった表情をしたレオンを前に、私は不審に思い彼の傍に降り立つ。何故なら私の背中には虹色の大きな両翼が羽ばたいているから。

 彼は私の前に立つと こそっ。と、言った。

 「ルシエル君が可怪しい。彼は何かに怯えている。」

 「え!?」

 私が聴き返すとレオンは私の耳元で言った。

 「彼は……“聖神アルカディア”に封印されたんだろ? 今、隣に居るのはその“妻”……生命の女神ルカーナ。何か……“囚われて”いるんではないだろうか?」

 レオンの声に私は はっ。とした。

 (ああ……そうか。だから、私から目を反らし、顔も見ず、他人の関係をっ!?)

 私はルシエルと、生命の女神ルカーナを見据えた。美しく白き光に包まれた女神……、微笑むその顔は……“悪意”にしか見えない。いや、私の偏見かもしれない。けど、その隣でなんだか大人しくお座りしてるルシエルにイラついたのだ。

 私は叫んでいた。

 虹色の双剣をルシエルに向けて。

 「“破滅の幻獣ルシエル”!! 何、ビビってんだ!! さっさとコッチに来いっ!!」

 私がそう怒鳴るとルカーナ、ルシエルはとても驚いた顔をした。けれども、ルシエルは

 「だよなっ!! ですよね! 瑠火は俺様が居ないと泣いちゃうもんな!!」

 と、にこやかに……いや、気持ち悪いぐらいに浮かれて猛ダッシュで私の足元に駆けつけたのだ。

 「お前……なんなの?」

 私はずっと素知らぬ顔だったルシエルが、今まさに私の足元に来て、私の右足を右手でちょいちょい。と、触れようとしてるのを見て言った。

 そして私の右足を触れて何か擦る。右足首を柔らかい肉球で擦った。

 「何!? 気持ち悪い。」

 「えぇ? 俺様の愛情表現だよ、瑠火。あ。愁弥にしか興味ないんだっけ?」

 「は?」

 私は努めて冷静に対処したつもりだったが、顔が真っ赤になるのを感じた。何故なら顔が熱くなったからだ。でも、ルシエルが言う。

 私の右足首から肉球を離して。

 「まぁいいよ。うん、愁弥なら。レオンだったら俺様は食い殺してるな。」

 ルシエルが言うと隣のレオンが

 「は?? なんで??」

 と、とても驚いていた。

 「はぁい。ではでは、ここらで纏まったので戦闘態勢で。」

リデアだった。無表情なのに、何故だろうか……、呆れて手を叩いて私達を鼓舞する彼女の顔が浮かんだ。

 そして、少し前に居る愁弥が叫んだ。

 「瑠火! お前の力が食われてる!」

 私はそれを聞いて目の前の“黒衣の花嫁”を見た、彼女はさっきまで私の放った虹色の竜巻の中で斬り裂かれ、死ぬ筈だった。けれども、彼女の周りに居る黒い炎みたいな“闇の精霊”達が、その黒い血を流している彼女を取り巻き、渦を巻く様に纏う。そして、私の力で傷つけた身体は癒やされてゆくのだ。

 「何なんだ?」

 私が言うとルシエルが言った。隣で。

 「“天敵”だから瑠火の力を抑えられる。」

私はそれを聞いてルシエルを見た。

 「それなら私はアイツには勝てないのか?」

 そう聞くとルシエルは言った。

 「だから“守護の盾ガーディアン”が居る、瑠火。お前は確かに“この地”アルティミシアの産み子。けど、万能じゃない。自然が“厄災”で、“人災”で破壊される様に。お前も“破壊される存在”。」

 私はルシエルを見た。けれど彼は黒衣の花嫁がその姿を美しく成形されてゆくのを見ていた。

 「それを護る為に……俺様たち幻獣、そして“守護の盾ガーディアン”が居る。けど、それはアルティミシアを護るってことになる。つまり、“氷憐ひれん”の様に破壊したい奴らからしたら俺様や、愁弥、瑠火は、厄介。」

 私はそれを聞き更に問う。

 「待て、ルシエル。ならばあの女神達は何なんだ? 」

 「女神達は“存在意義”を護ってるだけだ、お前が天地無双になったら困るから。いや? “アルティミシア”そのものに異議を唱え、破壊される事を恐れている。お前にはその力がある。」

 私はルシエルを見て言った。

 「“破壊神”だからか?」

 ルシエルは私を真っ直ぐと見て頷く。

 「そうだ、お前はこの世界を救えるし、破壊も出来る。そして……“絶対的神”……聖神アルカディアを殺せる存在。だから、ルカーナもレイネリスもお前に、暴走させない様に“敢えて力”を与え、敢えてその意味を教えてる。お前が力を“暴発”させない様に。けど、力は目に見えない。だから、“レイネリス”は愁弥を使った。お前の1番身近な存在だから。つまり……“生贄”だ。」

 はっ。とした。私はルシエルを見ると聞いた。

 「待て、それならルシエルお前も?」

 「………俺は違う。俺様はアルカディアの“逆鱗に触れた”、瑠火、お前とは関係ない。けど、愁弥は巻き込まれてる。今、アイツはもうこの世界に巻き込まれてる。それを救えるのはお前しか居ない。」

 私はその言葉に愁弥を見た。彼は私達に背を向け神剣を握って、黒衣の花嫁をの方を見ていた。私はルシエルを見た。

 「もし……レイネリスを裏切れば愁弥はどうなるのだ?」

 ルシエルは俯く。

 「俺様と同じだ。神ってのは我儘なんで。制裁される。この地で。」

 私はルシエルを見て言った。

 「居ないのか!? レイネリスより強い“力“を持つ神は!」

 すると、ルシエルは はっ。と、した顔をして私を見た。その紫色の瞳が輝いた。

 「居る!! “闘神ゼクノス”!! 闘いの女神レイネリスより上位の闘神!! 瑠火! “神国ミューズ”だ!!」

 ルシエルが久し振りに笑っていた。

   

  

  

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