第26話 黒衣の花嫁

 何も無い、いや……廃墟と化した“月雲つくもの民”の眠る大地。繁栄していたであろう民の居住区を支えていた石柱、建物の残骸が遺る地だ。目の前に広がるのは廃墟の残骸と緑の大地。

 私とリデアの目の前の大地は緑の草を消し去り、黒き光に覆われている。

 「構えて!!」

 隣の黒い姿のリデアは叫んだ。

私はその声に虹色の光を放つ双剣を握り締めた。

 「瑠火るか!?」

直ぐに愁弥しゅうやの声が聴こえた。けれども、隣のリデアは更に叫んだ。

 「瑠火! 護りたい者は守る! “先手必勝”よ!」

彼女は無表情だ、けれどもその声は“切迫詰まる”そんな声に聴こえた。だから、私は はっ。として、直ぐに叫んだ。

 「“虹色の光壁センスティ”!!!」

カッ!!

 私の双剣は光を放ちドーム状の虹色の光が覆う。そう、ナディア魔道館で放った守護壁だ、彼等を敵の攻撃から防いでくれる。

 それは当然、私やリデアも同じだ。

私は愁弥、困惑してる顔をしてるルシエル、そして……心配そうな顔をして私を見てる赤髪の碧の眼をした聖白の鎧ホワイトアーマーの騎士を見つめた。

 「レオン! 此処から出るな!!」

 女神レイネリスの守護を受けてる愁弥と彼は違う。騎士、つまり只の人間。だからこそ私は言った。

 何故なら女神レイネリスは愁弥の傍に居て、生命の女神ルカーナは黒狼犬……“幻獣”……破滅の幻獣ルシエルの傍に寄り添っていたのだから。

 (何なんだ………、この“女神達”は……。)

 私は個人的に庇っている。いや……“守護”しようとしているその姿に、不審感が湧いた。だからか、隣の“リデア”に問う。私の中では処理しきれなかった。

 「リデア……、女神達は……何なのだ。」

 私は聞きつつも地面から沸いて居る黒き湯気の様なモノを見据えていた。まるで地の底から這い上がって来る様な気配を感じる。

 「……瑠火。あたしもブラッドさんに聞いたばっかで、混乱してるんだけど、“あの女神達”は貴女の“敵”よ。」

 リデアは私を見ていた。知ってるインディゴブルーの瞳では無く真っ黒な瞳で。表情は解らないけど、その声は強くハッキリしていた。

 「え? 敵??」

 私が聞くと、リデアは浮いたまま。彼女は更に少し小声で言った。

 「貴女の“声”に反応したのはブラッドさんなの。それで、あたしを呼んだのよ。拷問途中のあたしを。ブラッドさんは“冥門”ダークプリズンでも“上位”の人でね、拷問は受けてないから安心して。」

 リデアの小声に私は聞き返した。

 「どーゆうこと!? だって拷問を受けてるって!」

 リデアは私の声に強い眼差しを向けた。いや、そう感じただけだ。何故なら彼女は無表情で、黒い瞳、その眼は何処を見てるか分からないのだから。口調も淡々としてて何ら感情の無い語り部みたいなのだ。でも、穏やかなリデアの口調に聴こえた。

 「ルシエルと“同位置”に居るみたいね、只、あたしを解放した後、あたしは貴女に呼ばれていたから光に包まれていて、ゆっくり話出来なかったんだけど、ブラッドさんは言ったの。“ワシは監視者”って。」

 「え??」

 私が聞くとリデアは私を見た。

 「瑠火。貴女に“監視者”として護ってくれる存在がある様に、相手にも同立ち位置、同存在が居る。それが……コイツよ!」

 リデアは言うと双剣を突き出した。

地面を黒く歪んだ湯気の様に沸かせていたその存在を。

 浮いてくる……、黒い影、靄に包まれて地から湧き出る様に。ズズズ……と、地面から頭を出した。

 黒い頭に“茨の冠”の様な物を被った頭部が見える。地面からまるで産まれた様にその身体は一気に浮き上がる。

 漆黒の薔薇の冠を着けている、“茨の冠”に形状は似ている、が枝ではなく漆黒の棘で編まれ、コサージュの様に黒薔薇が付いている。 緩やかな波打つ漆黒の髪は腰元まで。

多くの悲哀と憎悪を包む眼は漆黒の光しかない。発光した漆黒の眼。だが、顔そのものは白い肌である。黒衣の花嫁宛らに漆黒のキトン、白い両腕はキャミソールの様に肩までの長さ、その両手首には“茨の冠”の如く、黒薔薇の華と棘で巻かれた手枷。長い漆黒のキトンの足元は、白い足首が見える。此方にも手首同様、足枷の様に黒薔薇の棘が巻かれている。

 浮いたその身体は私よりも……いや、人間よりも大きい。4メートル越す幻獣達と何ら変わらぬ大きさだった。

 「アレが……“黒衣の花嫁”か?」

 私が聞くとリデアは直ぐに答えた。

 「ええ、そうよ。そして、“貴女の監視者”。」

 「は??」

私が聞き返すと、リデアは虹色の翼広げて浮く私と同目線で、私を見たのだ。黒き瞳で。

 「さっき言ったでしょう? 貴女を護る監視者の“対”。つまり、貴女を“殺そうとする存在”。瑠火、あたしは何も知らないままに殺され、いえ? 気づいていたけど何も出来ぬまま殺された。でも、それにも意味があるの。」

 リデアは私を見つめてそう言った。

 「意味?」

 「ええ、あたしをあの“冥門ダークプリズン”に送り“真実”を伝えること。つまり、貴女の本当の意味での“守護の盾ガーディアン”になること。」

 え? 私はリデアに聞き返すが、彼女は強く真っ直ぐと見つめている様に見えた。死んだ眼で感情は………解らない。でも、そう見えた。

 「瑠火、あたしはこの世界の住人。そして、“何ら囚われぬ者”、だから選ばれた。貴女と共にこの世界の“真偽”を視る為に。意味があるの。“12の護神”には。そして、あたし達“守護の盾”ガーディアンにも。存在理由と貴女を護る意味がある、だから常に傍に居る者達ばかりではない。そして……“選ぶのは貴女”なのよ。瑠火。」

 え? 私はリデアを見たが彼女は更に言った。

 「ルシエルは貴女の“ガーディアン”ではない、そして、ヘルハウンドも。」

 「えっ!?」

私はビックリしてしまった。話の流れから何となくルシエルは、私の………と、思ってしまっていたからだ。けれど、リデアは言う。

 「愁弥は危うい。」

 「え………?」

 リデアの黒い瞳が私を見つめた。そして、彼女は言う。

 「彼が“驚異”なのは、“光にも闇にも染まれる存在”だから。この世界を貴女以上に、憎み、破壊に追い詰める存在だから。それは、彼が“戦士”としての穢れなき心を持っていて、大切な存在を護りたいと常に願っているから。でも、紙一重。」

 リデアは私を見て強くハッキリと言った。

 「瑠火、貴女が止まるのは愁弥の存在。でも、それは相手も然り。忘れないで、貴女は彼にとって大切な存在。それは、元の世界に戻る為の存在とかではなくて、貴女を大切に思っているのよ。護りたいと願っている。瑠火、貴方は愛されてるの。だから、“暴走”はダメよ? 護りたいなら常に信じて。貴方をとても心配そうに見てる彼を。」

 私はその声にちらっ。と、愁弥を見た。

彼は少し後ろで私をとても心配そうな顔で見ていた。私は直ぐに、リデアに眼を向けた。

 「知りたい事が……有り過ぎる。」

 そう言うとリデアは ふふっ。と、笑ってないのに笑い声を零した。

 「いいのよ、それで。“人間”なんだもの。」

 リデアはそう言った。

けれども、私達は黒衣の花嫁を見据えた。

 ゆらっと、揺れる黒いキトン。ロッドなる物も持たず、剣の装備も無い。なのに、驚異と私は感じた。

 ふふふっ。

 彼女は笑う。リデア同様に無表情で。発光するのは黒き眼。

右手を翳す、私達に。

 「月雲つくもの姫よ……、そなたにはまだ働いて貰わねば。この世界を引掻き回し、混沌と憎悪の闇に包んで貰わねばならぬ。」

 右手に黒き光は集まる。

 キュイイイイン…………、波動。それを溜めてる光だ。

私とリデアは瞬時に構えた。

 双剣を。

 黒い発光ひた眼が私達を睨む。

 「女神など今のアルティミシアには要らぬのだよ。いや? 人間には必要だったな。けれども、お前達“月雲の民”は、創造神を……いや、この世界を創った神によりこの世界の“自然”を守護する為に産み落とされた存在。つまり……神が創造した世界を護る存在。自然……謂わば、アルティミシアそのもの。自然が無ければ生命は産まれぬ。」

 何かを言いたかったが、彼女から波動が放たれた。    

   

 

  

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