第24話 月雲の民の崩壊した地

 “生命の女神ルカーナ”が、私、愁弥、ルシエル、レオン·ギルバート、そして戦いの女神レイネリスを連れて来たのは“遺跡”だった。

 “要塞”。

 私にはそう見えた。

 広い緑多き平地に大きな檻籠の様な長方形の、白い石材で建てられた神殿がある。それは巨大だ。

 その周囲を囲む様に同様の白い石材で建てられたであろう建築物の残骸が見えたのだ。広大な平地の中心に聳え立つ白き神殿は、少し柱などに亀裂や、欠損は見えるが健在。けれども、周囲の建造物達は崩壊していた。建物自体が崩壊してる物ばかりで、石材の塊ばかりが、大地に広がっていた。

 それらを私の隣で眺めていた愁弥が言った。ぼそっ。と。

 「……“ドーリア式”………。」

 「え??」

 私は驚き愁弥を見た。彼はそのライトブラウンの瞳を、丸くし崩落してるこの緑の大地を眺めていた。

 けれども言った。私を見る事なく。驚いた様に。

 「………あの、倒れてる柱だ。あれは……“ドーリア式”ってやつで……、装飾もされてる……、柱に女神像………、つまり? この世界はガチで……並行してんのか。」

 呟くと言うか、何だか独り言みたいに聴こえたけど、私は心配になり、愁弥を見た。

 「愁弥? どーゆうこと??」

 私は彼の右腕を掴んだ。愁弥はとても驚いた様な顔をしたまま、言った。

 「ドーリア式は……時代の流れで、装飾が増えて柱に“女神”などを彫った………。」

 彼は緑の大地に転がる円柱たちを眺めて言ったのだ。そう、とても美しく健在なのは大きな神殿だけで後は雑草に囲まれた、緑の大地に石塊を転がしているだけ。

 大きな白い石の円柱が、雑草の中に沈んでいるのを見ながら、彼は言う

 「並行した世界…………“神”…………。“女神”…………、“信仰”………。」

 「え? 愁弥!?」

 心配になった。余りにも彼が、崩壊した女神像の彫られた白い石材の円柱を……只、1点集中の様に見ていたから。

 けれども彼は私を見た。真っ直ぐと。

 「瑠火、並行してんのは間違いねぇ、けど、“同じ”じゃねえ。俺らは“時間”を辿ってるが、同じ“世界”を過ごしてるワケじゃない。」

 酷く真剣な顔をして、彼は言った。え? と、私は聞き返した、けれども、彼は言った。とても、真剣な顔で。

 「いいか? 瑠火、俺らは“囚われてる”だけだ。それも、何かわかんねぇこの“世界”のエグい力に。」

 「え?何??」

 私は驚いてしまって……正直、愁弥がパニックになってると思った。でも、彼は言う。

 「思い込みだ。俺らはこの“アルティミシア”に囚われて、思い込まされてる。“逃げ道”はねぇと。生きる道は“1つ”しかねぇと。並行……、今更になって俺に言うのは……。」

 愁弥は私を強く見据えた。

 「俺が“アルティミシア”にとって、脅威で……阻止してぇからの一種の“脅迫”。解るか? 俺にとっての“弱点”は、俺の“住んでた世界”。つまり……並行してる何も知らねぇ世界。」

 私は……驚いてしまって、、、彼を見上げるだけだった。

 「……弱点? 脅迫? 愁弥、何? どーゆうこと??」

私が聞くと、珍しく愁弥が私の手を掴み、怒鳴った。

 「瑠火!聞けっ!!」

 ビクッと、、、私の肩はわかり易く跳ね上がった。ちらっ。と、何故か……愁弥の後ろに立つ、黒い狼犬……ルシエルの悲しそうな紫の眼が見えた。

 「ルシ……」

 ルシエル! 何か知ってるのか!? と、怒鳴ろうとした私の言葉、いや……全てを愁弥は遮った。

 「俺を“コッチ”アルティミシアに呼べるってことは、逆も然り。意味……解るよな?」

 愁弥は私を真っ直ぐ見つめて……私の右手を握り締めた。

 「え………?」

 私の思考回路は……止まってた。けれど、彼は言う。

 「瑠火! 俺は別に自分がどーなろうとそんなのはどうでもいい! けど! 俺にも“仲間、ダチ”ってのが居る。俺の生きて来た世界に! 何も知らねぇ奴等が、この世界の“力”で襲われたら死ぬしかねぇんだ!」

あ………。私の思考はようやく………回転した。

 (……しっかりしろ!! 瑠火!)

 奮い立たせた。今、目の前で現実を突きつけられてそれでもどうにかしようと考えてるこの人の為に。

 (…………ブラッドさん…………。)

 何故かドワーフの赤髪のおじさんが頭に浮かんだ。

 (………貴方は……私達の為に……いや、私の為に……“漆黒の拷問”の世界に堕ちた……。それは護ろうとしてくれたからだ、愁弥も今、“護ろう”としてる。ならば、私は………。)

 私は愁弥を見た。

 彼はとても真剣な顔で私を見ていた。

 「解った。考えよう、そして救おう。愁弥の大切な人達を。」

 そう言うと、愁弥は ほっ。とした様な顔をしていた。

 

 私は……虹色の光に包まれる双剣を握っていた。敵も居ない……只の廃墟。

それを見据えていた。


 

 (ふざけるなよ…………、私の大切な人達………、いや……“愁弥”を、苦しめる者達………、殺してやる。)

 

 私の身体はーー、虹色の光に包まれた。

  けれども、

 『瑠火!! 待ちなさい! 』

 声が聴こえた。そう、生命の女神ルカーナの。

 『瑠火! 愁弥! 止めなさいっ!』

戦いの女神レイネリスの。

 でも。

 

 私は叫んでいた!!

 

 「“冥門の華 リデア”!!!」

 

 


  

 

 

 

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