第23話 生命の女神ルカーナ

 瑠火達の居るナディア魔道学士館は、“絶海の孤島”に聳える塔だ。陸地から離れ荒れ狂う海の上に位置する。魔道学士館は、“禁戎きんかい”に囲まれ何人なんぴとたりとも近寄れない。呪門により護られそれを解除せねば、中には進めない。それを解除出来るのは、ナディアの魔道士である。

 だが、その“禁戒”も今は消滅しており、本来なら“騎士団長 レオン·ギルバート”の“合図”で乗り込む筈であった。“ハーレイ騎士団”は、その合図を待たずして“上陸”を決行した。来航した“軍船❨バトルシップ❩”に乗り込んで。

 決行したのは、レオン·ギルバートの竹馬の友であり戦友、同志である“騎士団副団長 ザック·アイオリス”であった。 

 空は紅い月が浮かぶ闇の帳に包まれている頃、つまり深夜であった。

 

 ✢✢✢✢✢✢

 「俺が……“覚醒”ってなんだ? レイちゃん。」

 愁弥は蒼き光放ち片膝つく“戦いの女神レイネリス”に、言葉を発していた。私も混乱していた。

 “戦いの女神レイネリス”は、蒼く煌めく発光体だ。その体格は今は私達と何ら変わらない、私よりも背が高いぐらいだ。彼女は“キトン”と呼ばれる衣服を纏ってる。が、本来なら脚は隠れてるのだが、❨私が知らないだけかも知れないけど❩この女神様は太腿全開のナマ脚だ。

 ミニスカと言うらしい。❨愁弥に聞いた❩足元は膝下からの長さがある、グラディエーターサンダルを履いている。

 これは主に“革製”だと聞いた。が、女神が履くサンダルだ。普通の獣の革ではないだろう。

 「愁弥……、そなたはこの“月雲の姫”、瑠火を護る為にこの地に“召喚”されたのだ。月雲の統治者である“白雲村長”によって。」

 レイネリスは言うと立ち上がった。

 「は??」

 聞き返したのは愁弥だ。

 「“召喚”?」

私も聞き返していた、驚いたからだ。けれども、レイネリスは蒼く煌めく眼で私達を見た。

 「その言葉が合ってるかどうかは定かではない、が、知ってる“言語”で説明するならソレが正解なのでは? と、思って言ってるだけだ。」

 私はいつの間にか……翼を広げたまま、愁弥の隣に降り立っていた。彼の脇で地面に足が着いていたのだ。

 だから、愁弥のライトブラウンの瞳とぶつかった。

 「ちょい待て、レイちゃん。つまり俺はこの世界に召喚された“召喚獣”ってハナシ??」

 愁弥からそんな言葉が出たんだ。

 「えっ!?」

 私は彼を思いっきりガン見していた。けれども、レイネリスは言った。

 「いや……さっきも言ったが、召喚されたと言う表現が合ってる様に思えただけだ。ルカーナ様、そうですよね?」

 レイネリスは私を見たんだ。すると、頭の中に中性的な声が響く。

 『レイネリス……憶測、推測で“民”を困惑させてはならぬ。特に…そなたらの“言葉”は力がある。物申すのも慎重に。』

 「……御意。」

 レイネリスは俯き、只1言そう発しただけだった。その後で響く。

 『どうやら……そなたらは、私が思うより現実を深く重く受け止めている様子。目前の“天敵”よりも己の“存在理由”に疑念を抱いているのだな。』

 “生命の女神ルカーナ”はそういった。すると、彼女は言った。

 『戦士ブラッドがそうであった様に。』

 「えっ!?」

私は聞き返した。が、中性的な生命の女神ルカーナの声が響く。それは、落ち着いていて優しく語りかける様なものだった。

 『暫し……待ちなさい。そなたらにはどうやら“説明”が必要な様子……、ブラッドが私の元に“来た理由”は、どうやらソレの様だな。相分かった。』

 少し……経った頃、私達の居る塔のフロアに白き光の雨が降り注いだ。

 「えっ!?」

 「は? 何だ??」

 隣では愁弥も目を見開き叫んでいた。けれども、ルカーナの声は頭の中に響く。

 『この空間に居る貴女達以外の“生命の刻”を暫く止めます。レイネリス、私に“貸し”なさい。貴女の“生命”❨魂の力❩を。』

 その声に美しき女神レイネリスは、はっ。とした顔をした。

 「どうゆう……」

 意味だ? と、聞こうとしたけれども、私達は光に包まれた。

それは、眩い蒼白い閃光だった。

 何処からかは解らない、只、目の前が閃光に包まれた。

 「瑠火!」

愁弥の声が聞こえて、私の肩は彼に抱き寄せられていた。

 『“生命空間移動”ヴィオスムーダ。』

 中性的な声が聴こえたのちに、私達は蒼い光と、白い光に包まれていた。そして……私達は辿り着くのだ。

 “目的”としていた……“遺跡”に。 

 

 ✢✢✢✢✢✢

 

 光に包まれて目を閉じていたが、それとはまた違う眩い光。それを感じて私は目を開けた。

 「えっ!?」

瞬時に驚く。目の前に広がるのは遺跡の廃墟。

 「な……何??」

 灰色の大きな石柱が破損していて、地に倒れている。それらが守っていたであろう神殿は、倒壊はしていないが崩れ落ちていて、壁もなくまるで“檻籠”の様に建っていた。

 「………ギリシャ……。」

 隣の愁弥がぼそっ。と、言った。私は え? と、彼を見上げた。彼は目の前を見て驚いた様な顔をしていた。

 「や……授業でやったんだわ、“ギリシャ建築”。それにすっげ似てるんで。」

 彼は驚いた様な顔をしていた。

 「……ギリシャ?」

 私が聞くと愁弥は頭を抱えた。そして、独り言の様に言い出した。

 「可怪しいとは思ってた……、似てる事ばっかで。けど……別世界……、そう思ってた。でもこれは……似てるとかじゃねぇ、ギリシャ建築、ギリシャの遺産そのもの。」

 愁弥は私を見た。

 「え? 何?」

 「解かんねぇ……けど、この世界と“俺ら”の世界は、別モンじゃねぇのかと。」

 真っ直ぐと彼は私を見て言った。

 「え?」

私は驚いたが、直ぐに中性的な声は響く。

 『守護の盾“ガーディアンの戦士、そなたらの住む世界、我等のアルティミシアは“並行”している。』

 「は?」

 愁弥は目を丸くしていた。

 (並行? どうゆう事だ?)

 私は思うが、ルカーナは言う。

 『愁弥の住む世界、アルティミシアは同じ刻を過ごしている、が、出逢うことは無い本来なら。それは、アルティミシアが“宇宙生命体”では無く、“時空を彷徨う世界”だからだ。』

 ルカーナの言葉に私と愁弥は顔を見合わせた。

けれども、ルカーナは言った。

 『それが“異世界”。つまり、宇宙……常識で捉えられぬ“世界”。それがアルティミシア。』

 すると、愁弥は言った。

 「あー…つまり? 俺はとんでもねぇ腐った世界に呼ばれた戦士なワケだ。」

 彼は何故か………蒼く光る神剣を握り締めていた。

 『愁弥、落ち着け。私は何もそなたを攻撃してる訳ではない、聞いて欲しい、と言うよりも………“ブラッド”……、あの者の“意志”、それを知りたいだけだ。』

 中性的なルカーナの声は響いた。けれども、何処か悲しそうに聴こえた。だから、私は聞いた。

 「生命の女神ルカーナ、ブラッドさんは無事なのか!?」

 すると、彼女の声は止まって……少し経ってから発せられた。

 『無事と言うのは解らぬが……。』

 ルカーナの困惑した様な声に私は怒鳴った。

 「ふざけんなっ!! お前は統治者だろうっ!? 知らぬワケがないっ!! ブラッドさんは無事なのかっ!!」

 冥門での拷問………、それを受けているのではないかと、私は不安に駆られていたのだ。

 『瑠火……彼はそれを望んで出向いたのだ。そなたが、“破壊神”だと知り、己も無知者だと知り……私の元に救いを求めて“生命”を散らしたのだ。全てはこの世界に“混沌と悲哀”を齎さぬ為に。』 


 私と愁弥は顔を見合わせた。

 

   

  

  

 

 

 

 

 

 

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