第22話 声
「ルシエル……。」
私は黒い狼犬を見つめた。更に、自身のこの虹色の光放つ双剣も。
(つまり、私が覚醒した事でルシエルは曖昧な記憶を取り戻した。そう、私が発した言葉で、彼の眠れる記憶が。)
私は項垂れながら、その大きな背中を愁弥に撫でられるルシエルを見つめた。
(だが何故? 私はルシエルと出逢ったのはあの樹氷の島。それも、私は欲しい幻獣と間違えてコイツを目覚めさせてしまった。そもそも、ルシエルをあの樹氷の島に封印した理由は何だ? ルシエルを封印したのは、“聖神アルカディア”……、ルシエルの居た“
私は虹色の光の放つ双剣を見つめた。
(そもそも。聖神アルカディアは“
私はこの時……何かとても恐ろしく感じた。今迄、何も疑問に思って来なかった事。それが頭に浮かんでいたからだ。
氷憐は言った、私を何も知らぬ者だと。
(私はまだ“覚醒途中”?……そもそも、覚醒とは何か? 私は村長に言われてそう思ってるだけで、今の所何かを……そう、深い何かを思い出してる訳ではない。それに、この両翼だって意味が解らない。村長が言ってた言葉を信用してるだけ。)
混乱でしかなかった。けれども、声は聞こえる。
「お仲間との懐かしい談笑の時間は終わったか? 感謝しろよ? 待っててやったんだからな。」
氷憐の声だった。
はっ。と、私はその声に愁弥を見た。彼はルシエルの傍に居る。ちらっと後ろを見ればレオンが居る。ぎゅっ。私は構えた。レオンの前に降り立った。
氷憐の真紅の眼が光る。更に黄金の光放つ長剣が、私達に向けられた。
「瑠火。お前達の話を聞いてて1つ思った事がある。」
「何だ?」
私は見据える、同じ真紅の眼を。
「無知とは恐ろしいモノだとな。何も知らず、只生きて来ただけの“人形”。お前もそこの幻獣も力はあるが知識はゼロ。つまり、“価値”がねぇ。」
氷憐の向けられる黄金の剣全体に、バチバチっ…と、黒い稲光が纏う。更に黒い靄の様な力も。
「レオン! 私の後ろにいろ! ルシエル! 愁弥を護れ!」
私は叫んでいた。
「アイアイサー!!」
ルシエルは良く解らない返事をして、ワォォン! と、吠えていた。
「だが、瑠火殿!」
レオンは光る
「いや、奴の力は底知れない。私でも解らないんだ。」
私はレオンから黄金の騎士氷憐に目を向けた。
「そして私自身も。」
ポゥ。
はっ。とした。私の両手に握られた双剣が虹色の光を放っていたからだ。
(まただ。何か“シグナル”なのか? それとも“危険察知能力”に近いのか?)
さっきも突然、この双剣は光を発し頭の中に声が響いた。女性なのか男性なのか解らない……そう、中性的な声だった。
でも、その声で私は氷憐の両腕を切り裂く剣刃を放ったんだ。
(やはりこの光は私の……“覚醒”と何か通じるモノがあるのかもしれない。そう……“潜在能力”。)
私は虹色の光を放つ双剣を握り締め、氷憐を見据えた。
(後手に回るが仕方ない、アイツの力を知らなければならない。この目に焼き付けなければ、何も守れない。)
私は敢えて彼の力を見る。を、選択した。
「“
氷憐が私達に向けた黄金の剣の刃に、黒い螺旋が巻き付き、大きく渦を巻く様に拡大する。それは竜巻程度に拡大し噴射する様に私達に向かってくる。
だが、只の黒い竜巻ではなく蠢く黒い12の蛇の頭だったのだ。蛇の頭が竜巻の様に旋回して突っ込んでくるのだ。
(デカい! まるで龍の頭だ!)
1頭、1頭の頭が大きいのだ。
「何だアレっ!? 剣術なのかっ!?」
愁弥の声だった。異様なのだ。蛇は頭しかないが、そのデカさは龍の頭と匹敵する。それらが固まりぐるぐると螺旋描き、私達に向かってくるのだ。
「愁弥! 退がれっ!! 俺様の後ろにいろっ!」
ルシエルが前屈姿勢で怒鳴った。
カッ! その時だった。私の双剣が正に今だ。と、言わんばかりに虹色の光を強く放った。そして聴こえる。中性的な声が。
『暫く、力の使い方を教えます、貴女はまだ“完全体”でない。』
「えっ!?」
驚いてみたものの、何処かでやはりな。と、思っていた。謎だらけだからだ。私は従うことにした。無知は愚かで無力だから。
「お願いする。」
答えていた。
『宜しい、叫びなさい。“
中性的なその声に導かれ、私は虹色の光に包まれる双剣を向かってくる、巨大な黒い蛇頭の竜巻に向けた。
「
カッ!!
虹色の光が双剣から放たれ私達の周りを包む。それは虹色の光のドームになった。そう。私達をドームが覆った。
螺旋描きながら突っ込んでくる12の蛇の頭達は、ドームを前にして巨大な口を開いた。鋭い白い牙が口の両端に見え、勢揃いでドームに喰いつこうと噛み付いて来たんだ。
けれども虹色の光のドームに直撃し、それらは弾き飛ばされた。
『この力は本来なら相手の能力を消滅させるモノ。だが、貴女はまだ不完全体。今は跳ね返す事しか出来ない。』
中性的な声は、私の頭の中に直接話しかけているみたいに聴こえる。
「ではどうすれば?」
『仲間を護る為に使う力なのは変わりません、だから攻撃するしかない。宜しいか? 双剣を握り構えなさい。』
私はその声に従い双剣を握る。虹色の光は未だ発光していた。
「少し待って貰っていいか? 私がここから消えたら、このドームも消えるのか? それは困るのだが。」
私は聞いた。何故なら敵はあの黒蛇頭では無いからだ。
『安心なさい。貴女は“解除”してない。力を消したければ解除すればいいだけ。』
私は はっ。とした。
「月雲の術は使えるのか? ああ……“守護の盾”は使えたな、それと“
(どうにも無知だの何だの言われると、不安になるな。)
私が聞くと中性的な声は響いた。
『安心なさい。使えます。それも貴女が“完全体”に近くなればなる程、その強度は強くなり、範囲は拡大します。つまり、自動的にパワーアップします。』
「は??」
私が聞くと声が聞こえた。
「瑠火?? さっきからずっと独り言ゆーてっけど、大丈夫か? それに、この力は何だ??」
驚いた。両翼で浮く私の足元に愁弥が居た。それに、見渡せばレオン、ルシエルも心配そうに見ていた。そして……いつの間にか、ルシエルの傍には蒼き美しい戦いの女神“レイネリス”の姿もあった。
『宜しい。“
「は?? 何?? レイちゃんみてーだな、 頭の中に聞こえてくっけど!?」
「俺にも聞こえます。瑠火殿、これは一体。」
はっ。として振り返ると、レオンも右耳抑えて首を傾げていた。
「瑠火!! “ルカーナ”だ!! 俺様にも聴こえた! 生命の女神ルカーナだ!!」
ルシエルだったんだ、そう言ったのは。
「ルカーナ様? 本当に?」
レイネリスが驚いてそう言った。中性的な声は実体は無い。声だけ、私達の頭に響いている様だ。
『レイネリス。良くぞ、守護してくれましたね? 大切な戦士を。』
中性的な声にレイネリスは、おお。と、驚き、その場に片膝立ててしゃがんだ。その頭を私の方に下げて。
「ルカーナ様。滅相も御座いません、愁弥は私にとっても大切な戦士です。まだこの者も”覚醒“しておりませぬが。」
「「「は??」」」
レイネリスの声に私達は声を上げていた。
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