第21話 破滅の幻獣ルシエル

 (何? なにが起きた??)

 

 隣でガルル……前屈姿勢で唸るルシエルがいる。目の前の“完全復元”された白銀のユニコーンを睨んでいる。非常に悔しそうだ。 

 

 (いや。)

 

 「「お前は何モンだっ!?」」

 

 私と愁弥の声が久々にコラボした。

 

 「へ??」

 

 ルシエルは大きな頭を横に傾げたのだ。すっとぼけてるのは直ぐに解った。なので、私は右手にバチバチッと、稲光を放った。すると……効果は覿面。ルシエルは うへっ! と、途轍もなく焦った顔をしたんだ。

 

 「わぁっ! 待て待て待てっ! 待てっ!! おすわりっ!!」

 

 ルシエルが吠える様に怒鳴ったのだ。

 

 「「おすわりはテメーだっ!!」」

 

 またもや、私と愁弥の声はとっても美しく調和した。うん、高音、低音いい感じ♪

 

 いや、ふざけてる場合ではない。

 

 「ルシエル、あの暗黒騎士みたいのは何? なんか“俺様が解放”するとか喚いてたよな?」

 

 私が聞くと ぐぬぅ。と、ルシエルは頭をわかり易く擡げ項垂れたのだ。けれど、ちらっ。と、紫の眼で私を見た。

 

 「あのさぁ……キレない?」

 「は??」


私が聞くとルシエルは、少し紫の眼をうるる。と、させたのだ。何だか叱られる前の子供みたいな表情になった。

 

 「え? 何なの? 不気味なんだけど。」

 「つか、キショい。あ? ルシエル、お前そんなキャラじゃねぇよな?」

 

 私が言うと愁弥も便乗したのだ。だが、ルシエルはうるうる。と、瞳潤わせ言ったのだ。

 

 「雷。」

 「「は??」」

 

私と愁弥が聞き返すと、ルシエルは言った。

 

 「イタイのよ、、、アレ。うん。アレやめてくれんなら話す。」

 

 ルシエルは大きな黒狼犬だ。それが“おしおき”をとても恐がっている。本来なら可哀想。と、思う所だが私は違う。

 

 「話さないならやるけど? おしおき。」

 

バチバチっ。と、右手に稲光を出した。

 

ぶるぶるっ! と、ルシエルは大きな頭を横に振った。

 

 「解った! わぁかりましたぁ、話しますって!」

 

 ルシエルは観念した様に言うと、ふぅ。息を吐き真剣な顔になった。私と愁弥を見て話を始めた。

 

 「本当は……“月雲つくもの地”……、眠れる地に行ってから話をする筈だった。今はもう“遺跡”になった地で。」

 

 ルシエルは少し遠い目をしていた。

 

 「俺様は“冥門ダークプリズン”の管理者だ。」

 「は?? 冥門ダークプリズンっ!?」

 

 私が聞き返すと愁弥が言った。

 

冥門ダークプリズンって……第2の地獄みてぇな場所だよな? 確か……“獄門の島プリズンゲート”の次の地獄だっけ?」

 

 私はそれを聞き愁弥を見た。

 

 「え? なんでそんな事を知ってるんだ? 私ですらぼんやりとしか知らない世界なのに。」

 

 あー…と、愁弥は相槌打ち言った。

 

 「なんつーか、聞いたハナシとかを勝手に纏めてるとこもある、けど……ルシエル、そうだよな?」

 

 愁弥はルシエルを見て聞いていた。

 

 

 ルシエルは軽く頷いた。

 

 「8割正解。」

 「は?」

 

彼の言葉に愁弥は聞き返した。ルシエルは更に言う。

 

 「獄門の島プリズンゲートは、神々、神族の逝き着く地獄だ。冥門ダークプリズンは、このアルティミシアで罪を犯した人間、多種族❨神々、神族以外❩が逝き着く地獄。それが第2の地獄と言われる所以だな。」

 

 ルシエルは はぁ。と、溜息ついた。大きな黒い毛ふさふさの頭を下げた。項垂れる様に。

 

 「アルティミシアを創造したのは神。“聖神アルカディア”、そしてそれを護る為に創られたのが、アルカディアの妻“生命の女神ルカーナ”、彼女はその他に“12の護神”を創造した。アルカディアが“2面神”。つまり“聖神と破壊神を司る2面神”だったからだ。その力を抑える為に12の護神の“力”を凝縮させたのが“神器”。奴等の“魂の源”だ。」

 

 ルシエルが言うと愁弥は首を傾げた。 ん? と。そして彼は言った。

 

 「ルシエル待て、お前さぁ…“海王神アプサリュート”の聖地で、アルカディアが2面神って知らなかったよな? 何で知ってんの? あ? お前…忘却スキルでも持ってんの?」

 

 愁弥の眼がギラつく。と言うより……ガン飛ばしてる。

 

 ルシエルはそれを聞くと目ン玉ひん剥いて怒鳴った。吠える様に。

 

 「瑠火だ!!」

 「は?? 私っ!?」

 

 いきなり飛び火来てビックリした。

 

 「あ? 瑠火が何? つか、瑠火は関係ねぇだろ。お前ナメてんの?」

 

 ずいっ。と、愁弥が私の前に出たのでソッチにもビックリだ。

 

 「ちょ! 待て! 落ち着け!」

 「は? コイツ騙してたんじゃねぇのっ!? ずっと!」

 

 愁弥は頭にかぁぁっと、血が昇ってるのかルシエルを睨んで、最早、戦闘態勢だ。

 

 けれど、ルシエルが言った。

 

 「違う! 瑠火が破壊神メシア、って言った時に急に思い出したんだ! 冥門ダークプリズンの管理者だった事も!」

 

 それは、、、怒りにも似た怒鳴り声だった。

 

 「えっ? 」

 

 私は眼を見開く。

 

 ルシエルは頭をぶんぶんっ。と、横に振った。彼は私と愁弥を見据えて言った。何かを払拭し、何かを強く思い出す様な仕草に見えた。

 

 「俺様を封印したのは“聖神アルカディア”それは多分、間違いない。見た訳じゃない、だがあの“白い光”、それに空が金色に光輝いた。だから、そう思ってるだけだ。」

 

 ルシエルは項垂れた。

はぁ。と、溜息ついた。

 

 「ルシエル?」

 

 私は心配になった。ここ迄、彼が落胆するのは珍しいので。それは愁弥も同じだったらしく、彼はルシエルの傍に歩み寄り、彼の大きな背中を撫でて顔を覗きこんでいた。

 

 「ルシエル? 大丈夫か? 」

 

 ルシエルはその声に安堵した様に言った。繰言の様な口調で。

 

 「翻弄されてる、瑠火……愁弥、俺様も……そして、ヘルハウンド、ダークカルマ……、ミント……カリンも。」

 

 そう言ってからルシエルは意を決した様に頭を上げた。私を真っ直ぐ見て言った。

 

 「“暗黒の騎士ネメシスナイト”は、冥門ダークプリズンに堕とされた“人間の騎士”の魂達。それが集まり“1つの生命体”になった。冥門ダークプリズンは、暗く沈んだ世界。闇しか無い、堕ちた魂は活力、意志、全てを奪われ只、残酷な拷問を繰り返される毎日を過ごすだけだ。」

 

 ルシエルは更に言う。

 

「なのに意志が誕生した。その生命体の1つが、あの“暗黒の騎士ネメシスナイト”だ。俺様はルカーナに頼まれてその“要因”を調査してるとこだった。だが、“アストニア大戦”が起きた、俺様は流れで参戦し“違和感”を感じて、戦争を終結させようとして大陸2つ滅ぼした。結果、“俺様は“封印”された。」

 

 私と愁弥は自然だった。顔を見合わせていた。

愁弥は聞いた。 

 

 「それって……今迄の流れから行くと? ルシエル、お前のやろうとした事を“邪魔”したって事だよな?」

 

 ルシエルは頭を擡げ ぶんぶんっ。と、その頭を横に振った。

 

 「解らぬっ。只、俺様が“暗黒の騎士ネメシスナイト”をこの地に召喚出来たのは、“管理者”としての力が残ってるからだ。俺様は“管理者”だ、奴等の“力”を解放も出来るし、逆に制御も出来る。」

 

 ルシエルは頭を上げて私を見た。

 

 「つまり、この地に暗黒の騎士ネメシスナイトを呼べたこと、俺様が封印されてる間も、まだ冥門ダークプリズンの統治者は代わって無いと言うこと。“生命の女神ルカーナ”が健在だと言うこと。それしか解らぬ。」

 

 ルシエルは真っ直ぐと私を見てた。紫色の眼はとても強く煌めいていた。

 

 

 

   

 

 

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