第20話 天敵同士の戦い

  ルシエルは直ぐに前屈姿勢で、口に光を集めた。

 黒い光を集中させた。吠える様に口を開きながら。それを見て、白銀のユニコーンも長い角に光を集中させた。

 

 それは白い光だった。ルシエルの黒い光とは反する真逆の光。彼女の角に白い光は集まる。

 

 キュアアアアア。

 

 波動を放つ前触れ。力を蓄える様に。

 ルシエルの口元も同じだ。黒い光が集まる。

 

 それは同時にまた放たれる。

 

 「聖護の波動アスキュリア!!」

 「破滅の波動ネメシスクライ!!」

 

 けれども、やはり互角!

 

 「うわっ!」

 愁弥、そして

 「くっ!」

 レオンの声が聞こえた。

 

 攻撃されてる訳ではない、爆風、旋風が襲うのだ。私は彼等の前に浮き、それ等を跳ね返していた。

 

 カッ!!

 

 虹色の光が私を覆う。解る……、全身が熱い。焼ける程ではない。カッとなった時の熱さだ。けれども、彼等を襲う旋風、光それらを……跳ね返していたんだ。

 

 (何?? なんなの!?)

 

 最早解らない。自分の力が。

 

 でも、跳ね返したことでルシエル、ユニコーンの戦況は見れた。ルシエルは、酷く悔しそうな顔をしていた。更に彼はボヤいた。

 

 「クソ。今のままじゃダメだ。“俺様は勝てぬ”。」

 

 ルシエルが珍しくボヤいたんだ。

 

 でも、それは解った。目の前のユニコーンは、白銀の鬣をふわぁさっと靡かせ、頭を少しふった。

 

 そして見据える、私達を。蒼い眼が。

 

 「ふふっ。古の民の姫、そして破滅の幻獣ルシエル……名を聞いた時は、少しばかり焦ったが……やはり“緊縛”には勝てなかった様子。お主……未だ力を抑えつけられておるのだろう?」

 

 ユニコーンは言う。獣だ、その表情が赤ら様に解る訳がない。でも、解った。ルシエルを見て嘲笑ったのだ。

 

 「は? お前!」

 

 グルルル……

 

 ルシエルは頭を下げ前屈姿勢で、彼女を睨みつけた、その紫の眼で。

 

 「何者だ!?」

 

 彼は怒鳴った。低い声で、唸る様に。

 

 ユニコーンは笑う。ふふっ。と。

 

 「“聖神アルカディア様”からの遣いだよ。わかり易く言えば。」

 「あ"? 聖神アルカディア!?」

 

 ここで、怒鳴ったのは愁弥だった。ユニコーンの蒼い眼は、愁弥に向く。

 

 「ふっ。解ることだろ? これだけ欠片ピースが揃えられていれば。氷憐殿が言う通り、そなたらは何も知らぬ“無知者”。つまり、生きてる価値が無い者たち。この世界に不必要な存在。」

 

 私はユニコーンを見据えた。

 

 けれども彼女は続けた。

 

「死ぬべき存在。だけれども? 何故か“力”はある。邪魔なんだよ。無知なのに力がある存在は、いつしか脅威になる!!」

 

 ユニコーンはそう言うと全身に白い光を集め始めた。

 

 ゴォォオォ!!

 

 彼女の全身を白い光の旋風が巻き起こる。

 

 (何かヤバいのが来る!)

 私は咄嗟に双剣を握り、力を込めた。私の双剣は虹色の光を集め始めた。力を集中させる様に。

 

 ユニコーンは私達を見て叫んだ。蒼い眼が煌めいた。

 

 「聖護の没落バラミア!!」

 

 白い光の旋風は正に竜巻。それが向かって来る。けれども、只の竜巻ではない、アレに捕らえられればこの身体は、切り裂かれバラバラにされるであろう。

 

 私は咄嗟に叫んだ。

 

 「“守護の盾”!!」

 

 これは、私達の前に大きな白い盾が出現し、敵の力を遮り跳ね返してくれる力だ。本来ならば。

 

 バチッ…バチッ…

 

 私の両腕に白い光の稲妻が走る。

 

 (くっ。強い! 抑えられない!)

 

 反動は私の身体に伝わる。抑えきれない、それを知った。彼女の旋風を受け止め凌いでいる白き盾に、ピシッと亀裂が走る。

 

 (ここで負ければ……愁弥……レオンが……そして…)

 

 私は隣のルシエルを見た。けれども、彼は前屈姿勢で、大口開けて黒い光を一点集中の様に集めていた。

 

 そしてーー、放った。

 

 「破滅の騎士ネメシスナイト!!」

 

 「えっ!?」

 私も驚いたが、

 「は!?」

 後ろの愁弥も驚きの声をあげていた。

 

 ユニコーンの背後に大きな黒い騎士が立っていたのだ。黒の全身鎧……そして大剣。それを振り上げて。

 

 「“ルディ”!!」

 

 それは氷憐の声だった。けれども、はっ。としたユニコーンの前に、ルシエルが怒鳴った。

 

 「殺れ!! ネメシスナイト! 俺様が解放する!!」

 

 それを聞いた黒い騎士は、振り上げた大剣を背後からユニコーンに、振り降ろした。

 

 「暗黙の地サイレント!」

 

 ズバッ!!

 

 と、、、、彼の大きな身体から振り降ろされる大剣が、白銀のユニコーンを真っ二つに切り裂いた。

 

 きゃああぁああっ!!

 

 悲鳴が聴こえる。

 

 ユニコーンの身体が切り裂かれる。けれども、私達の前には彼女が放った竜巻が襲って来ている。ルシエルは叫んだ。

 

 「吹き飛ばせ!! ネメシスナイト!!」

 

 その声で彼……いや、暗黒の騎士の大剣は、私達の目の前の竜巻を切り裂いた。そう、薙ぎ払ったのだ。

 

 ズバァッ!!

 

 剣刃が旋風が…吹き荒れる。

 

 「うわ!」

 

 両翼持つ私ですら吹き飛ばされて、その身体は愁弥が支えてくれた。

 

 「瑠火!」

 

 声が聴こえて、目を瞠る。目の前でユニコーンが放った竜巻は消滅。その代わりに、突風が襲う。

 

 (何?? 待て! これはルシエルの力なのかっ!?)

 

 突風の中で私は大剣を払う漆黒の騎士を見た。大柄で、そう、幻獣並みの大きさだ。人間とは異なる体格。ルシエルと、全長で言えば同じかもしれない。

 

 全身鎧、フルフェイス……眼すらも良く解らぬ騎士。けれど、彼はその黒い大剣でユニコーンを切り裂いた。

 

 氷憐の声が聞こえた。

 

 「生命復元リプセプト!!」

 

 真っ二つに切り裂かれた筈のユニコーンの、身体は氷憐の声で光に包まれ、瞬時に復元される。何ら変わらぬユニコーンの姿に。

 

 ぐぬぅ。前足を床に踏んじばりルシエルは唸る。

 

 「クソっ! 一撃必殺さえ出来れば!!」

 

 彼は悔しそうな顔をして、復元したユニコーンを睨んでいた。

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