第19話 月雲の生き残り

 目の前に居るのは黄金の全身鎧を着た“氷憐ひれん”。私と同じ真紅の眼、黒髪をした青年。“月雲の里の民”だ。

 

 けれど、彼はやはりこうして対面すると“異種”だ。禍々しい黒い光に全身包まれていて、持っている“武器”も長剣だ。私達、月雲の民は“小刀、短剣❨各々、使い易い様に土職人ドワーフに作成して貰う❩”を好んで使う。

 

 それは何故か、私達の民は“戦争”、“戦”で言う所、撹乱部隊だからだ。疾風の如く先陣切り敵陣を撹乱し、特異な力で戦意喪失させる事が目的の“特攻隊”。

 

 更に、私達は“諜報部隊”でもあった。敵陣の情報を探る“スパイ”❨愁弥しゅうやに聞いた。❩愁弥は……“忍びか?”って言ってたな。良く解らんけども。

 

 故に戦争では重宝され“月雲の民が陣に居れば勝てる”そう言われ崇められて来た。けれども。

 

 「氷憐、私はお前を救ったことを激しく後悔している、あの時、何もかもを喪失したお前を介抱しなければ良かったと、今は心底思っている。」

 

 私がそう言うと黒髪を掻きあげ、氷憐は笑った。冷たく氷る様な眼を私に向けながら。

 

 「俺は感謝してる、お陰でお前らの“チカラ”とやらを失くし、“新たなチカラ”を手に入れられたんだからな、瑠火、言っとくぞ? 俺は“同胞”でも“同種族”でもねぇ。」

 

 氷憐はそう言いながらバチバチ……と、黄金の剣を握る右腕に黒い稲光放っていた、金色の鋼で護られた腕を稲光は這う様に伝い、彼の肩までも バチバチとまるで電撃の様に伝っている。

 

 更に、剣の柄を握り締める手にも黒い靄みたいな影が渦を巻いていた。

 

 私は両手に握る双剣を強く握り構えた。虹色の両翼がばっさ、ばっさ羽ばたいているから、宙に浮いてる状態だ。この状態なら、アイツの放つ“奇っ怪なチカラ”を避けられる筈だ。

 

 けれども……。

 

 (聞かなきゃならないことがある!)

 

 私は氷憐を睨みつけた。

 

 「氷憐! お前は全てを喪失し、里の事も忘却した筈だ、なのに何故また里に降り立ったのだ? その記憶はどうした?」

 

 すると、氷憐は フン。鼻で笑った。

 

 「あー…お前はあの里に閉じ込められてた“可哀想な姫様”だからな、何も知らねぇで生きて来たんだろ。“白雲しらく”……あの爺様が守護して来たからな。」

 「は?」

 

 氷憐の真紅の眼がギラつく。私を射る様に睨んでいた。

 

 「おバカで可哀想な姫様に教えてやるよ、世界ってのは広い、 お前が見てる世界なんざ“尻の穴程度”、開眼しろよ? 何も知らねぇ、“囲われ姫様”。」

 「答えになってない!!」

 

 私は怒鳴っていた。けれど、氷憐は右肩に黄金に光る剣の刃を乗せた。

 「そうかぁ? 俺は優しく伝わり易く教えてるけどな? それでも解らねぇなら、お前は“死ぬ”しかねぇんじゃねーか? ああ……。」

 

 ちらっ。と、氷憐の視線が私の下に居る愁弥に動いた。だから、私は直ぐに彼の前に降り立った。不思議なもので私が思う様にこの両翼は動き、身体を運んでくれる。それも迅速に。

 

 氷憐の眼が鋭くなった。

 

 「瑠火、お前は囲われ過ぎて何も視えてねぇんだよ、何も知らな過ぎる、俺が“月雲つくもの民、月雲の里の居場所”……、そんなの外界に出れば誰もが教えてくれる、それすら想像出来ねぇお前は…やっぱ死ぬしかねぇな。見りゃ解んだろ。て、ハナシ。」

 

 氷憐の言葉に私はちょっと……脱力しそうになった。でも、持ち堪えた。彼を睨みつけた。

 

 「私は……確かに何も知らないかもしれない! でも、知ろうとしてるし、私の力を必要としてくれる人が居る限り、傍に守るべき存在があるなら死ぬ訳にはいかないっ!」

 

 私が言うと何故か……パァァァっ。と、全身が熱くなるのを感じた。

 

 (え? 何??)

 

 ぎゅっ。と、握ってる双剣の両手すらも熱く感じて、私は直ぐに目線落とした。右手に目線落とし、握る私の手からは虹色の光が炎の様に燃え滾っていた。

 

 (え?? 何これ?)

 

 氷憐の言う“知らぬ世界”を私は事実として知った気がした。いや、私と言う“存在”その者が最早、解らない状態だった。だけれでも、それだけでなく浮かぶ……。

 

 ちょっと混乱してる私の頭の中に浮かぶ。

 

 “言語”が。

 

 “虹色の双剣イリス“と。

 

 (は?? え?)

 

 ぽぅ。既に虹色の光の炎で包まれる私の両手、更に双剣がもっと強く光を放ち始めた、それは全身に漲る力を感じさせた。私は目の前で涼し気な顔をして余裕ブッこいてる黄金騎士、氷憐を睨みつけた。

 

 (これは従えだ!)

 

 私は何となくではあるが、叫びつつ両手を振り下ろした。

 

 「虹色の双剣イリス

 

 ギャオン!!

 

 物凄い音を立てながら剣刃は目の前に居る氷憐に向かって飛んだ。

 

 その後で聞こえたのは ズバッ! と、何かが切り裂かれた音だった。私は見てない訳ではなかったが、訳も解らずだったのでちょっと少しの間、記憶がフッ飛んでいた。

 

 でも、その音で私は彼を見た。

 

 右肩に光る黄金の剣を乗せながら優雅に構えてた右腕、更に左肩から腕がふっ飛ぶのを。

 

 彼は一瞬にして両腕を私の放った剣刃で、奪われたのだ。

 

 (は??)

 

 驚く……私は。

 

 けれども、それよりも

 

 「ぐあっ!」

 

 鮮血を噴出させ、両腕を失くした氷憐の呻き声に似た悲鳴が、聞こえた。切り取られた両腕が地に落ちていくのが見える。

 

 更に響く。

 

 「氷憐殿っ!」

 

 白銀のユニコーンの悲痛な声が。けれども、彼女は振り返り直ぐに叫んだ。 

 

 「“生命復元リプセプト”!!」

 

 黄金の光が彼女のユニコーンの長い角から放たれた。それは、両腕失くした氷憐を包み、彼の両腕はあっとゆう間に復活した。それも、喪失する前と同じ右肩に剣の刃を乗せる様で。

 

 「何なんだ! お前っ!!」

 

 叫んだのはルシエルだった。氷憐の憑き者、ユニコーンに彼は怒鳴ったんだ。

 

 ユニコーンは言う。私達を見据えて。

 

 「だから“天敵”。お前らのチカラを捻り潰す存在、氷憐殿を護る存在……、お前らと“同じ”だよ。」

 

 ユニコーンは不敵に笑った。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る