第18話 推測

 私が少し離れていた間に、“ナディア魔道学士館”の塔内部はかなり損壊している様だった。それも、目前で“魔道士”達が闘っているのも影響しているだろう。

 

 けれども聞かなくてはならない。与えられて残されてゆく欠片ピースを、回収していかなくてはならない。“生き残る為”に。

 

 「ルシエル、愁弥、お前達が肌で感じる“天敵”とは? それは……“破壊神メシア”に関係してる?」

 

 私が聞くと、まぁ赤ら様だった。2人とも開眼。目ン玉飛び出すかと思うぐらいに、両眼を見開き私を見たのだから。

 

 「瑠火……知ってるのか? 」

 

 先に言ったのは黒いバカ狼犬のルシエルだった。この狼犬は、身体ばかりデカくて威圧感あるのに、脳内がお子ちゃま。それも、感情直結型だから全身から溢れる。彼の感情が。

 

 つまり、黙ってられない、はっ。としたらクチに出しちゃう人。あ。幻獣だった。

 

 「何を?」

 「や、だからっ!! 破壊神メシアと、守護の盾ガーディアンっ!!」

 

 (ハイ。言いましたね。素直に。)

 

 “守護の盾ガーディアン”と言う言葉は記憶に残っている、地獄の番犬ヘルハウンドから聞いたからだ。

 ああ、後は……私はちらり。と、少し離れた所に居る蒼き光に包まれた美しい女神に目を向けた、彼女も言った。

 

 ぼんやりしてるのに表情と綺麗な顔立ちはハッキリしてる、不思議な生命体だ。動向を見守る様にコチラを見ている。“戦いの女神レイネリス”、彼女は私をとても不穏な表情で見ていた。

 

 (女神レイネリスは、私を叱咤したが元より彼女はずっと私を警戒していた存在だ。愁弥は確かに“神剣”の持ち主だが、ここ迄執着するのは何故か? ずっと不思議には思っていた。“神と人間”の関係性を超えている、それは解る。)

 

 私はちらり。と、愁弥が右手に握る蒼き光を放つ片手剣、“神剣”に目を向けた。彼は ん? と、少し驚いたけれども、そこはスルーだ。

 

 (神剣の所持者……つまり。“レイネリスの魂”を司る“神器”の持ち主だ。レイネリスの神器はこの神剣なのだから。だとしても……“異様な執着”。事ある毎に出没して彼を支える。それは、心身共に。そう……“特別な存在”なのを逸している。まるで、愁弥の“動向を探り監視”しているみたいだ。)

 

 「瑠火!? 答えろっ!!」

 

 放置してた訳ではなく、物思いに耽っていたらルシエルから怒鳴られた。

 

 「ああ、ごめん、ルシエル。」

 

 私は双剣を握る。

 

 「知ってるよ、と……言うより、そうだな、私を包む“環境”が違和感を感じさせていて、“白雲村長”に出逢って話を聞いて、何となく……。」

 

 ぎゅっ。と、双剣を握る。

 

 「は?? 白雲しらく村長っ!? アイツは死んだだろっ!!」

 

 ルシエルはそう怒鳴っていた。

私は彼を見て思う。

 

 (ルシエルは……“破滅の幻獣ルシエル”として生きて来た、けれどもこの“性質”で彼は……アルティミシアの情勢とは何ら関係なく自由気儘に生きる“異端の者”。そして……“緊縛”、つまり封印。だから、知らぬ事が多い。)

 

 私はそんな事を思っていた。

 

 (そして……それは時に“厄災者”とも成り得る存在、彼は自由過ぎて大陸2つ滅ぼした……謂わば……”脅威の存在“になってしまった、感情で動くから。彼もまたこの世界から”追放“された存在。そして……。)

 

 私は女神レイネリスを見た。

 

 (そしてこの女神も今は……”感情“で動いてる、それは自身を護る為なのか、それとも愁弥を護る為なのかは解らない。けれども、守護神の様に彼の傍にいる。つまり……私はそれだけアルティミシアにとって“脅威の存在”……いや、“凶悪”な存在なのだろう。)

 

 私は視線を移した。少し下に居る愁弥に。相変わらずの本質ブロンドとは違う、少し濁った色をした髪の少年を。

 

 (白雲しらく村長は言った。私は”聖神アルカディア“を殺せる存在なのだと。それが……“破壊神メシア”、つまり私だ。そして、その私を護る為に生きるのが“守護の盾ガーディアン”。“ブラッド”さん……貴方はその……“戦士”だった。)

 

 ぎゅっ。と、私は双剣を握り少し先で未だ動かない、黄金の全身鎧を着た氷憐を見据えた。

 

 (……そこに氷憐ひれん……何故、お前が絡んで来るのかは知らない。けれど、彼の“力”も異質。アルティミシアではまた“脅威”の力。私同様に。)

 

 ふぅ。私は……息を吐く。ブラッドさんへの想いを引き摺り、冷静に慣れなそうだったから。

 

 流れで、目を閉じれば直ぐに浮かぶ…。

 

 浮かぶのはあの……氷に閉ざされた冷たく、寒く、光の無い世界。樹氷の山と厚く覆われた氷河の地。年中、強い吹雪に見舞われ、作物すら育たぬ、地が生命体を許さない様に力を貸してくれない世界。

 

 そして……“魔物”。

 

 私達の住む世界は、“禁区”だった。尊厳を剥奪され生きる目的を喪失され、殺された仲間達への懺悔と、後悔、最早廃人達が“魔物の巣窟”に放置された環境は想像を絶する。

 

 覚えているのは悲鳴。常に何かに追われて血だらけで氷河を走って来る民の姿。

 

 だから、私は力を使う事をやめた民の前で、力を求めた。それはやはり“異端”だった。そして……“氷憐ひれん”、コイツも異端。

 

 私は、項垂れる氷憐を見据えた。

 

 けれど……私はこの男に“月雲つくもの里”で遭った事が無いのだ。白雲村長の話だと、彼は“村を追放された”のが13の時……、私はその頃11歳だ。

 

 ならば……“遭遇”している筈なのだ。確かに樹氷の島にある村だ。里と言う集落地に居なかったのかもしれない。けれど、里の民から話を聞いた事も無い。

 

 そう、月雲つくもの里で“氷憐”と言う男の存在を、聞いた事が無いのだ。けれど、白雲村長は言っていた。

 

 『彼は村の中で異端だった。』

 

 と。

 

 ならば……里の民から話が出ても言い筈。何ら娯楽の無い閉ざされた世界だ、普通なら話が出るであろう。興味なくとも話題にはなる。でも、“氷憐”など聴いたことがない。

 

 私は項垂れる黄金騎士を見据えた。

 

 (私と……お前は何なんだ……。)

 

 う…と、少し声を零したあと、氷憐は目を開けた。私と同じ真紅の眼を向けた。

 更に、フ…と、笑みを零した。それは、不敵な笑みだった。

 

 黄金の剣を地面に突き立てて、彼は立ち上がった。

 

 立ち上がり、右手に構える長剣は、黄金の光に包まれていた。

 

 更に黄金鎧に纏うのは、黒い稲光交えた靄だ。彼の全身を禍々しい黒い靄と、バチ……バチ……と、音を立てる稲光に似た黒い電撃が纏うのだ。

 

 剣を構えた氷憐は言う。

 

 「瑠火、殺しとくべきだった、お前は。あの時に。」

 

 

 


 

 

 

 

 


 

 

 

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