第17話 天敵

 私が目の前に居る事をとても驚いている。

愁弥しゅうや、ルシエル、そして……レオン。 

何故か? と思ったが、ああ。と、納得した。

 

 (この翼か。)

 

 私の背中には何故か虹色の光放つ両翼がある。それが背中でばっさ、ばっさ。と、羽ばたいていて……ああ、そうだな。正直……、重いし、煩い、羽音が。 

 

 けれども、この背中の両翼にはきっと意味があるのだろう。白雲しらく村長が唱えたあの言葉……“覚醒アフィニティ”その後、私は確かに意識を失った。

 

 けれど、目覚めた時には私は……この両翼を持っていた。それと……何か……私ではない、自分なのに自分ではない感覚があって……気がついたら、虹色の光に包まれていて、頭痛が強く……ルシエルがとにかく、煩かった。

 

 何があったんだろうか。

 

 「瑠火るか? 大丈夫なのか?」

 

 愁弥がそう聞いた。

 

 「ああ……背中が重い。」

 

 私は正直に答えた。こうして話している間も羽ばたきは止まないのだから。

 

 「瑠火! その身体なら肉たくさん獲って来れるな?」

 

 うほっ。と、目の前の狼犬は笑った。大口開けて、うほっ。と。

 

 何か……殺したくなってきた。この狼犬を。

 

 「瑠火殿、大丈夫なのですか?」

 

 レオンの声が目の前から聞こえた。

 

 「ああ。それより……ミントは?」

 

 ミント。そう、彼女の前に3つの首が転がって来て、それが……“兄様、姉様。”だと泣いていた……。

 

 私が聞くとルシエルが答えた。

 

 「ヘルが見てる、それと……“カリン”。」

 

 けれど、背後から何か物凄い“殺気”を感じた。はっ。として、振り返ると黒い風刃のカマイタチが飛んで来た。

 

 (剣刃っ!!)

 

 咄嗟にそう思い私は左手に握る双剣の、片剣を薙ぎ払った。

 

 飛んで来るのは、大きな“鎌”を横払いして飛ばす風の刃。それに似たモノで、当たれば腹部からこの身体は切断される。

 

 けれど、私の薙ぎ払った片剣から ギャオンっ!! と、聞いた事もない刃音が鳴った。それは、風と空を切る音だ。今までこんな強い音は聞いた事がない。

 

 驚いて目の前を見れば私が払った片剣から、虹色の光刃が放たれ、黒い風刃を切り裂いていた。真っ二つに割かれた風刃は、その場で消滅する。塵の如く。

 

 けれど、私の虹色の光刃は消えることなく、目の前の黄金騎士に向かっていた。

 

 「ぐっ!」

 

苦しそうな声が聞こえた後に、彼の身体は背後の壁までふっ飛ばされていた。

 

 (な…何だ?……今の力は……?…私の剣でこんな力を出した事はない……。)

 

 大きな塔の壁に ガンッ! と、直撃した黄金騎士……“氷憐ひれん”の身体は、ずるっ。と、壁を引き摺り地面に滑り落ちていた。驚いた事に……彼が直撃した壁には彼の人型の凹みがあったのだ。

 

 (は!? そんなに力を入れて振ってない! 何??)

 

 私は不審に思って……左手を眺めた。

 

 (え?)

 

 いつもなら光など発光してない双剣……、それが虹色の光を放っていた。私は右手も見た。同じく握ってる剣は、虹色の光を放っていた。 

 

 (え? どうゆうこと?? これは……この翼と関係ある?)

 

だけれども、目の前の黄金騎士……あ。氷憐が、地面にズリ落ちて、壁を背凭れにまるで寄り掛かって座っているかの様な体制から動かないのを見て、妙に冷静になった。

  

 ( 白雲しらく村長……、また私に厄介な謎を押し付けたな……。)

 

そう思ったんだ。

 

 「瑠火! 何だ!? 今のはなんだ!? スゴいじゃんかっ!」

 

 大きな黒い尻尾をぶんぶんと、横に振ってルシエルがそう言ったんだ。

 

 私の身体はお陰様で、この重い両翼の所為で浮いている。なので、いつもは見れない大型狼犬の、頭の上を存分に眺められるのだが……、見てると剣を突き刺したくなるのは何故か?

 

 「氷憐様……、氷憐様……っ。」

 

 白い光に包まれたユニコーンの角を頭に生やした、黒髪のほぼ全裸の小さき少女が、彼の周りを蝿の如く彷徨いている。

 

 彼女は、“憑き者”。その意味は良く知らない。氷憐から聞いただけだから、その名称を。只、私が彼に会った時にはもう居た。下半身だけ布地で纏ったその光の少女は。

 

 片手で掴み握り潰せる程の背丈の者だ。実態が良く解らない。けれど……、この時、私は知る事になる。

 

 蝿の様に彼の身体の周りを彷徨いて居た彼女が、氷憐の顔の前でぴたり。と、止まった。 

 

 「おのれ……氷憐殿を……っ!」

 

 彼女は私達を振り返った。小さき顔の中にある黒き瞳が、カッ! と、光る。眩い光だった。閃光に近い。

 

 「!」

 

 私は咄嗟に腕でその閃光を庇った。が、浮いてる私の足元に居る彼を見て降り立った。翼を1つ羽ばたかせて。

 

 「愁弥!」

 

 解らないけど、愁弥の姿を見て、私は彼の前に降り立っていた。

 

 「瑠火?」

 

 愁弥の声が後ろから聞こえる。お陰様で閃光は一瞬、今は只の眩しい光、それも害は無い。私は愁弥の前に少し浮きつつ言った。

 

 「アレは氷憐の“お憑きの者”らしい。」

 「らしいって?」

 「あの姿しか見た事ないんだ。けど……今……彼女は、変わるかもしれない!」

 

 私は愁弥の前で、双剣を握り締めた。直ぐだった。カッ!!と、眩い光が放たれ、目の前でお憑きの者がその姿を変えたのだ。

 

 「瑠火! アイツは何だっ!?」

 

 ルシエルが叫んでいた。


「だから! お憑きの者だっ!」


私は叫んだ。

 

 何故なら大きな獣に彼女は変化したからだ。ユニコーンの角は変わらない。けれど、その長さは異常だった。長剣ぐらいあるだろう。

 

 眩い銀色の光に包まれ、長い鬣をふわぁさっ。と、揺らしながら、私達に向ける獰猛な眼は、蒼き眼。白銀の毛に覆われた馬。けれども、口元はグルルルル……と、唸り引き攣り両端からサーベルタイガーの如く、長い白銀の牙が生えていた。

 

 彼女の美しい銀馬の顎元まで鋭く鋭利に伸びていた。アレで噛みつかれたら、一瞬で人間の腹から背中まで貫通するだろう。

 

 「な……なんだ? アレ! 魔物か!?」

 

 愁弥は神剣を構えてそう言った。でも、私は ん? と、思った。なので、聞いた。

 

 「魔物なんて何回も遭ってるのに……何でそんなにビビってんの? 愁弥。」

 

 そう、彼が何かとても怯えてる様に見えたんだ。だから聞いた。彼はいつもなら“ビビってねーし!”と、返して来るのだが……、この時は違う反応だった。

 

 彼はぎゅっ。と、右手に握る神剣を強く握っていた。私はその所作を逃したくなくて、見ていた。いや……彼の心情を知りたくて見ていた。

 

 彼は言った。

 

 「解んね……なんつーの?……こいつやべぇみたいな?」

 「え?」

 

 私が聞き返すと、彼は ふぅ。と、息を吐き私を見上げた。真剣な眼差しで。

 

 「違げぇな、倒さなきゃなんねぇ“天敵”か。」


 そう言った時の愁弥は、もう動揺はしてなくて、目の前の白銀のユニコーンを睨んでいた。 

 

 「天敵? どう言う意味?」

 

 私は彼を見下ろした。彼は浮いてる私を見上げて言った、強い眼差し向けて。

 

 「肌で感じるってのあんだよ、コイツは俺にとってヤバい奴ってのが、それを何となくこのユニコーンに感じた。」

 

 愁弥はそう言うと私ではなく変貌遂げた白銀のユニコーンを睨んでいた。

 

 (……天敵? 愁弥に? 何故だ?)

 

 私には疑問しかなかった。何故なら彼はこの地に来た異世界の者。天敵など居る訳がない。この世界の者は、彼を知らないのだから。

 

 私はこの時……自分が“忘却”してるだけとは気づかなかった。

 

 「許さない……許さない……殺してやる……人間どもっ!!」

 

 とてもさっきまで美しい少女だとは思えない程、醜い声が響いた。更にユニコーンは頭を天に向け、その角に光を一点集中させた。

 

 私は隣のルシエルを見た。

 

 「ルシエル!」

 

 叫ぶと、彼は一歩前に飛び出て、

 

 「はいはい、解ってますよ!」

 

 大口開き、その口元に キュィィィン……と、黒い光を集め始めた。大きな波動砲を放つ為の力を溜めているのだ。

 

 そう、ユニコーンが角に溜めてるのと同じ様に。

 

 放たれるのは同時。

 

 「“破滅の波動ネメシスクライ”っ!!」

 

 「“聖護の波動アスキュリアっ”!」

 

 カッ!!

 

 波動が同時に放たれ、それは押し合い削り合い……最終的には、同時に破裂した。

 

 私達に閃光と爆風を与えながら。

 

 ぬぅぅ。と、ルシエルが珍しく唸り、前傾姿勢で右足突き出し、踏ん張っていた。その口元も牙剥き出しで、ピクピクと眉間にシワも寄せていた。

 

 「ルシエル?」

 

 私が聞くとルシエルは グルル……唸り言った。

 

 「瑠火、天敵だ。」

 

 と。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

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