第16話 戻れる場所

 地揺れ…天井の崩落……、大きな揺れに先程まで襲われていた塔内は、それらが鎮まり静寂が包むかと思われたが、それらが治まると直ぐに“争い”は始まる。己の信念、培った力、歩んで来た過程、積み重なった経験値、それらをぶつけ合う。 

 共に歩んで来たこの塔の“魔道士”達は。

同志は敵に変わり憎悪の標的でしかない。

 殺し合い。 

それらを眺めるのは、虹色の光を放つ両翼を持つ少女……瑠火であった。銀色に光る刃……双剣を握りしめる。

 “魔道士”になる事を目指しこの地へ訪れ、夢と希望の光を抱いて生きて来た少年、少女たち、更にこの地で生き抜いてきた友、切磋琢磨した同志を殺し合うのだ。その血戦を、彼女の真紅の眼は見据えていた。

 その眼はとても憂いていて、悲しそうではあったが彼女の表情は、冷たく……その光景をまるで“流れ事”の様に受け入れている様だった。

 「瑠火殿?」

すっかり回復し、美しい赤髪の騎士に戻ったレオンは、その碧の瞳を彼女に向けた。けれども、彼女の全身が突然、カッ! と、虹色の光に包まれた。

 「!!」

双剣持つ右手はその眼を庇う様に上がる。

 レオンがそれを見て、転がる聖国の剣ロザリオを直ぐに掴んで立ち上がる、彼は瑠火の前で“聖白の光“放つ長剣を握り、構えた。

 両翼を広げ自身の頭よりも高く浮いてる彼女を見て叫ぶ。

 「瑠火殿っ!!」

けれども、レオンは自分の耳に届く……声に何故か安堵した。

 「瑠火っ!!」

 愁弥の声であり、すぐ後に獣の息を吐きながら、怒鳴る低い声が聞こえたのだ。

 「瑠火っ!!」

 レオンは振り返った。

蒼く光る神剣を握りしめ走って来る愁弥の、輝く黄金の髪が目に飛び込んで来た、更にその横からは真っ黒な大きな狼犬が、獰猛な顔をして牙を剥き出しに、駆けつけて来るのを。 

 「愁弥! ルシエルくんっ!!」

 まるで燃える様な虹色の光に包まれる瑠火を目の当たりにしつつ、駆け寄って来る彼等に視線が動いたのは、信頼感であろう。何しろ、愁弥、破滅の幻獣ルシエルは、レオンが出逢った時には、瑠火の傍に居たのだから。

 「ルシエルくん言うなっ!!」

思わずだった、レオンはその怒声に口元が緩んだのだ。絶対的、安心感、彼等が居ればどうにかなる。それが今のレオンの心境であった。

 愁弥、ルシエルは駆けつけ虹色の炎の様な光に包まれる瑠火を目前に見上げた。

 「ルシエル! 何がどうなってんだ!?」

 「解らぬ! こんな人間、見た事ないっ! そもそも! 俺様は黒闇の伝道師ダークカルマと戦ってたんだ! 見てるワケないだろっ!」

 「勝手に仲間と喧嘩したのはテメーだろーがっ!!」

レオンは……全ての安堵感、信頼感を喪失した気持ちになった。目の前で……怒鳴り合う獣と少年を見て。

 「何をっ!? じゃーお前は何をしてたんだっ!!」

ルシエルが吠える。

 「つか、それ言う? お前が言う? あーそ。ブチ切れんぞ! あ"ぁっ!?」

 愁弥が吠える。

 そして……背後の赤髪の騎士レオンは、剣を下げ苦笑いをしながら、言った。

 「あ〜……喧嘩してる場合じゃないと思うよ?」

優しい声ではあるが、彼の頬はピクピクと引き攣っていた。

 (何なんだ……この方達は……。)

レオンは溜息ついた。 

 

✢✢✢✢✢  

 頭が……痛い……なんだ?……コレは……。

ズキズキする……まるで殴られた後の様な痛みだ……、けれど記憶にない、殴られた記憶は……。

 

 聞こえる。

 

 『お前がもっとしっかりしてないから瑠火がワケわかんなくなったんだ!! お前の所為だ! バカ愁弥!!』

 

 何? ルシエル?

 

 『あ"? ざけんなっ! テメーがあの龍みてーのと喧嘩してたからだろーが!!』

 

 愁弥?

 

 『俺様は破滅の幻獣ルシエル様だ!! 売られた喧嘩は買うっ!! 腰抜けは黙れっ!!』

 

 ルシエル……ごめん、ちょっとうるさい、頭痛いから。吠えるな。

 

 『あ"? テメーが守らなきゃなんねぇのは瑠火だろーがっ!! このクソ狼っ!!』

 

 愁弥……すまないが……彼にその認識はない。只……肉くれる人間だ。

 

 『あーやだよっ! 自分の無力さを人の所為にすんだからっ! これだから人間はっ!』

 

 『あ!? ルシエル……ガチでブチ殺されてぇの?』

 

 ちょっと待て!

 

 『は? やれるものならやってみろ! 愁弥なんて俺様の力で瞬殺だっ!!』

 

 ルシエルっ!!

 

 カッ!!

 

 それは、ルシエルと愁弥がブチ切れる寸前の出来事であった。

彼等の前で虹色の光に包まれていた瑠火の身体は、瞬時にその光が消え、代わりに握る双剣にその光は転移した。光は双剣が光ったモノを示したのだ。

 

 更に、彼女は2人の前で叫ぶ。

 

 「雷鎚らいづち!!」  

 

 彼らの頭上に稲光が轟き、稲妻が落ちる。

 

 「うわっ!」

 「ギャンっ!」

 

 正に……彼らの頭の上から雷が落ちたのだ。それは、彼らの身体を痺れさせる程度である。が、ルシエル、愁弥は引き笑いであった。

 ((帰って来た! ドS姫様がっ!!))

 

 翼生えた雷落とす得体の知れない、瑠火の姿に、ルシエルも愁弥も狼狽えるしかなかった。更に彼女は言う。

 

 「ルシエル、煩い。」

 

 それは、愁弥も知る声であり、その表情もさっきまでの無表情ではなかった。いつもの瑠火であった。 

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