第15話 守護の盾:ガーディアン

 愁弥しゅうやは目の前にしゃがみ込み、自身を見つめる真紅の眼を見つめていた。

 

 「瑠火るか? 」

 

 けれども、彼が驚くのはその眼ではない、この真紅の眼は見て来たものだ。彼の視線の先にあるのは、虹色に光る両翼だ。それを背に持つ彼女の姿だ。

 

 愁弥は彼女のその姿を見て、自身の手を握る手を強く握る。何故かその瞳には涙が滲んだ。彼は俯く。

 

 (……瑠火……俺が無力だから……、また知らねぇところで……何か、力を覚醒させて……、その身体を傷つけてるのか……? いつもそうだ……、あの海底の時も……いや? 俺等が出逢った時からそうだった!)

 

 愁弥は顔をあげた。優しく微笑む彼女を見て、その手を強く握り彼は叫んでいた。

 

 「瑠火! その翼はなんだ!? つか、何がどーなってんだ!? 教えろ!」

 

 だが、彼女は微笑み、目線を反らした。愁弥はその視線を追った。そこには倒れ附してるレオンギルバートが居た。瑠火の手が離れる。はっ。として、愁弥は彼女に視線を向けた。

 

 ばさっ。瑠火は座ったまま1翼、羽ばたかせふわり浮いた。

 

 「瑠火?」

 

 愁弥は自然と立ち上がった、彼女が地から浮くのと同時に。彼女は微笑む。ばさっ、ばさっと両翼羽ばたかせながら。

 

 「まだ間に合う、彼の“生命いのち”は絶えてない。」

 「え……?」

 

 愁弥が聞いた瞬間、瑠火は両翼羽ばたかせながら、レオンの元に向かった。愁弥は瞬間的だった、床に落ちてる“神剣”を掴み、握った。彼女の姿を視線で追う。

 

 神剣は握った瞬間に蒼い光を放った。はっ。とした、愁弥は、叫ぶ。心の中で。

 

 (レイちゃん! ちょい出て来てくんね?? なんかヤバい感じすんだわ!)

 

 その声が届いたのかどうかは定かではないが、神剣は蒼く発光し、その光の中からふわっ。と、女神レイネリスは姿を現す。

 

 それを眺めて眼を疑うのは、氷憐ひれんである。

 

 (は? 異世界からの“来訪者”が、何で“女神”を従えてんだ? あの剣は……“神剣”だったのか……、いや、そもそもコイツらは何なんだ? )

 

 氷憐は、右手に持つ黄金の剣、“聖護の剣ヴィヴロス”を握りしめた。すると、声が聞こえる。

 

 「氷憐、これ以上、私の仲間を傷つけたら許さない。」


 はっ。として、彼は振り返る。

 

 聖白鎧ホワイトアーマーを着た赤髪の騎士の亡骸の傍にしゃがみ込む、虹色の両翼を広げた瑠火の姿があった。彼女は、直ぐ近くに居るが、彼を見ていない。

 

 だが、その右手は彼を捉えていた。掌を彼に向けていた、それだけではない。その掌には蠢く黒い渦。まるで、ブラックホールの入口が、彼女の掌に開口しているのだ。

 

 更にその右腕までも黒い稲光が纏う。バチ…バチッ…と。

 

 「お前……何なんだ?」

 

 氷憐は問う。瑠火は彼を見ずに応えた。

 

 「何言ってるの? “月雲つくもの民”でしょ? 私達は。」

 

 そう言うと彼女は、右手を降ろした。氷憐は、拭えない緊張感の前に微動だに出来ず、彼女の行動を言葉の通りに眺めることになる。

 

 瑠火は、俯せで倒れる赤髪の聖国騎士レオン・ギルバートの身体を、愁弥の時と同様に、地面に仰向けにさせた。口元に鮮血が塗れた顔を覗く。

 

 が、レオンはその眼をカッ。と、見開きとても生前の美しい顔立ちとは、異なるものであった。口の周りは血塗れだ。何よりも死に顔であった。

 

 瑠火は彼の顔に近づく。

 

 「レオン……貴方は気高き騎士、私の大切な……。」

 

 彼女は血塗れのレオンの唇に、口づけを施した。

 

 「…………?」

 

 眼を見開き、それを見ていた愁弥は、隣に居る蒼き光に包まれた“女神レイネリス”を見た。

 

 「え……と? 救命処置だよな?」

 「お主もされたが?」

 「はっ!?」

 

 愁弥の顔は一瞬で真っ赤に染まる。それは、瑠火とレオンの身体が、虹色の光に包まれるのと同時であった。

 

 (俺……ちゅーしたん??)

 

 愁弥はその光を見つめながら、顔を真っ赤に染めていた。

 

 レオン・ギルバートの身体は虹色の光に包まれた。瑠火はもう既に彼の傍にしゃがみ込み、その身体が癒えていくのを眺めていた。けれども、憂いた顔をして呟く。

 

 「“守護の盾ガーディアン”は……ラクに死ねない。貴方には絶望しかないかもしれない、けれど…生きて。貴方にはその“使命”がある。」

 

 レオンの身体は虹色の光に包まれ、傷も癒え美しい騎士に戻ってゆく。

 

 「……レイちゃん……俺もあんな……?」

 

 愁弥はそれを目の当たりにしてそう言った。

 

 「すまぬ、見ておらんので何とも。だが……。」

 

 レイネリスの声のトーンは下がる。愁弥は直ぐに彼女を見た。

蒼き光に包まれた女神レイネリスは言った。

 

 「瑠火は……このアルティミストの運命に深く関わる者だ、あの者が行った“接吻くちづけ"は、“生命の接吻レイリス"と言う……“生命の女神ルカーナ"の力だ。」

 「は!?」

 

 レイネリスの言葉に愁弥は眼を見開く。

 

 「その力は魔法、魔術の“生還術”とは異なる、女神の吐息。つまり、物理的な方法で生還させる、同時に力を与えるのだ。女神の吐息と共に力も与える、故に“宿命者”にしか施されぬ。」

  レイネリスはそう言うと愁弥を見た。少し悲しそうな顔で。

 

「瑠火が、もう少し早く覚醒していれば、ブラッドは救えたかもしれぬな。」 

 

 はっ。とした愁弥は聞いた。

 

 「“守護の盾ガーディアン”ってのは何だ?」

 「そなたらを指す。」

 「は?」

レイネリスは更に言った。

 

 「瑠火は“破壊神ベリアス”、つまりこの世界の絶対的神、“聖神アルカディア”を唯一滅ぼせる“破壊神メシア”なのだ。」

 「は??」

 

  愁弥は眼を見開いた。 レイネリスは更に言う。

 

 「愁弥、お前はその破壊神メシアを護る戦士…“守護の盾ガーディアン”そして、あの赤髪の騎士もな。」

 

 愁弥はレイネリスの視線を追い、目線を追った。そこには起き上がり、微笑むレオンと瑠火が居た。

 

 「待て…破壊神メシアって何だ? 神器があんだから、ベリアスが降臨しても“十二の護神”が何とかすんじゃねーの?」

 

 愁弥の顔は強張っていた、その視線は虹色の両翼を広げた瑠火に向けられていた。レオンと話す微笑む彼女に。

 

 レイネリスは、言う。

 

 「十二の護神はもういない。」

はっ。と、愁弥はレイネリスを見る。彼女は悲しそうな顔をした。

 「私を含め、皆、聖神戦争で生命をおとしている、絡んでいる神族は……」

 「んなことはどーでもいいっ!! 瑠火は!? 瑠火はどーなるんだっ!?」

 

 愁弥は怒鳴っていた。レイネリスは、とても悲しそうな顔をした。

 

 「それはあの者が選択する事だ。私は何も言えない。だが、お前ならあの者の意志を変えられる。」

 「は?」

 

 レイネリスは微笑んだ。

 

 「愁弥、お前ならきっと止められる。」

 

 その言葉に愁弥は眼を見開くしかなかった。 

 

 

 

  

 

 

  

 

 

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