第20話 懐かしきも前に進め

 白銀のペガサスに乗ったエメラルドグリーンの髪をした青年は、私達をハッキリと敵視していた。私は左手に握る双剣を振り下ろし、血を土の地面に散らした。

 青年は私をじっ。と、見据えたが、剣を納めたのを知ると表情を温和にさせた。

 更に、怪我をしている少年スティルとその前にいるミントと言う少女に目を向けた。

「その者達は知り合いか?」

 低い声が響く。

 スティルと言う少年は、首を横に振った。

「いえ。違います。クリュト様。」

 スティルは右肩の負傷したそれを掴んだ。血が滲む。彼の白いローブに。

「スティル?? 何をしてるの??」

 隣にいたミントは顔を歪ませ、血を滲ませたスティルにそう言った。心配そうな顔をした。何しろ彼は、傷口をわざと広げたのだ。自身で力を込め、ローブに血を滴らせたのだ。

「怪我を見ればわかります! この方々は救ってくれたのです! クリュト様!」

 ミントと言う少女の声を遮り、彼は自身の肩についた爪痕の様な傷口を手でわざと掴み、血を滴らせたのだ。

 ぽたぽたと白いローブから、手を伝い鮮血は滴る。クリュトはそれを見ていた。地面に滴るその血を。

 だが、フンと鼻で笑った。

「決めるのは“カルラ様”。お主らに講釈の会はない。」

 その声にスティルは俯いた。

「ついて来い。旅の者。ここは“ナディア領”。そならたを我が主君に会わせる。お主らの処遇はカルラ様が決める事。」

 クリュトと言う男にそう言われ、私はルシエルに目を向けた。

「行くべきなのか?」

 そう聞くとルシエルは大きな頭を傾げた。

 ん〜……

「行ってもいいと思う。肉くれるよ。カルラは。」

 と、彼は言ったのだ。

「ルシエル……知ってんのか?」

 と、愁弥はそう聞いた。

「ん〜……ちょっと。けどまー、、、悪いやつじゃないよ。うん。おっかないけど。」

 と、ルシエルは長い尻尾を揺らしながらそう言った。ドワーフのブラッドさんは、背中に斧を担ぐと、ため息ついた。

 はぁ。と。

「偏屈なのは頭に入れとくといい。変わっとる。」

 と、そう言ったのだ。

 私と愁弥は顔を見合わせたが、ナディア魔道学館に向かったのだ。



 >>>

“ナディア魔道学館”は、海に囲まれた島にあった。辺りは海、浮島に建つ塔。

 まるで孤島に浮かぶ塔。


 近海は荒れ狂い大きな船でしか近寄れなかった。荒波にやられてしまうからだ。更に、結界なのか島に辿り着くには何やら金色の呪門を潜らなければならなかった。

 それを簡単に破ったのはクリュトだった。

 鍵の様なものだと、ヘルハウンドは私に教えた。


「すげー、、、何時にも増して別世界だな。」

 島に降り魔道学館のある塔の下には、街が広がる。古代の石造りの街並みに、愁弥は目を丸くしていた。

 更に、ここにはローブを纏った者達しかいない。容姿は様々だが、色とりどりのローブを着た老若男女が街を行き交う。


「わ。なにあれ?? 飛行船??」

 蒼い上空を飛び交う船たち。それを見てリデアは目を輝かせたのだ。

「ええ。魔法で飛ぶ船です。」

 と、案内をしてくれてるクリュトがそう言ったのだ。大きな翼が船体につきバサバサと、両翼広げ船を運ぶ。

 何とも不思議だった。

「……まじか……鳥みてーな船は初だ……。」

 愁弥はとても驚いていた。

 ないのか。愁弥の世界には。とても発達してそうな世界だけど。


 私達は、街から高い塔に案内された。

 街の中心に建つその塔は、王国で言うと城の様なものなのだろう。門には魔道士達が番をしていたのだから。


「クリュト様。」

「客人だ。」

 ロッドを向けられクリュトはそう答えた。魔道士たちは、白いローブでその身を覆っている。残念ながら、その顔も見えない。布は彼らの頭をしっかりと覆い、顔すらも隠してしまってる。低い声だけが聞こえた。


「どうぞ。」

 大きな物音をたてて鉄格子の門は開く。

 クリュト、ミント、スティル。そして、私、愁弥、ブラッドさん、リデア。

 デカイ狼犬2頭。


 のそのそと後からついてくる…………ルシエルと、ヘルハウンド。

 大所帯にも程がある。


 塔の最上階にでも連れて来られるのかと思いきや、2階だった。

 そこは大きな洋間。見るからに玉座が正面にある。そこに紫色のローブを着た白銀の髪をした老女がいたのだ。

 白銀の髪は纏めてあるが、なにやら玉ねぎに似た髪型だ。更に、ぎろりと睨む桃色の眼が、やけに不気味だった。


「ほぉ? 何奴?」

 樫の杖だった。それを右手に持ち膝の上に倒した。

「はっ!」

 クリュト……は、膝まづいた。

「禁区にいた旅の者です。カルラ様!」

 と、クリュトが顔をあげると、

「そなた……得体の知れぬ者をこの地に入れたな?」

 と、その老女の眼が薄く金色に光る。更に、樫の杖を私達に向けたのだ。

払拭ソル!!」

 カッ!!

 と、私達に向けて樫の杖から白い光は放たれたのだ。それは一瞬にして私達を覆った。


「わ!!」

 スティルの声が響く。

 眩い。それしかわからなかった。



 >>>


 私は頬に落ちるその水で目を覚ました。

 ぴちょーんと、頬に水が伝う。


 どこだ?


 妙に身体の下は冷たい。更に硬い。目を開けば薄暗い。

 まさか……牢屋??

 身体は動いた。起き上がる事が出来たのだ。円塔。中はそこまで広くないが、丸い部屋だ。天井は高い。だから塔だと思った。

 周りも床も石造り。細かな石が敷き詰められている。鉱石だ。


 どこだ? みんなは?


 どうやら私は1人のようだ。

 腰元に手を伸ばす。

 武器はある。ただ、ルシエルの檻篭は無かった。双剣とアイテムを入れてる布袋はあったのだ。


 ルシエル? 愁弥……、リデア……ブラッドさん。


 私は立ち上がると周りを見渡した。不思議な事に、光か差し込んでないのに周りを見渡せるだけの光はある。どうやらこの鉱石が光を放ってるらしい。それが、灯りの変わりになっているようだ。なので、この空洞を見渡せるのだ。


 扉の様なものはない。

 辺りはただの石壁だ。みんなは……無事なのだろうか。


 不安は過る。

 ここが地下牢だと知るのはもう少し先だった。

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