第17話 イズナの森
ーー“アルティミスト”には禁区と呼ばれる地帯がある。それは“突発性に出現した魔物の棲息地”である。
イズナの森ーー、そこもまたその場所であった。そこで出会ったのはーー、まだ若い少年と少女であった。
だが、彼等は怪我をしている。
その理由はーー、目の前にいる”狼“に似た魔物たち。彼等が手を加えた事は明確だ。
ガルル……と、噛みつきそうに牙を剥き出しにしている。ドワーフである”ブラッド“の、先制攻撃が彼等の怒りを買ったのだ。
さらっと流れる黒髪ーー。
ボブヘアーの少女”
「コイツらをどうにかしないと先に進めそうもないな?」
双剣を握り瑠火はそう言った。
「は?? 逃げるつもり?? こんなの食い殺せって言ってるよーなもんじゃん!」
黒く柔らかな体毛……、ビッグな狼犬はそう言った。
“ルシエル”である。
彼は体格が尋常ではない。人間一人、二人を軽々と腰に乗せられる程だ。アフリカゾウ、その程度はあるだろう。
だが、顔カタチは犬だ。それも凛々しい狼犬。余りにも愛嬌ある表情をするので、子供っぽく見えるがこれでも“破滅のルシエル”と、通り名がある。
「貴方たちは……一体?」
肩に傷跡をつけられた少年“スティル”は、瑠火とルシエルを見て、そう言った。水色の瞳が疑わしく揺れる。
隣にはピンクの髪をしたローブ姿の少女がいる。セミロングのか細い少女は、少年スティルの腕にしがみつき、不安そうな瞳を向けた。
瑠火は、その瞳を、見つめ笑う。
「大丈夫、このルシエルが何とかするから。」
瑠火は心配そうな顔をしてる2人に微笑んだのだ。
「は?? 人任せすぎるぞ!」
ルシエルは大きな顔を瑠火に向けた。
顔だけで、身長155の瑠火を軽々と超える。
「瑠火!!」
その後に叫んだのは“
それからと言うもの、クールビューティーな姫様と野獣ルシエルのお供と化している健気な少年である。
「瑠火殿!!」
そう叫んだのはドワーフのブラッドだ。
大きな“両刃の斧”を携え、“猛獣フォレスキラー”と呼ばれる狼犬たちが、一斉に飛びかかって来るのを見て叫んだのだ。
(マズいな、数が多すぎる。)
瑠火は双剣を逆手に構え、両手をフォレスキラー達に向けた。
「“雷槌”!!」
瑠火の手から稲光が放たれる。
それは走って向かって来る狼犬たちの、頭上から降り注いだ。
電流の様な光が降り注ぎ、彼等は ギャンっ! と、声を上げ地面に倒れたのだ。
「やったか?」
蒼い光を放つ“神剣”を持つ愁弥は、目の前にばたばたと倒れる狼犬たちを見て、安堵の息をついた。
だが、黒いビッグな狼犬ルシエルは、鋭い眼差しを向けた。爪をたて地面に踏んじばり、身体を屈めた。
「まだだ……、来るぞ。」
そう口が言葉を発すると同時に、黒い煙が彼の牙剥き出しの口元からもやもやと沸く。
わざと、タバコの煙を吸わず吐く様なものだ。
その煙はやがてーー、円球になる。
「“
声と言うよりも吠えたと言うのが正しいだろう。ルシエルの口元が開き、黒き炎を纏った炎球は放たれた。
「きゃっ!!」
それは辺に爆風を与える衝撃であった。
腰元に双剣、すらりとしたスタイルの軽装の女性、“リデア”のその腰元まで長いサラ艶の“アイスグリーン”の髪が、猛風で荒れる。
華奢な彼女は目を庇う。その腕で。
猛風でそこらの砂粒や草が飛んでくるからだ。
「ルシエル!」
爆風が起きた後に辺りを襲うのは、強い閃光だ。それは目も開けてられないほどの、眩いものだ。腕で目を強い閃光で眩むのを防ぐ為に、庇いながら瑠火は叫んでいた。
「“
瑠火や愁弥たちの前で、逆毛たてて踏んじばる黒きビッグな狼犬は、遠吠えの様に天を仰ぎ吠えた。
地響きたてて地面を這いずり回る様に、黒い光の矢は、戸惑う狼犬たちに向かったのだ。蛇の大行進と言わんばかりにうようよと、土の地面を這い、怯む狼犬たちの足元に辿り着く。
足元から黒い光の矢は、槍の様に突出した。
正に、腹を串刺しにしたのだ。
それは、そこにいた狼犬全てであった。
ギャンっ!!
苦しそうに前足上げて、宙に浮かぶ狼犬たち。
地面から突き刺された事で、身体は浮いた。
その牙の見える口元からは血飛沫が飛ぶ。
悲鳴に似た鳴き声が響く。
ルシエルは、瑠火を振り返る。
「今だ! 瑠火! 愁弥!」
その声に目の前で黒い光の矢に突き刺され、身動き出来ないでいるフォレスキラーたちに、目を奪われていた瑠火と愁弥だったが、ハッと顔色を変えた。
「“雷鳴”!!」
瑠火は両手を“モズの早贄”の様になっている、フォレスキラー達に向けた。
いつもの“雷鳴”は、頭上から敵単体を電流の様な雷が貫く。
だが、この時の雷鳴は違かった。
まるで、そこにいる者全てを打ち砕く程の威力かあったのだ。
愁弥は、“神剣レイネリス”を構えていた。
刃は蒼く光始める。
まるで、“光の剣”だ。
「“
蒼く煌めく刃を薙ぎ払う。
光の刃は、狼犬たちを根刮ぎ切り裂いた。
それは、胴体から真っ二つに。
腹を、串刺しにされていた狼犬の身体が、愁弥の剣撃で真っ二つにされ、胴体から頭まで宙に飛んだ。
血飛沫を上げながら。
同時に周囲の木々までも薙ぎ倒されたのだ。
彼の剣技は、“女神の力”。
それはそれは森までも刈ってしまう。
ふぅ。
愁弥は……、身体を切り裂かれ絶命した狼犬たちを見て、息を吐いた。
剣は静かにその光を消失させる。
(……“戦いの女神レイネリス”の神剣、、、その力は未知だ。だが、とても強い。)
瑠火は剣を腰の鞘に納める愁弥を見ながら、そう思っていたのだ。
“ブラッド”は、死に絶えた魔物たちを見据え、斧を背中に背負った。
(……“禁忌の島”で見た時とは違う……、あの時はまだ、2人とも“危うかった”。 ここまで強くなるとは。)
ブラッドは、確かに気にかけた。
それは“親心”に似ていた。放置すれば死ぬであろう。 そう感じたから、“守護の腕輪”を授けたのである。
「お主ら……成長したな。」
紅い燃える様な髪は、パーマ掛かった様に見える。襟足まで伸びたそれは、口周りに生える髭と正に同じ毛質。
更に彼の眼は、夕焼けの中に煌めく向日葵の様なマリーゴールドの輝きをしている。
二頭身さながらの体型だが、顔は完全に親っさんだ。そして、その嗄れた声も。
瑠火と愁弥を見て、彼は笑った。
「ん? そーか?」
愁弥は首を傾げた。
「ブラッドさん、巻き込んですまない。」
瑠火はーー、そんなブラッドに真剣な目を向けた。
「此処から先もーー、待ってるのは戦いだけだ。」
ブラッドは、瑠火の真っ直ぐな深紅の眼を見つめた。
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