第15話 聖神アルカディアと十二の護神
ーー「え? エルフの長!?」
私もそうだが……リデアも驚いた様だ。まさか、こんなところでエルフの長に、会えるとは思ってなかった。
エルフは用心深いと聞いている。その長だ。姿を現しているとは。
「ほぉ? なるほど。エルフの長が直々に出てくる辺り……、切迫してる状況か?」
「メイフェイア大陸は混乱状態です。彼等はドワーフやエルフには目もくれずなので、我々は変わりないが……。大陸の小国はほぼ制圧された。」
トリアノン皇帝の声にフィルさんは、そう答えたのだ。
「人外の大陸を拠点として……世界制覇か? ウェルド王国も我等の国同様。まだ浅い。裏にいるのは“フェヴェーラ王国”か。謎の多い国だ。」
「……フェヴェーラ王国は要塞です。外から中を伺う事は不可能。国勢状況も不明です。そこに……元騎士。元戦士。更に……“狂者”と言われる血に飢えた連中。それらが集って出来た国が……ウェルド王国。手を組むとは思っても見なかった。」
トリアノン皇帝の前で……フィルさんは、とても落胆していた。
「
「ええ。エルフもそうです。まるで……人間狩り。それをしている様だ。」
人間狩り……。
フィルさんとブラッドさんの声に、私は少し……イヤな印象を持った。
悪意の塊ーー、そうとれる言葉だ。
「連中の目的は破壊神復活。それに……謎の国。フェヴェーラ王国が絡んでるとなると……世界制覇。これは、頭に入れておく必要があるな。」
トリアノン皇帝はそう言ったのだ。
「お前達は……自由に動けそうだな。俺が動く訳にもいかねぇし。」
私達を見たのだ。
「トリアノン皇帝。言葉が……」
「あ? ああ。もういいだろ。あーそうか。エルフの長。やりすぎたな。悪かった。だが、破壊神復活は人間にとって……脅威だ。聖神戦争を終わらせた神の復活は……、この世界にとって間違いなく厄介なモンだ。」
スカールの声に皇帝は少し笑ったが、直ぐにそう言った。
え? 聖神戦争を終わらせた?
「わかっています。聖神戦争の終わりーー、それは余りにも凄惨でした。生き残った神族が迫害ではなく追放された原因。それが……“破壊神復活と十二の護神の死”。戦争の終結は、十二の護神が死を持って……破壊神を封印した。」
フィルさんの声が響く。
「その凄まじい力を目の当たりにした人間たちは、神そのものを脅威の存在と認めた。強大な力を持つ者を……“厄災をもたらす異端者”と、恐れるきっかけになったんです。」
更に続けたフィルさんの隣で、ブラッドさんはため息ついた。
はぁ。と。
「ワシらも見たがな……。破壊神の力は凄まじかった。あのまま暴れていたら多くの人間は、虐殺されただろう。だが……十二の護神が止めたんじゃ。自らの命と引き換えに。破壊神を封印したことと、神軍の要が死んだことで、戦争は終結したんじゃ。」
と、私達に説明してくれたのだ。
「えっと……ちょっと待って。破壊神復活には神器がいるのよね? と言うことは破壊神は戦争中に、神器で復活したってこと?」
リデアがそう言うと
「いえ。聖神戦争の時は……“自ら降臨”したんです。その為……ほとんど暴走に近かった。だから十二の護神の力を込めた神器を持ってしても、封印は出来ず……命を捨てることになったんですよ。」
フィルさんはそう答えた。
降臨した? 破壊神とは……。一体……。
「フィルさん。破壊神とはなんなんだ?」
と、私が聞くと
「お前のその髪の色と真紅の眼。それは、
トリアノン皇帝は、頬杖つきながら私を見たのだ。砕けすぎじゃないか? この皇帝。
愁弥の友達みたいに見える。
「私は……何も教えて貰えなかったんだ。禁忌の島では……戦争の話も、神の話も
私は……言ってて悲しくなってしまった。里の者たちを……思い出してしまうからだ。
暗く淀んだ眼。明日への希望すら無い……極寒の世界。光すら無く何の楽しみもなく……自由すらも、奪われた世界にいたみんなを。
「聞きたくても聞けなかったんだよ。瑠火は優しいからな。閉ざされた世界で生きてる人間たちに、戦争のハナシなんか聞けるワケねーだろ。そのせいで、あんな所にずっといたんだ。」
その声に私は顔をあげた。見れば……愁弥が隣にいたのだ。
「おお。そうじゃったな。愁弥はあの島にいたんじゃったな。」
「ああ。里の人たちには会ってねーが……、あんな世界で生きてたってのが……、俺からしたら正直。考えらんねーよ。」
ブラッドさんの声に愁弥はそう言うと、私の肩に手を置いた。
「あーまー。悪い。そうだったな。お前らも迫害されたんだったな。」
トリアノン皇帝は……少しだけ、申し訳なさそうな顔をしたのだ。
「……月雲の民の不憫さは同情に値します。神と神族に加担した罰。それを全て受けたのは……貴方の里の者たちだった。他の種族をメイフェイア大陸に、追い遣るだけ。そう提案してくれたのも……“
フィルさんはそう言うと、私の方を振り向いた。
「……感謝しています。虐殺されてもおかしくない状況だった。だが……神族たちが自らの“
村長が……。そうか。だから話をしたがらなかったんだ。自分が……里を……里の者達を、追い遣ったと。そう思っていたから。
「その辺りの美談ってのは、言い伝えでは消されてるけどな。だから……お前達と神は悪者扱いだ。自ら責任をとった神族。他の種族を守ろうとした月雲の民。その話を知ってるのはなかなかいねぇかもな。」
ふぅ。と、トリアノン皇帝は息を吐いた。
「我々も……“神器”について調査しだして知った事実でしたからね。」
そう言ったのはスカールだった。
「ああ。破壊神ってのもやっとわかった所だ。言い伝えだと……“天の怒り”。そんな言われ方だったが、アレの正体は、“聖神アルカディア”」
頷いたトリアノン皇帝は、そう言ったのだ。
「え?? そうなの?? 知らなかったぞ! 俺様も!」
と、一番はやく声をあげたのはルシエルだった。
「聖神アルカディアが……破壊神?」
私はそう聞き返した。
「聖神アルカディアは……表裏一体の神です。聖なる神でありつつ、破壊の力を隠し持つニ面神。」
フィルさんはそう言った。
「ニ面神? てことは……二重人格!」
愁弥は妙に強く納得していた。言い切っていた。
「生き残った神族たちは、自分のアタマの責任をとって追放された。ってハナシだ。主従関係だな。それも堅い。」
トリアノン皇帝は頷いた。
「……十二の護神の神器とは……“聖神アルカディアの中に眠る破壊神”を制御しているものです。その為……普段は出て来る事はありません。復活……。つまり“覚醒”させるには神器が必要です。」
フィルさんの声に……私は、しっくりときた。
「そうか。制御装置みたいなものか。聖神戦争の時は、それが暴走した。と言うことなのか?」
「ええ。何故……破壊神が覚醒して、地上に降臨したのかはわかりません。ただ……暴走していたのは、確かです。」
フィルさんが言うと
「人間の裏切りに心を傷めていた。そう聞いたがな。」
と、トリアノン皇帝はそう言ったのだ。
「真実ではありません。ただの“探求者”の独り言です。」
「まぁ。そうだけどよー……。なんかわからねぇ気もしなくねぇんだよな。俺としては。」
と、スカールの声にトリアノン皇帝はそう言ったのだ。
「世迷い言です。鵜呑みになさらないでください。それに人間と神を一色端にされないように。」
「はいはい。わかってますよ。」
トリアノン皇帝は手をひらひらさせながら、そう答えた。不貞腐れた顔をしている。
この二人は……なんなんだ? 皇帝と補佐官じゃないのか?
教育係みたいだな。スカールは。
「まぁ。そう言うことだ。破壊神とアルカディアが同一神ってのは、知らねぇ連中が多い。神も隠してた訳ではないんだろうが……、最近になって、色々とわかってきたって事だ。」
トリアノン皇帝はそう言うと、ぽんっ。と、膝を叩いた。
私達の方を見たのだ。
「それはそうと……お前……破滅の幻獣だっけ? ちょっと顔を見せろ。大陸を滅ぼしたんだろ?」
と、トリアノン皇帝はルシエルの檻籠を見たのだ。
「そうだ。そのキレると破壊神になるヤツに、閉じ込められたんだ! 俺様は! まったく! 自分の方がヤバい奴じゃんか! 俺様は自制心があるからな!」
あ。今わかった。
こうゆう奴がいるから……神は、アルカディアが破壊だと言いたくなかったのかも、しれないな。
威厳と尊厳。
そんな問題がありそうだ。
その後ーー、ルシエルはトリアノン皇帝に、無茶苦茶に撫で回されていた。
驚いたが、トリアノン皇帝は23歳だそうだ。
この国を起ち上げたのも……騎士団への王国の扱いに、不満を持っていたからだそうだが……、元々は貴族の出身。
これだけの大きな国を起ち上げられる財力には、裏に色々とありそうだ。そこまでは聞かなかったが。
スカールに睨まれたのでやめておいた。
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