閑話 姫様御一行の旅バナシ②〜ドルフと魔道士〜

 ーーエルフェン王国を出ると深く広い森。リデアを連れ、私達は森を歩く。この先に港町がある。


 カサンドラ大陸は自然豊かな地だ。清流の音が聞こえる森が広がっていた。緑溢れる山が囲む自然郷。


 オルファウス大陸とは異なり国と国を分けるのは、高く聳える山。山越えが必要な地でもあった。


「“聖魔道士”?」

「ああ。王城とヤンバルの街を破壊した……“暗黒の番人ダークバモス”。それを従えていた男が、そう言ったんだ。」


 う〜ん。と、隣でリデアは唸った。


「なんだろ? 聞いたことないわ。」

「アレじゃねーの? “闇魔道士”ってのがいるんだろ? その逆じゃね?」


 愁弥が隣でそう言った。するとリデアはう〜ん。と、唸ったのだ。


「リデア?」


 私はなんだがとても難しい顔をしているリデアが、気になって聞いてみた。隣で顎に指を当て……本当に難しい顔をしている。


「そうね。あたしの“知識”だけど……。アルティミストには“禁呪”って言うのがあってね。使う事を余り好まれない魔法があるの。」


 と、リデアは話始めたのだ。


 禁呪……。それは知っている。使ってはいけない魔法。魔術などを総称したものだ。私の使う“聖霊術”にもある。それは村長が使った結界。


 それもその一つだ。


「それを使うのが“闇魔道士”なのよ。つまり禁呪の使い手ね。ああ。勿論……“闇の力”。それも禁呪に含まれるわ。闇そのものが強大だから。それ以外は魔道士。そう呼ばれているわ。」


 リデアはそう言ったのだ。


「使えないのに使うヤツらがいるのか?」


 愁弥がそう聞くとリデアは、やはりう〜ん。と、唸った。何も知らない私達に、どう伝えればいいのか。考えてる様にも見えた。


「それは……神や神族がいなくなったからね。元々、魔法と言う言葉は、“精霊の力”。“精霊魔法”が語源なの。それを人間が授かり広めたと言われているわ。」


 リデアは更に続けた。


「それに……瑠火。貴女の里の人たち。魔法が世界に広まったのは、貴女たちの助言もあったと聞いてるわ。」


 私はいきなりリデアに視線を向けられて驚いた。


「不思議な力を持つ民。それは貴女たちしか使えない。“他の人間たちでも使える力。魔法を精霊と力を合わせて人間に教えた”。と、聞いてるわ。その時に、“魔道学士館”が誕生して魔法を伝える者達。さらに使う者達を“魔道士”と、呼ぶ様になったみたいね。」


 リデアはそう言うと直ぐに


「あ。ごめんね。聞いた話だから、月雲の里の民の事は、本当かどうかはわからないわ。貴女たちは……そうね。謎なの。だから、真実かどうかはわからないのよ。」


 と、焦った様にそう言った。私がとても怪訝な顔をしていたのか……それとも、驚いていたのか。きっと、両方だろう。


 正直。とても驚いたからだ。


「てことは人間と瑠火の里の先祖が、魔法ってのを誰でも使えるようにしたんだよな?」

「ええ。あと精霊ね。」

「それならなんで……禁呪ってのがあるんだ?」


 愁弥はリデアにそう聞いたのだ。


「それが、“神と神族の力”よ。人間は精霊の力を魔法としてそのまま使っていた。でも、色んな研究があって様々な術を生み出したの。その時に、“神の力”。そこに目をつけた。魔術と言うのは魔道士が編み出した力の事を言うのよ。」


 リデアはそう言うと少し暗い顔をした。


「でも……神の力には強大すぎて……恐ろしいものもあったそうよ。それを“禁呪”として、神が使う事を封じたの。でも、神と神族がいなくなって……“禁呪”を使う者が現れた。それを闇魔道士と呼ぶ様になったそうね。」


 そう言ったのだ。


「なるほど。」


 私が頷くと、リデアはため息ついた。


「なんかその話を聞いたら……魔法ってのに、魅力を感じなくなってね。だからあたしは、剣一筋。苦手なの。魔法。便利だとは思うけど」

「まー。ちょっとダークだよな。イメージが。ヒーリングか? あれは便利だけどな。」

「そう! いいのもあるのよ。でもねー。アイテムの方が気楽かな。」


 愁弥とリデアはうんうん。と、相槌うっていた。


 どうやら“聖魔道士”とやらは、また別な様だ。


 バサッ……バサッ……


 そんな時だった。上空から鳥の羽音が聞こえてきたのだ。


 クェーと鳴き声をあげながら、降りて来たのは一羽の大きな鳥だった。私の前に飛び降りると羽をバタつかせたのだ。


 グレーの身体に茶の頭。勇ましい鳥だった。


「あ? 鷲か?」


 愁弥はそう言った。


渡り鳥ドルフよ。瑠火……誰かが貴女に、メッセージを送ってきたのね。」


 リデアがそう言うと黄色い嘴は動いた。


『瑠火。愁弥。ルシエル。久しぶりだな。覚えておるか?』


 ドルフは語りだしたのだ。


「この声は……」

「おっさんか?」


 愁弥も思い出したのだろうか? そう。


『いつぞやは……まだ氷の世界だったな。』


 低く嗄れた声。この声は


「ブラッドさんだ。」

「ブラッドさん? 誰?」

「ドワーフだ。瑠火の島で会ったんだ。」


 目を丸くしたリデアに愁弥はそう答えた。そう。ブラッドさん。禁忌の島で出会ったドワーフだ。


『実はな。カサンドラ大陸にいてな。お主らがもし、近くにおるなら……顔を見たいと思ってな。こうしてドルフを飛ばしたのだ。どうかな? 立ち寄るのであれば、カサンドラ大陸の“ハーベスト”。そこに来てくれんかな。」


 ドワーフのブラッドさんの声に、愁弥は地図を広げた。それを隣で覗くルシエル。


「瑠火! ハーベストは“陽光の神 アラゴンの神殿”の近くだ!」


 ルシエルも会いたかったのか。少し声がはずんでいた。私を見たのだ。


「ハーベスト……」

「ドワーフ? あたしも会いたい! 行きましょ!」


 リデアは私の腕を組んだ。ぎゅっと。


「……リデア……仕事……」

「そんなの断ればいいのよ! ドワーフなんて滅多に会えないんだから!」


 そ……そうゆうものなのか? 良くわからないが。リデアは、それでも嬉しそうにしていた。


『立ち寄ったら“コーラル”と言う酒場に来てくれ。大体、ワシはそこにおる。』


 ブラッドさんの声が聞こえたかと思うと、クェー。バサバサと、ドルフはグレーの羽を広げた。羽ばたかせ鳴いたのだ。


「すげー。鳥の声に戻った」


 愁弥の言う様にブラッドさんの声ではなく、少し高めの声で鳴いたのだ。更にドルフは、ふわっと浮くとそのまま飛んで行ってしまった。


「勝手に戻るのか?」

「ええ。そうよ。巣のある“待合所ショット”に帰るの。彼等はまた次の仕事が待ってるから。」


 リデアはなんだかうきうきとしているのか、顔がにこにことなっていた。こんなに嬉しそうなリデアは、始めて見た。


 笑うとカワイイな。


「こりゃスマホいらねーわ。すげーな。ルシエル?」

「ドルフは頭がいい。文書なんかも運ぶ。今みたいに、言伝てが無いとわかると勝手に戻る。言伝てがあれば、それを伝えてくれる。」


 ルシエルもなんだか嬉しそうだな。


「ハーベストか。愁弥……近いか?」

「ん? あー。ちょっとあんな。この感じだと夜になりそうだな。今夜は“ダルムの港町”で泊まった方が良さそうだな。」


 愁弥は地図を見ながらそう言ったのだ。確かに、空はオレンジ色が少し陰り始めていた。もう直ぐ、夜になるだろう。


「肉! 肉! にーく!」


 途端にルシエルがはしゃぎだした。


「ダルムか。そこで泊まろう。」

「そうね。お腹すいたしね。ルシエルじゃないけど。」

「に〜く!」

「わかったっつーの。俺の耳をかじるな! なめるな!!」


 何をしているんだか。じゃれ合ってるし。ダルムの港町は、リデアを送る為に立ち寄ろうとしていた街だ。この森を抜けるとある。


 私達は、ダルムに向かった。

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