第3話 ダークレイとウェルド王国の戦士たち
ーー港は混乱に包まれていた。
空を自由に飛び交い、大きな翼広げるダークグレーの幻獣。
“
ルシエルやアプラス。更にペガサスなど、獣に近い姿ではなく魔神に近い。
銀色の湾曲した前方に突き出した角二本。それが、ダークグレーのドラゴンに似た頭。そこに生えている。
異様に光放つメタリックな身体は、細身であり手足なども長い。手足には長く鋭い爪が光る。
港に停まる軍船ーー、バトルシップ。商船。それらに向けて、黒き炎混じる波動。それを放ち燃やしていた。
「まさか……海で沈没した商船……。ダークレイか?」
私は船が燃やされていくのを見ながら、そう呟いた。街を襲い炎に包んだのもコイツだ。恐らく……。
あのハーレイタウンの様に。
港には碧色の国旗を揺らすバトルシップも、停まっている。だが火に包まれる船たちとは離れている。更にダークレイはその船には一切。手を出さない。
やはり……“召喚獣”。
水色の軍服を着た騎士たちと、碧色の軍服を着た騎士たち。港では攻防戦も繰り広げられていた。倒れてる者たちもいる。
ハッハッハッ!
混乱した港の中に、碧の軍服着た騎士。更に胸当て一つもつけていない、軽装者がいた。
高らかな笑い声……。その者であった。
大きな剣だ。変わった刃の形状をしていた。刃先は扇形だが、刃自体はまるで板の様に平たい。更に、刃の背は弓の様な湾型の細い刃がついている。
剣の刃が枝分かれしているのは、始めて見た。斬撃で引っ掛けられそうな刃だ。
その大剣を肩に担ぎ笑っている小麦色に焼けた肌。見るからに強靭そうなその肉体。
更に……大きい。
ボタ……ボタ……
と、地面に片膝をつけ屈む姿。赤い血が滴り落ちていた。
「クロイド!」
黒い軍服姿のネイビーの髪をした男。クロイドが、剣を手に片膝をついていた。
その前にこの男がいるのだ。
「……瑠火? 神器はどうした?」
駆け寄った私に向けられる眼差し。胸元から腹まで斬りつけられているが、抑える手も血に染まっている。
それでもこの男のパープルアイは、鋭かった。
「持ち帰っていない。」
「何故だ? 持ち帰れと言ったはずだ。これだから、野放しの人間は信用出来ない。」
深い傷を負い……しんどそうな相手を前に、悪いとは思うが……、ブチッと私の何かがキレた。
「私達は“騎士”じゃない。指図される覚えはない。」
フッ……と、クロイドは笑うと立ち上がった。
「ほぉ? まだ立てるか? 俺の“
クロイドの立ち上がる様子……それを眺め、明らかに笑っている男。
黒光りする刃だ。まるで黒曜石……。それで作られているのか、輝きを持っていた。
強靭な肉体を見せつけたいのか、筋肉質な胴体を晒している。ベスト。それに似た白い服。それを羽織っている。肩丸出しの袖口。金色に光っていた。
私は双剣を抜いた。
「お前達は何者だ? 何故この街を襲う?」
私はその男の眼を見た。ダークレッド。その輝きをしていた。赤みがかった茶髪。短めではあるが、頭の上はツンツンしている。
この身体の大きさーー、話に聞いたヴァルナ族か? 産まれながらに身体が大きく“戦士の子”と呼ばれる種族。
「何故? そこに国と街があるからだ。強そうだと思えば、戦ってみたくなるだろ? それが……極自然な事だと、俺は思うが?」
男は、にやっと笑ったのだ。
「ふざけた連中だ。何が目的だ? 戦争でも始める気か?」
クロイドは長剣だ。それを握りそう言った。
ハッハッハッ!
高らかな笑い声。大剣担ぐ男は、反り返りながら笑った。
「戦争? わざわざ始めなくても……“生きるってのは戦争だ”。これだから騎士ってのは困る。王国と言う檻籠の中にいると、そんな事も忘れちまうのかよ。」
男は大剣を振り下ろした。
ぶんっと。
「お前らみてぇのは……とことん痛めつけたくて、仕方なくなる。そこの嬢ちゃんたちを護ってみろよ? その剣で。」
男がそう言うと、クロイドは構えたが……
何故か。愁弥が私の前に立ったのだ。
「愁弥!?」
私は驚いてしまったので、叫んでいた。
「あー……そうゆうのシンプルで助かるわ。まじで。国だ、王だとワケわかんなかったからな。」
愁弥は神剣を握り、そう言ったのだ。それも……その横顔は……なんだか、嬉しそうに見えるが気の所為か?
「お。いいねぇ。お前みてぇの好きだぞ。俺は。挑んで来る威勢のいいガキを、なぶり殺すのが、俺の生き甲斐だ。」
大剣握り、男は笑った。
完全な狂戦士タイプだ。それも狂った方だ。
「カンタンになぶり殺されてたまるかよ。」
愁弥は言うなり突っ込んだ。
速い。
あっとゆう間だった。男の懐に入りこみ斬りかかったのだ。
だが、男は後ろに避け刃から退いた。更に大剣を横に斬り払う。
愁弥はそれを払われる前に後ろに飛んで避けた。何という……瞬発力。
愁弥は地面を蹴り飛び上がると、男の胸元めがけ飛び蹴り。
「「お前は何者だ!」」
私とルシエルは同時に叫んでいた。
身軽すぎる。
愁弥の身長は180あると聞いた。今は少し、伸びているかも? と、言っていたが。
男はそれよりも高い。頭一つは高いが……。
「へぇ?」
少しぐらつきはしたが、至って平然。男は、着地した愁弥をぽんぽんと、胸元叩きながら目を丸くして、見ていた。
大剣を構えた。
「お前。名は?」
「
愁弥は神剣を構え、男の前に立った。
「“ゼクト”だ。来い。なぶり殺してやる。」
「やられねーっての。」
ゼクトと言う男と愁弥の戦いは、再び始まった。
だが、ダークレイは空を舞い私達の方に向かって来ていた。
チッ。
クロイドが舌打ちする。
「エルフェンの近海で商船を襲ったのは、アイツだそうだ。たまたま海上騎士団が巡回していて、空を飛ぶあの幻獣の姿を見ていた。」
クロイドはそう言ったのだ。空中旋回してこちらに向かってくるダークレイ。それを見ながら。
「これだから……“得体の知れない力”は、存在するだけで厄介だ。人間の脅威になる。」
クロイドの声はとても低く……どこか、憎しみ。それが混じっている様だった。
「でもお前たち人間は……今。その得体の知れない力に助けて貰う。それを忘れるな。“小僧”。」
ルシエルはそう言うとダークレイに向かって行った。飛び上がると黒き波動。
それを放ったのだ。
ダークレイの口から黒い炎が混ざった波動。それが放たれる。
空中で大きな力がぶつかり合った。
辺りを閃光が包む。更に突風も。
ダークレイとルシエルは、港の地に降り立った。正面から向かい合う。
「うわ!」
その時だ。
私とリデア。その後ろでふっ飛ばされて来る騎士がいた。
蒼い軍服の騎士だ。
更にその前には、剣。長い剣を持った男がいたのだ。
揺らめく黒い鎧。更にブロンドの髪。長身で美しい男ではあったが、前髪から覗く眼が鋭い。蒼い眼だ。
耳元まで伸びた横髪。左耳には紅い宝玉のピアスが煌めく。
「コッチは中々面白そうじゃねーか。」
どうやら怪我をした騎士を、投げ飛ばしたらしい。クロイドは投げ飛ばされた騎士に、手を貸していた。
「今度は騎士? 一体……なんなの? この国は。」
リデアは剣を握りながらそう言った。
「騎士? 一緒にするな。俺達はその総称を嫌う戦士だ。二度と呼ぶな。おねーちゃん。」
口は軽いがずっと……私達を睨む眼は、鋭く。更にその表情も冷ややかに笑うだけだ。
「海上騎士団じゃないのか?」
クロイドはそう聞いた。
すると男はまるでバカにする様な表情をしたのだ。
「そんなモンいねーよ。お前らの常識と俺達の常識は、違う。」
そう言うと踏み込んだ。
「!!」
私は咄嗟ではあったが、男の振り下ろす剣を受け止めていた。
速い!!
男はまるで消えた様だった。私の目の前にいきなり現れたのだ。
何という速さ! それにこの力!
二本の剣。それで受けているだけで、腕が痺れる。抑えつけられている様だった。
頭上で私は双剣を両手で抑え、男の剣を受けているのだが……押されそうだった。
「それとな。騎士じゃねーからな。俺は“容赦”しねー。」
男の口元は冷たく笑った。
「うっ!!」
私は男の長い脚。
腹元に蹴りを喰らっていた。
「瑠火!」
リデアの声が聞こえるが、私は蹴りでふっとばされた。
「女ってのは悲鳴が一番そそる。いい声で哭け。」
ふっ飛ばされたその後ろだった。
背中から蹴りを喰らったのだ。
「うあ……っ……」
ただの蹴りじゃない! 気か? まるで波動で撃たれたみたいな衝撃だ。
私は吹き飛ばされながら、更に次は前だ。
男はまるで私の身体をボールのように、蹴りつけていた。
浮かぶ身体。
腹元に入る蹴り。ただの蹴りではない。身体は、上空に吹き飛ばされる。
「やめて! 瑠火!!」
リデアの悲鳴に似た声。
男の気配は下にあった。
私が上に吹き飛ばされたからだ。見下ろすと剣を突き刺そうと飛んでいた。
殺られてたまるか! こんな変態男に!
私は
「“旋風”!!」
男に向って風の発動。竜巻を放った。
足元から巻き起こる竜巻。男はそれに巻き込まれ、ふっ飛ばされていた。
私は地面に落下する。
飛翔。風の力を借りて跳躍力を上げる術だ。落下する前に、使い空中で体制を戻した。
そのまま地面に着地する。
だが、腹部に喰らった衝撃は強く、よろけていた。
「瑠火!」
リデアが駆けつけてきたのも、直ぐだった。私は手を借りながら立ち上がった。
少し離れた所に、男は立っていた。
「魔法か?」
と、黒い鎧を着けている腹を押さえていた。首を傾げる辺り……何て事はなさそうだな。
身体を斬り裂く術なのだが。耐性か?
「しぶといオンナだな。悲鳴の一つもあげねーとは。面白くねーな。」
男は剣を持ったまま、そう笑った。
ごほっ。
私は腹部に走る鈍痛。それで咳こんでいた。まるで、何か重いものが乗っかっている。そんな感覚だ。息苦しい。
ブッ! 地面に血を吐きつけた。
「そう簡単に思い通りになると思うな。私はお前みたいな奴が、一番嫌いだ。」
暴力……それも、女、子供、老人。その者たちに向ける者だ。コイツは。
しかもそれを愉しむ習性がある変態だ。
私はこうゆう人間が……とても許せないし、イラつく。
「いいねー。そうゆう強気なオンナを痛めつけて、ぶっ壊す。やめらんねーな。」
狂った男の次は……ド変態か。
ふざけた国だ。
私は目の前のにやつく男に思う。
この国の王とやらを、是非見てやりたい。と。
「ぶっ壊されてたまるか。ふざけるな。」
私はリデアの手を離した。
肩に手を乗せてくれていたのだ。
「瑠火。」
「大丈夫だ。下がってて。」
愁弥もルシエルも少し……離れた所で、戦っている。
私達三人の敵。
私はこの時、この者たちをそう認識した。
これから立ち向かう……“敵”だと、直感した。
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