第1話 海上騎士団の船>>クロイドの目的
ーー船室は波の揺れを少しだけ感じる程度だった。
目の前には深いネイビーの髪をした男。紫宝の様な眼は、不気味に煌いていた。
「
クロイドーーは、私を見てそう言ったのだ。
情報は流れているのか。
「他にもいるのか?」
「いない。私だけだ。」
クロイドの声に、私はそう答えた。すると、クロイドは不敵に笑った。口元をあげた。
「ならばお前だけか。」
そう言ったのだ。
知っている。この男は。敢えて聞いているのだ。それに……私達は何者だ? そう聞いてきた。なんだ? 調べているのか? 私達……月雲の民のことを。
それとも……この男が、里を襲った者と繋がってるのか?
「だから! 何がしてーんだ? お前は。何なんだ?」
愁弥はイラついた様にそう怒鳴った。
クロイドが私を見てーー、月雲の里の者。そう認識したのは、この黒髪と紅い眼だろう。
この髪の色と眼は、他にはいない。似たような色合いはいるみたいだが、漆黒と真紅。それは、私達の象徴だ。
だから、何処に行ってもわかってしまう。
外見の言い伝え。それは文献などなくても、象徴的なら人を通じて広まるだろう。
「このコンパスの指すもの。それはわからない。これは、文献などから再現したものだ。使える訳ではない。同じ物など作れない。人間では。」
クロイドはそう言ったのだ。
「眺めるだけの為に作ったのか? ヒマだな。」
ふんっ。と、鼻息荒くそう言ったのはルシエルだ。
「この文字盤。それを調べる為のものだ。何しろ現物がないからな。」
クロイドはそう言うと、私を見たのだ。
使えないーー、それは本当の様だ。針はついていたが、動いてはいない。
船が動いていて使えるなら、ブレるはずだ。真っ直ぐと北。それを二つとも指していた。
「それにこうして置いておけば、相手の反応も見れる。人間は隠し事が得意だからな。お陰で、お前達がこのコンパスを知っている。それが良くわかった。答えて貰おうか。」
この男は、神器を追っているのか? それは破壊神を復活させようとしてるのか?
だが……海上騎士団が追ってる。と言う事は……、何かあるんだろう。
私達だけでは……情報が少ない。それに手掛かりは欲しい。何が起きてるのか……。それがきっと、里を壊した者。それに繋がるはずだ。
「私達は北の墓場。そこに魔物討伐に行ったんだ。そこで神器を見つけた。」
北門の騎士は知らなかったみたいだが……。まだ、話は行っていないのだろう。
カイト達が王城に向かったのもついさっきだ。
私がそう言うと
「瑠火!」
「話ちゃうの?」
愁弥とルシエルは驚いていた。
「……話しておくべきだろう。私達に悪意はない。この男はどうだか知らないが。」
私はそう答えた。
すると愁弥は、剣をしまった。ルシエルもおすわりしたのだ。
「姫さんが言うなら仕方ねーか。」
「はいはい……。世間知らずで怖いもの知らずも、いい加減にして欲しいね。」
愁弥とルシエルの呆れた声が、聴こえた。
「幻獣とナイト気取りの小僧。それをお供に神器集めをしているのは、何故だ?」
クロイドは、私を睨みつけていた。
「集めようとしている訳ではなかった。たまたまそうなっただけだ。追いかけるしかない。それもようやくわかった所だ。」
私はそう話した。この男には、下手に嘘をつかない方が良さそうだ。
なんとなく……そんな気がした。
「それで? 北の墓場でアプサリュートの船は、どうやって見つけた? それも月雲の民の力か?」
クロイドは私を強く見据えていた。
やはりそうだ。この男は……神器と私達。月雲の民。その繋がりが知りたいのだろう。
アプサリュートの船は……確かに、消えていた。突然、現れたのだ。アレでは誰にも見つけられないのだろう。
それに海底の奥深くだ。そこに沈んでいたのだ。普通に考えれば、辿りつけない。魔法か魔術なら可能かもしれないが……。
「それもたまたまだ。魔物を倒していたら、現れたんだ。」
「海底にはどうやって行った?」
質問が次から次だな。
ここは隠しても仕方ない。それに、王城にカイト達が行っている。
少なからず話は流れていくだろう。この男は、シャトルーズの海上騎士団だ。
「私の術だ。海底でも息の出来る力。それを使った。魔物討伐に必要不可欠な状況だった。それに、海底にも迷いこんだ様なものだ。」
そう。洞窟から出られなくなっただけだ。抜けたら海底だったのだ。
クロイドは私の話に、腕を組んだ。
「特異な術持ち。お前たちは……やはり奇妙だな。」
と、そう言ったのだ。
「あのさー。さっきからすげー気分悪いんすけど? 俺。聞いててイラつくわ。お前。」
愁弥はクロイドを睨みつけた。
「愁弥」
私はとりあえず……宥めようと思ったので、呼んだ。だが、愁弥はクロイドから目を離さなかった。
「それで? 何故ヤンバルだ?」
「スルーかよ! ふざけた野郎だな。」
愁弥はクロイドの……無関心な態度に、キレそうになっていた。
「……魔物がいると聞いている。だからそこに向かうつもりだ。私達の追うものと何か繋がりがある。そう考えている。」
私はそう答えた。
「魔物? 神器を追うのに魔物か? 神器の在り処。それはわかるだろう? 隠れている訳ではないからな。」
クロイドはそう言ったのだ。
それはそうだろう。十二の護神。その聖地は隠されている訳ではない。クロスタウン。そこにあったマリファスの神殿。その様に世界に存在している。誰でも巡る事が出来る。
グレンの話だと、聖神戦争で十二の護神は生き残っていない。つまり、マリファス神殿と同じ。神器は、祀られているのだろう。各聖地に。
ただ、そこで神器を奪う者などいなかっただけだ。
「何度も言っている。神器を集める為に動いている訳ではない。目的がある。」
「目的?」
クロイドの眼がぎらり。と、光った。心の奥まで見透かしそうな、鋭い眼光だ。
「里を襲った者たち。私はそれを追っている。」
そう答えると、クロイドはふっ。と笑った。
「なるほど。月雲の里。それを襲った者……。更に……神器。」
それはまるで独り言の様だった。だが、クロイドは
「ならば、追い求める物。それは同じかもしれんな。協力を要請する。好きに動き回ればいい。正し、神器については双方管理。手に入れたら教えろ。」
と、そう言ったのだ。
「なんでそーなるんだ? つーか。協力なんかするかよ。」
愁弥はため息ついたのだ。
「それは我が……“シャトルーズの海上騎士団”。それを敵に回す事になるぞ? 小僧。」
「小僧じゃねー。愁弥だ。」
クロイドの睨みに、愁弥はそう言い放った。
「その前に聞かせてくれ。何の為に海上騎士団が、神器を集めているんだ?」
私はそう聞いた。
「神器が破壊神復活の“鍵”になる。この地を破壊する力を持つ者だ。大陸二つを滅ぼした“破滅の幻獣”。その力をなど、足元にも及ばない。」
クロイドがそう言った時だ。
「なんだと!? 俺様の力は偉大だ! 神なんかに負けるものか! ふざけるな!」
と、吠える様に怒鳴ったのだ。おすわりもいつの間にか解けていた。頭を低くして、戦闘態勢だ。
ルシエル。気持ちはわかるが……、神におしおきされただろう?
頭に血がのぼってるな。今は。
「ああ。お前がそうなのか?」
「白々しい! 知ってたんだろ!? こそこそと付け回してたな!?」
ルシエルはそう怒鳴ったのだ。
付け回していた?
「付け回してはいない。そんなヒマではない。ただ、“神について戦争に加担する民”。月雲の里が襲われたのは聞いている。そこに……マリファス神殿から神器が奪われた。」
クロイドはそう言うと、大きなコンパスのある円卓に手をついた。
「こちらの情報だと……“月光神アステラス”。その“月鏡”。それが盗まれた。つまり。三つの神器が動いた。わかるか? 」
クロイドは、私達を強く見据えた。
「ただの“勘違いでも墓荒らしでもない”。動いてる。破壊神復活の為に……何者かが。」
そう言ったのだ。
「……海上騎士団は、まだ集めてないのか?」
と、私が言うと
「やっと……“許可”が降りた所だ。これで神器集めに動ける。」
クロイドは身体を起こしたのだ。
この男は……底が見えない。何を考えてるのかわからない。嘘をついているとは思えないが……、だが、海上騎士団が動いている。と言うことは、王国が動いてる。そう言うことだ。
やはりそれだけ……強大なのだろう。破壊神は。
「で? なんでヤンバルなんだ? そこに神器でもあんのか?」
愁弥がそう聞くと、クロイドは笑った。
「何も知らんのか? それともただくっついてるだけか?」
「あ? ケンカ売ってんの? お前。」
「愁弥!」
私はキレた愁弥の腕を掴んだ。ぶちっと血管が切れそうだ。こめかみに浮き出ていた。
フッ。と、クロイドは笑った。冷たい笑みだ。
「ヤンバルの近くに“フェルメール神殿”がある。“女神フェルメール”。その神器が祀ってあるはずだ。」
クロイドは愁弥を見ると、口元を上げた。それはとても冷淡な笑みだった。
「それだけ吠えられるなら力はあるんだろう。神器を持って来い。」
「あ? なめてんのか? お前。」
駄目だ……。
愁弥にしても……この……クロイドと言う男。無関心な訳ではなく、キレていたのか。
そうか。余りにも冷たい表情だったから、わからなかった。
「持ち帰って来い。」
「お願いしますだろうが! コラ」
あーもう!
子供みたいなケンカになってしまった。
「愁弥。」
私は愁弥の前に立った。
「クロイド。わかった。余り刺激しないでくれ。この男は、ワリと気が短いんだ。まだ若い。」
「ガキ扱いすんな」
「私に絡むな!」
私にまで噛みつきそうだ。
とりあえず言っておこう。
「口だけ野郎じゃない事を、証明してみろ。小僧。」
「愁弥だって言ってんだろーが!」
あー!!
ぶちっと私の何かがキレたのだった。
「うるさい! 行くから黙れ! クロイド! 愁弥! いい加減にしろ!」
私は怒鳴っていた。
クロイドと愁弥に。
「…………」
沈黙……と言うよりも、二人ともぽかーんとしていた。
ルシエルはぷぷっと笑う。
「雷でも落としてやればいいだろ。俺様の時みたいに。」
と、そう言ったのだ。
「ルシエル。余計な事は言うな」
檻籠に入らないルシエルを何度か……雷槌で、弱らせて入れた事がある。
彼はその事を言っているのだが……根に持つな。
「雷?」
「え? まじ? そ~ゆう感じ??」
クロイドも愁弥も驚いていたのだ。
兎にも角にもクロイドの言う事を聞くのは、少々、不本意だが、王国が動いてる可能性が高い。
ここは話に乗り……状況把握をした方が良さそうだ。それに、上手く味方についてくれれば、海上騎士団だ。行動範囲は、私達よりはるかに広い。
情報が得られる。
私はそう思ったのだ。
「クロイド。協力する代わりに一つ答えてくれ。何故。北の墓場の魔物を放置していたんだ?」
「おー。そうだよなー。海上騎士団のお偉いさんなんだろ? おにーさん。」
愁弥が便乗しにやついたので、私はとりあえず、睨んでおいた。
これ以上、ややこしいのは御免だ。
「残念ながら、愁弥とやら。お前の期待する通りの答えは出ないぞ。」
「あ?」
「クロイド。刺激はするな。と言ったはずだ?」
私は睨み合うクロイドと愁弥の前で、バチッと、右手に雷を光らせた。
面倒臭い! この男ども!
クロイドは……ごほん。と、一つ咳払いした。
ぷぷっとルシエルは笑った。コッチもイヤミな笑い方だな。
「私は元……騎士団だ。シャトルーズのな。だが、今回の魔物の件で海上騎士団は、多くの犠牲を出した。その為、騎士団から海上騎士団に増員要請が下った。」
クロイドは……息を吐いた。
「オルファウス大陸は海に囲まれた大陸だ。海上騎士団は必要不可欠。王国としても陸の兵士を海兵にするのは、些か問題視していたが……人手が無いのはどこの国も同じ。」
クロイドの紫色の眼が揺らぐ。
「壊滅させるよりはマシ。そう判断した結果だ。魔物討伐は同時に手を引いた。それも王国の判断だ。私達が北の墓場に行かなかったのは、そう言う背景だ。」
なるほど。
私はクロイドの話を聞き、妙に納得していた。
「神器については……騎士の時から、少し単独で追っていた。気になる事があったからな。今回……王国に海上騎士団として、話を持ち掛けた所、探索の許可が降りた。アプサリュートの神器についても、調べていたからな。海底にある。それはわかったが……」
クロイドは、私を見たのだ。
「潜水の力は無い。だからこのコンパスを見たお前の反応。それを見て……もしや? と思った。月雲の民なら可能なのかと、聞いてみたかっただけだ。」
私の姿を見て声をかけたのもそうか。アプサリュートの神器。それをどうにかしたかったのだろうな。
だから北門で声を掛けてきたのか。
全く……それなら素直に言えばいいのだが、警戒していたのか、それとも性格なのか。
警戒していたんだろう。そうゆう事にしておこう。
ふ〜ん。
「異動してきたばっかだから、俺は関わってねー。言い訳みたいに聞こえるけどな〜……」
愁弥!!
そっぽ向いてにやっと笑っている。
「小僧。殺されたいか?」
「やるか? コラ」
睨み合う二人に、私はもう我慢の限界であった。
「“雷槌”!!」
二人の頭の上に雷を落としてやった。
少し……手加減はした。
ぷぷっとルシエルは笑っていた。
「あ〜……ちーんだ。ちーん。」
ぷすぷすと湯気だして、倒れる二人を笑って見ていたのだ。
ヤンバルにそろそろ着きそうだ。
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