第26話 追放された神たちとルシエル

 ーー私と愁弥は、サンフラワーの髪をした少年。グレンを見つめた。



「でも……。ルシエルが“闘神”だとしたら、聖神戦争で……追放されてる筈じゃないか? 神軍側だろう? 勿論。だが彼は……その後の戦争。アストニア大戦で、追放された。と聞いている。」


 そう。私がルシエルを見つけた時に、その話は聞いた。彼はその戦争で大陸を二つも破壊したのだ。その事で追放された。


 そう聞いている。


 だがグレンは


「聖神戦争で“称号”を得たんじゃないでしょうか? 聖神アルカディアは戦争には参戦していません。彼は“絶対的な神”です。だから聖界から出る事はなく、人間も追放する事は出来ないんです。死んだ者たちの逝く世界ですから。」


 と、そう言った。


「まぁ……天国みてーなところの王。ってことだろ? 人間も死んだら世話になるんだろうしな。」


 愁弥は腕を組みそう言った。


「“秩序の均衡”は保たれたって事か?」

「ええ。神の中でもまた特別な存在。それは人間にとっても同じだと、考えられます。現に今も聖界は存在しています。聖神アルカディアが追放されている。そうなると……聖界も消えてるはずです。」


 グレンは私の問いかけに、そう言ったのだ。


「なるほどな。」


 愁弥は頷いていた。


 死んだ者が逝く世界、神と神族が最終的に棲む地。それが聖界。アルカディアはそこを統治する者。


 なるほど。幾ら戦争でも……そこまでは踏み込めない。つまり“秩序の領域”。そう言う事なのか。


 それならルシエルがもしも……闘神だとしたら、聖神戦争で“称号”を得て、聖神アルカディアに恩恵を受ける。


 それは……可能と言う事になるな。


 だが……ルシエルが闘神。


 彼は神の事も……王国と同じ様に嫌っている。ああ。そうか。“おしおき”されたから……か? 


「だが……ルシエルが闘神だとしたら……」


 と、私が言おうとした時だ。


「俺様は“闘神”じゃない。断った。神などになるか! 馬鹿ばかしい!」


 と、現れたのはこの話の主役。黒い狼犬のルシエルだった。


「こ……断った!?」


 素っ頓狂な声をあげたのは、グレンだ。とても驚いている。


「アプサリュートが言っていただろう? “勇敢な幻獣”。アレは嫌味だ。俺様が断ったからだ。本当なら聖神戦争には、闘神として参戦するはずだった。その戦争の前にも幾つも戦争はあったからな。その時に“視てた”んだろう。」


 ルシエルはそう言うと、へっ。 と、にやっと笑った。


「そのお陰で俺様は“獄門の島プリズンゲート”に、行かなくてすんだんだ。」


 そう言ったのだ。得意気に。


「でも、ルシエル。その後で“禁縛”されたよね? おしおきされたんだったよね?」

「おしおきって言うな!」


 私がそう言うとルシエルは、くわっ! と、目を見開いたのだ。


「アレは……聖神アルカディアが……キレただけだ。俺様を……“闘神に仕立てあげて監視”したかっただけだ。本当は。俺様の力は偉大だから。」


 ルシエルはそう言った。なんだかちょっと寂しそうだ。


「あーそうか。すげー力だってわかったから、神としては……押さえつけておきてーよな?」

「だから! 神は勝手なんだ! 俺様は俺様しか信じない! あ。あと肉くれる奴。」


 愁弥の声にルシエルはそう言ったのだ。


 気の毒だな。なんか。可哀想だな。それだけ、強力な力を持っている。そう言うことなのだろうが。


「瑠火! 哀れみの眼はやめろ! ムズムズする!」

「可哀想だと思ったんだ。」

「可哀想って言うな!」


 私とルシエルの話を聞いていたグレンは、とても驚いていた。


「神の申し出を断り……神に追放されたんですか? ルシエルくん。」

「くんはやめろ! そうだ。俺様をあんな所に閉じ込めたのは、聖神アルカディアだ。全く! 嫌がらせだ!」


 ルシエルの怒りーーに、グレンははぁ。と、息を吐くと


「おバカさんですね?」


 と、そう言った。


「バカ!? バカって言ったな! バカじゃない! バカなのは神! アルカディアだ!」


 ルシエルはやっぱり怒った。むうっとしていた。


「そうか。破滅の幻獣は……闘神ではなかったのか。しかも……聖神に“おしおき”されたのか。謎が一つ。解けました。」


 グレンはすっきりした顔をした。


「おしおきって言うな!」


 ルシエルは怒鳴った。


「グレン……お前。戦士じゃなくて“学者”の方が、向いてねー?」

「は?」


 愁弥の声にグレンは、きょとん。としていた。


「グレン。聖神戦争の事で何かわかってる事はないか?」


 どうにも……“神器”が、関わってくるとなると、ここから知っていく必要がありそうだ。


 私も詳しくはない。それに……避けて通れないだろう。愁弥の事もある。



「僕が調べた感じだと……“聖神戦争”で、追放された神。その中に“十二の護神”はいないんです。さっきのアプサリュートも。つまり、生き残っていないんです。」


 グレンはそう言ったのだ。


「あー……たしか。十二の護神ってのは、“キングアルカディア”の親衛隊だよな?」


“歴史は苦手。眠くなる”そう言っていたが……、この軽口なら大丈夫そうだな。


 私は愁弥を見てそう思った。


「キング? “聖界と神たちを統べる者”ですよ! それに! 親衛隊ではなく“護衛”です!! 全く! 愁弥さんは軽すぎです! それでも戦士ですか!?」


 グレンは両手を握りふるふるとしながら、怒鳴ったのだ。


 ルシエルは笑っていた。


「だからな。戦士じゃねーっての。」


 愁弥は動じない。至って普通な返しだ。


 本当に熱心に調べているのだな。グレンは、今まで仕入れた知識。それを私達に惜しむ事なく、教えてくれている。


「さっきも言いましたが……神器。それが聖地にある神、神族は聖界に召されてます。あーもう!」


 グレンはいきなりだ。


 サンフラワーの髪をぐしゃぐしゃと掻いた。


 何よりも……イラついている様だった。


「大丈夫か?」

「誰のせいだと思ってるんですか!!」


 愁弥の心配する声に、グレンはそう言ったのだ。可愛らしい顔は恐ろしくなった。


「聖神戦争で“死んだ”神たちは、そうです! 天国です。そこに逝って、生き残った神族は追放されたんです! これで意味わかりますか!?」


 グレンは恐ろしい顔だ。


 やけくそ。愁弥を睨んでいた。


「ブッ飛んだ……」


 ルシエルも目を丸くしていた。


「あ……。おー。わかった。なるほどな。人間じゃねーからワケわかんなくなるんだな。」

「なにが人間ですか!?」


 グレンの怒りーーに、愁弥は


「悪かった。で? 生き残った神族が、“獄門の島ブリズンゲート”とやらにいるんだよな?」


 と、急に真面目な顔になった。


 グレンはその真剣な顔を見ると、落ち着いたのか表情が、和らいだ。


「はい。そうです。神と神族……。アルティミストでも一番の“謎”です。解明されていない事もまだまだあります。人の中には、神と神族を混合して、“神”と総称している人もいます。大半はこちらです。変わらない。そう考えているからです。信仰心が無ければ、特に関わりが無いから、軽視している人もたくさんいます。」


 グレンはそう言ったのだ。


「まー。実際。神は神なんだろ? その神族ってのも。」


 愁弥はそう言うと首を傾げた。


「……女神レイネリスだっけか? 十二の護神じゃねーから、神族。そう言われても“女神さま”としか、俺には思えねーからな。何が違うのかはわかんねーし。」


 と、そう言った。


「だからですね! 十二の護神以外の神を……」

「あー。だから。わかってるっつーの。」


 グレンがくわっ! と、怒りの顔で愁弥に食いつこうとしたのだが、それを止めていた。


「すげー種族ってのはわかったよ。で? さっきの船は、聖界に行った。そうゆう事なんだな?」


 と、愁弥はそう言ったのだ。


「はい。恐らく……“神器”の護り手が見つかったので、召されたと思います。海王神アプサリュートも言っていましたが、“使徒”に本来なら神器と船。マーベルアイズを任せるんだと思います。」


 グレンは少し暗い表情だった。


「聖神戦争で召されてしまった。そう言ってたな?」


 私はそう聞いた。


「はい。なので神器を受け渡すまで、ああして姿を晦ましていたのでしょう。アレでは誰も見つけられません。」


 と、グレンは言ったのだ。


「そーだな。確かに」


 と、愁弥は頷いた。


「神器を受け渡す者。その者が現れたから、姿を現した。あ。愁弥さん。」


 グレンは突然、オレンジ色の瞳を丸くした。愁弥を見上げたのだ。


「ん?」

「アプサリュートが言ってましたね? 愁弥さんが、"選んだ”と。それはどうゆう意味ですか?」


 グレンはそう聞いたのだ。


「それは……」


 私は少し戸惑ってしまった。言うべきなのか、どうなのか。だが、愁弥はグレンの前にしゃがんだ。


「俺が……“選んで買った”んだ。欲しい。と思ったからな。」


 そう言ったのだ。


「買った? それは……“神国ミューズ”で、多くの戦士たちの中から選ばれた“戦士”。闘神ゼクノスの加護を受けた者。その“証”です。神皇様からその象徴として、渡されるものです。」


 グレンはとても驚いていた。


「そんな深い意味があんのは、知らねーよ。“千円”だったし。」

「せ……せんえんっ!? それは何ですか??」


 これは……わからないだろうな。私もわからなかった。


 ルシエルも隣で、そうなるな。 と、頷いていた。


「あのな。俺はこの世界の人間じゃねーんだ。異世界って所から来たみてーだな。だから戦士じゃねーんだ。」


 愁弥はそう言うと、グレンに話をしたのだ。


 日本と言う国に住み、東京と言うところでネックレスを買ったこと。更にこちらの世界に飛ばされたこと。


 千円とはその国の通貨だと、説明していた。


 グレンはとても驚いていた。

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