第11話 オルファウス帝国騎士団
ーー結界は消された。
空に一筋の光が上がった。流星の様な光が打ち上げられた。
それは弾けると、空に閃光を散らした。
「“
クロイは剣を握ったままそう言うと、港の方に視線を向けた。
この先には国境の砦がある。東門だ。そこはこのアスタリアが護る門だそうだ。
「大丈夫なのか? 見た所……大半が、この街にいる様だが。」
私は既に街の中で幻獣を、召喚している者たちを見ながらそう言った。
ここは街の中心だ。
そこに動ける者たちは、集められた。殆どが、この前のオルファウス帝国との闘いで、負傷し、更に孤立した事による代償ーー。
それらが重なり、動けない者が数多い。集まってはいるが、五十にも満たないだろう。
「アプラスがいるからな。それに……“シーサーペント”。アスタリアの海はこの幻獣たちに、護られている。それに……ルシエルも行っただろ?」
クロイはそう言いながら、しゃがんだ。
ルシエルは……アプラスの所へ行ったのだ。知り合いなのかはわからないが、気になる様子だった。
「それでも……。数は少ないな。」
クロイはそう言うと、剣を置き足元に手を掛けた。
ここからでは海は見えない。東門がどうなっているのかは、気にはなるが……。
街に近付いてくるこの怒涛。かなりいそうだな。
召喚士と幻獣……。皆、戦いに備えている。
「召喚士と言うのは……“聖国の者”の事なのだな。」
私は街の中心に集う召喚士たちに、視線を向けた。
「そうだ。幻獣は元より“聖地”に棲み、その地を護る者だった。その地に住み始めた人間との、“心の寄せ合い”。それが召喚士と召喚獣と言う立場を、創りあげたんだ。」
クロイはレガースを直しながら、そう言った。
街の者たちも召喚士では無い人間は、皆、槍を持っていた。
「神の使い手。神の申し子。」
「え?」
クロイの声に私は聞き返した。
「神の棲む地。それを護るべき者達。つまり神の加護を受けた者。と言う意味だな。召喚獣は神の使い手。召喚士は神の申し子。そう呼ばれたんだ。」
愁弥は銀の腕輪を嵌め直していた。腕につけるバングルを、直したのだろう。
銀の腕輪はドワーフのブラッドさんに、貰ったものだ。私もつけている。
「どっちも特別な存在。ってことか。」
愁弥はそう言うと、街の人たちに視線を向けた。
「そうだな。この世界で召喚士になれるのは、聖地を護る聖国の者だけだ。“特異な力”を、授かってる者達だ。」
クロイは立ち上がると、剣を握る。
「召喚士にならない者もいるみたいだが……」
私がそう言うと
「誰もが同じ道に進む訳じゃないだろ? 最も、瑠火。お前の里で言えば……“その力”を放棄する人間ばかりだったな。」
クロイはそう言うと剣を肩に乗せた。
「そうだな。」
召喚士として生きる道を、選ばない人間がいてもおかしい事ではない。
人それぞれだ。それはわかる。特異な者たちでなくても同じ事だ。
適正もあるが、魔法を使うか剣を使うか。拳を使うか。それは人それぞれの道だ。
「来たぞー! 帝国騎士団だ!」
街の入口から門番をしていた青年たちが、戻って来た。
その声に、召喚士たちは槍を突き立てた。持っているものは、クロスの槍ではない。
コルセスカ。形状はとても良く似ている。
だが彼等の持つ槍は、両側の刃がまるで翼。装飾……。その為に作られた様に見える。武器としては細く短い。
中心の穂先は長い。武器としては、この穂先しか役に立たないだろう。
「紅き炎の化身! “炎帝サラマンダー”」
紅い魔法陣だった。
そう叫んだ彼の足元に浮き上がる。まるで炎の竜巻だ。魔法陣の中から立ち昇る。
その中から姿を現したのは、深紅の身体をした幻獣だった。大きなトカゲに似たその風貌は、一見するとドラゴンにも見える。
「疾風の支配者! “白き守護神ペガサス”!!」
槍を突き立て蒼白い光の魔法陣。そこから飛び出したのは、天馬。白き美しい大きな翼。気高いペガサスだった。
「ペガサス……。まじか。」
愁弥は目を輝かせていた。
この顔は……わかる。愁弥の世界でも、名前が同じで語られる者。存在していない者たちだったな。想像上の者たちだったか。
顔でわかったのだが、聞いてみた。
「知ってるのか?」
「ああ。名前だけな。まじでいんのかー……」
愁弥のこの嬉しそうな顔は、久々に見るな。この顔が見たい。そう思ってしまっている自分にも、少し驚く。
「天の裁きを与えし者! “雷鳴のガルダ”!」
紫の光の魔法陣。それは正に稲妻が囲む。光の中から現れたのは、大きな雷鳥。金色の身体をした稲妻纏う鳥だ。
神々しい程に両翼を羽ばたかせた。
召喚士たちの幻獣。その召喚を見てはいたいが、そんなヒマは無さそうだった。
街の門から姿を現したのは、ブロンズの鎧を着た騎士団だった。
蒼と白の縦縞。そこに銀色の龍が描かれた国旗。それらを引っさげ、堂々と歩いてくる騎士団。
かなりの大群だ。
その前に馬が三頭。先頭の白き馬。ピュアブルーの髪の男は、ゆったりと馬を歩かせていた。
彼がーー、このブロンズの騎士たちの団長なのだろう。
光り輝く銅色の鎧。剣を引っ提げ騎士団は、街に降り立った。
白き馬に乗っていた騎士は飛び降りる。
「召喚獣を連ねて待っている。と言う事は……、お気持ちは変わらない。そう言う事ですね?」
民を見据える眼。さながらブラックトルマリンの様な瞳だ。
彼はぐるっと、街中を見つめた。私からすれば、力の誇示。これだけの大群引き連れて来る時点で、制圧するつもりだったのだろう。
「聖王アシュラム殿はどうされた?」
冷たく光る様な眼だ。これまで見てきた騎士とは、印象が異なる。
任務を遂行する。その為に居る。そんな印象がある。
「静養中だ。」
答えたのはクロイだった。
「なるほど。この国の命運尽きる瞬間まで、民を棄て“神に祈りを捧げてる”訳ですか。」
腰元に提げている剣をーー、抜いた。鋭い剣だ。それを合図に騎士団たちは、一斉に剣を抜いた。
馬に跨っていた騎士たち二人。彼等も飛び降りた。
「聖国アスタリア。度重なる“オルファウス皇帝”の協和を無視し、国境を独断で閉鎖。この大陸への暴挙と見なす。よって……我がオルファウス帝国は、そなたらを“制圧”する。」
騎士は剣を握り力強く言葉を、吐いた。
「抵抗される場合は、生死は問わない。オルファウス皇帝よりの通達だ。異存はないな?」
誰もが何も言わない。
ただ、手にする武器。槍を握りしめていた。私と愁弥も互いに、剣を抜いた。
陽の高いこの空の下。オルファウス帝国騎士団と、聖国アスタリアの民との闘いは、幕を開けた。
「“
召喚士が向かって来る騎士たちに、槍を向けた。
大きな深紅のトカゲに似た口が開く。
真紅の炎が揺らめく。
サラマンダーの口から放たれる真紅の炎。それは熱風となり、騎士団たちを包む。
先陣切って向かって来た騎士たちは、サラマンダーの炎の熱風に行く手を遮られた。
だが、その後ろから白い光が、輝く。
「
騎士たちの頭上から現れたのは、白き光を放つ剣だ。それが召喚士と召喚獣たちに、振り下ろされた。
「うわっ!」
「アウラス!!」
攻撃され地を切り裂く程の太刀筋だが、誰かがそう叫んだ。
アウラス……。
思わず見てしまう。
白銀と蒼白い氷の身体。虎に似た幻獣。あれが……アウラス。
「“
女性召喚士の声。
彼女が槍を突き出し叫ぶと、蒼き幻獣は吹雪を放った。
それも大型トルネード。騎士団の周りを樹氷が囲む。凍てつかせた。
「“
互いの力はそれなりにダメージとして、残ってるはずだ。
だが、誰もが倒れない。
そこに騎士団たちは四方八方からの、剣閃を召喚士たちに向けて放ったのだ。
どうやらオルファウス帝国の騎士団たちは、陣形での闘いではなく、集団攻撃。
連携での戦い方の様だ。それも戦場慣れした技だ。多勢攻撃。騎士は……恐れる存在かもしれない。
「うわっ!」
「きゃあっ!!」
四方八方からの剣閃は、まるで飛ぶ斬撃だ。纏まっている民を切り裂く。
これは不味い。
私は双剣握り、駆け出した。
だが、
「おっと。おねーちゃん。相手してくれよ。この中だと、お前さんも上位だろ?」
首元に剣先! いつの間に!
私の首筋に剣の刃が向けられていた。動けば突き刺さる程に、近い。
見上げればそこには、白い馬に乗っていた騎士の隣にいた男。茶色の馬に乗った騎士だった。
ヴェールムース。少し暗めの翠の髪。更に私を見下ろす冷たい眼。淡い水色の眼。
氷のようだ。
「瑠火!」
愁弥の声が聞こえたが
「お前さんはオレだな。」
横目で見れば少し大柄な男。
コイツも隣にいた男だ。ヴァイオレットの髪の男。強そうではあるが……三人の中では、一番……荒れていそうな印象がある。
「やめろ! 愁弥には手をだすな!」
私は飛翔を使い、剣先から離れた。
「あ? お。へー。」
私に剣を向けていた騎士は、飛んで避けた事に驚いていた。
だが、剣を持ち私に視線を向けていた。やはり氷の様な眼だ。
「ほぉ? へぇ? なに? お前ら……甘い関係?」
愁弥に剣を向けている騎士が、にやっと笑った。
何とも嫌な笑みだ。これは人の弱みを突くタイプだ。
私は愁弥の傍に立つ。
「相手なら私がする。」
そう言ったのだが、
「瑠火。それはちょっと……いらねー優しさだな。」
愁弥は私の前に立った。
え?
見れば……愁弥はとても怒っていた。横顔がキツい。私の事は見ないが、剣を持ち立ちはだかった。
「“シュヴァル”。“ガディス”。がっつくな。」
ピュアブルーの髪をした騎士は、そう笑うと私達の前に立つ。
剣を持つ騎士三人。
どうやらこの騎士たちが、騎士団のトップに君臨しているのだろう。
明らかに雰囲気が違う。
「“フレイル団長”。そうは言うけどね。中々……楽しそうな連中ですよ?」
そう言って笑ったのは、私に剣を向けた騎士だ。ヴェールムースの髪に、淡い水色の眼。
この騎士が、シュヴァル。さっき、名を呼ばれた時に、フレイルと言う男を見ていた。
「オレはコッチの……威勢の良さげなガキを貰うぞ。シュヴァル。お前は女がいいだろ?」
ガディスと言う男か。この荒そうな男は……。少し危険だ。
愁弥。
出来れば私が、相手をしたい。
「ガキじゃねー。愁弥だ。おっさん。」
は??
私は剣を握り、啖呵を切る愁弥に驚いた。
そうか。愁弥は“強い”んだったな。心が。
「おっさん? あーそりゃ禁句だぞ。」
苦笑いしたのはシュヴァルだった。
「いい度胸してるな。ガキ」
「耳が遠いのか? おっさん。」
対等に競り合っている。
互いに剣を構え、そこからは早かった。
ガディスの振り下ろされた剣を、愁弥は受け止めていた。
「へぇ? ガキにしてはいい剣を、持ってるな。」
やはり。この男は危険だ。
あの眼は……“戦うこと”。それを愉悦だと思っている眼だ。
サディスティック……。その印象が強い。
対峙した愁弥は剣の刃で受け止めていたが、神剣は……“神の器”。
つまり……“意志”を持つ。
それは剣の力となり発揮される。
ギャン……と、刃と刃のぶつかる音を立てながら、ガディスの剣を払い、斬りかかったのだ。
ブロンズの鎧。その上から斜め斬り。
それは蒼い剣閃を走らせ、鎧を傷つける斬撃だった。
「へぇ?」
ガディスは胴に、斜めの斬撃の痕。それを見ると、益々……眼を輝かせた。
愁弥は神剣を握り、ガディスの前に立つ。
「いつまでも“頼りねー”のは、俺的にもイラつく。俺はどっちかって言うと……“護りたいタイプ”だからな。覚えとけよ。瑠火。」
「え?」
私は愁弥の声に驚いた。
こっちを見る事はないが、その背中は語っていた。戦士の背……。
己の意志と護るべき者を背負う……逞しい背だ。そしていつか……それは、真実になる。
私は何も言えなかった。愁弥の信念をぶつけられた気がしていた。
「いやー。いいね。その甘〜い関係。でもな。ガキがいい気になるなよ。剣ってのは個の力。剣の良し悪しは、使う者で決まる。お前の剣はどうかな?」
カディスは愁弥に向けて剣を振り下ろした。それを受け止める愁弥。
「いい加減にしろ。ガディス。」
それを止めたのはフレイルだった。剣をガディスに突きつけていた。
「……そんな怒んないでくださいよ。」
ガディスは脇腹に突き刺さりそうな剣先。それを見ると、苦笑いしたのだ。
鎧の上からでも貫きそうな……鋭さだ。
ガディスは剣をおろした。愁弥との対峙が、解かれたのだ。
「我等の目的は、アスタリアの制圧。小僧に構ってる場合じゃない。一気に叩く。聖王アシュラム殿を、生かして連れて行く。これが“皇帝”の意だ。」
フレイルはそう言うとガディスの脇腹から、剣をおろした。
「はいはい。わかってます」
ガディスはため息つきながら、少し後ろに下がった。
ゆら……と、動く。フレイルが愁弥の方に身体を向けた。
一瞬だった。
フレイルが剣を薙ぎ払ったのだ。剣先は愁弥には掛かっていない。
だが、愁弥は吹き飛ばされたのだ。
「くっ!」
まるで突風。それを与えられたかの様に、愁弥の身体は弾き飛ばされていた。
「愁弥!」
「古の忌まわしき民。」
私はゾッととした。
いつの間に!
フレイルは私の前にいたのだ。それも剣を振り上げていた。
ブラックトルマリンの瞳が、冷たく見下ろす。威圧、脅威。全てを物語る瞳だ。
「朽ちた血の墓場には丁度いいだろう?」
避ける間もなかった。
振り下ろされた剣。私の身体は剣の刃に触れることなく、吹き飛ばされていた。
「うっ!!」
斬撃と言うよりも鈍痛を与えられた様な痛みだった。全身に衝撃を与えられ身体が、動かない。
苦しさが襲っていた。
「瑠火!」
その声はクロイのものだった。
呼吸が出来ない。
地面に吹き飛ばされていた私は、重い痛みに苦痛を感じていた。
まるで巨大な岩でも乗っかっている様だ。圧迫されている感覚だった。
だがそれは……直ぐにやんだ。口から空気が入り込んだ。
装備のお陰だ。それに……“ドワーフの腕輪”。守護の力は、常に私の身体を護ってくれている。
致命傷にならないのは、この腕輪の効力だ。
ブラッドさん……。礼を言っても足りない程だ。
とは言え……重いな。身体が。
立ち上がるのも少し時間が、掛かった。
「ほぉ? フレイル団長の剣を受けて、立ち上がるか。お前ら……なかなかやるな。」
私はガディスの声に視線を向けた。
離れた所にはいるが、愁弥も立ち上がっていた。剣を支えにその身体を、起こしていた。
良かった。無事だったか。
腹を押さえてはいるが……、どうにか大丈夫そうだ。
「面倒だ。纏めて始末する。シュヴァル。ガディス。」
フレイルの低い声が聞こえた。
「そうこないとな。」
シュヴァルは剣を構えた。
連携攻撃か。だが、そっちの方が都合がいい。一人一人を相手にするのは、得策とは言えない。
彼等はーー、強い。
フレイルはただ、剣を振り下ろしただけだ。軽く。それがこの威力。
それを筆頭にしているこの二人も、只者ではない。
フレイルを先頭に、掲げた剣が光る。
三人の騎士の剣が光り、空に突き上がる。
「“
白い光は拡散した。
それはまるで光の矢だ。私達に降り注ぐ。
「“守護の檻”!!」
これは……防げるか?
私は守護の発動を放つ。愁弥、クロイ、私を包む白い光のドームだ。
光の矢は無数。突き刺さる様に落ちてくる。
「なかなか面白い。」
だが、笑っていた。フレイルは。
光の矢の攻撃を防ぐ私の前で、三人の騎士たちは更に、剣を向けた。
「“
突きつけられた三本の剣先。
そこから私に向かって放たれたのは、白き騎士の影たちだった。
突進してくる大群。剣を持ち全身鎧の顔の見えない……まるで、亡者。
それらが一気に押し寄せてきたのだ。洪水のように。
それは私の守護の檻を突き破り、向かってきた。
「!!」
斬撃!! 身体を斬りつけられているのがわかった。駆け抜けながら騎士たちの影は、私の身体を斬りつけていく。
「瑠火!」
愁弥の声が聞こえた時には、私は吹き飛ばされていた。突進されながら斬りつけられた事で、身体は、ふっ飛ばされたのだ。
「まずは一人か?」
聞こえてきたのは、ガディスの声。
私はーー、地面の上に落ちていた。
「瑠火!!」
愁弥の声が遠くに聴こえた。
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