第4話  王城ミントス陥落

ーー「“雷槌らいづち”!!」


 青緑色のウロコに覆われたメロウ。縦長の首をした魔物の群れ。


 そこにいかづちは降り注ぐ。


 ドンドン!


「レオン! ザック! 俺だ! 愁弥だ!」


 閉ざされた扉。その前にいる愁弥は、ノブを引いたが開かず。扉を叩く。


 怒鳴りながら。


 私は彼を背に、目の前にいる魔物たちを退治中。閉ざされたこの王の間。この向こう側には、王族たちが隠れているのだろう。


 たった一つの開かずの扉。そこを狙い魔物たちは、向かってくるのだ。


ここに“王”がいると知ってるかの様に。だが、それは考え過ぎだろう。


魔物が人間を襲うのは“本能”だ。人間だけではない。彼等にあるのは“闘争本能”だけ。


目の前に敵がいれば、襲うのだ。それが“生存本能”だからだ。


 レッドオレンジの身体をした、頭が獅子。胴体はカメレオン。ガゼルと言う鋭い牙を持つ魔物だ。


這って動くのだが……速い。恐ろしい性質だ。


 この二種の魔物が王城を占拠しようと、今もまだ侵入していた。


「“天命昇華イズナブル”!!」


私がメロウに旋風を放とうとした時だった。ハーレイ騎士団たちが、メロウ複数体を取り囲んだ。五人の騎士の円陣。


空から降り注ぐ白き後光の光。

光に包まれメロウは動きを封じられた。


円陣を組んだ騎士たちは、メロウに剣閃を走らせる。切り抜けだ。


四方八方からメロウめがけ、駆け抜けながら切り裂くのだ。動きを封じられたメロウ達に、回避は不可能。消滅する。


「動きを捕らえ……剣での攻撃。これが陣形技。凄いな。」


見事な技だ。連携攻撃の凄さを、改めて知った。


「愁弥! 離れろ!」


それはーー、閉ざされた扉の向こうからの怒声であった。


「レオン!?」


私が振り返った時だ。


ドゴォッ! と、まるで爆発でもあったかの様な、轟音が響いたのだ。


同時に吹き飛ばされる愁弥の姿。更にその衝撃は、直ぐ後ろにいた私にも届いたのだ。


揃って……だった。


けたたましい轟音と扉が突き破られた。そこからガゼルの群れが、突っ込んできたのだ。


その衝撃に吹き飛ばされた。それがわかった。


「飛翔!!」


私は咄嗟に吹き飛んだ愁弥を掴み、風の力を借りて飛んだ。


王の間を突き破り、通路に走り出て来るガゼル達。


「うわ!」

「怯むなー!!」


目の前には騎士たちだ。

群れの突進に、慌てふためく声が聴こえる。


マズい! 統率が乱れている。猛進してくるガゼルを前に……彼等は、乱れている。


本来ならここで“喝”を入れるレオンは、王族を護っている。


騎士たちは、通路を突進してくる群れを前に、動揺してしまっている。


「“火炬かきょう”!!」

「瑠火! やめろ!」


何故か愁弥の怒鳴り声が聴こえた。


だが、私の放つ紅炎の火柱は、突進するガゼル達の群れを包む。


騎士たちの目の前に燃え上がる火柱。それは壁の様に立ち昇り、ガゼル達を包むのだ。


「立て直すぞ!」

「“恩人”に借りを返すのだ!!」


第一陣が炎に包まれたことで、突進は緩んだ。だが、すべてのガゼルが燃えている訳ではない。


その後ろからもガゼルは、火の手を避け騎士たちに突進していく。


「“十字架の理クロスロード”!!」


白い光を放つ十字架が、ガゼルの群れに突き刺さる。十字架の陣が突進してくるガゼルの、地から現れたのだ。


動きを封じられたガゼル達に、騎士たちは剣を奮う。


完全な捕縛。ガゼル達は白い十字架の槍の様な光に、貫かれ身動きとれない。


そこにすかさず、五人の騎士たちの剣閃だ。彼等を切り裂く。


「次の陣形!! 前へ!」


声を掛け合い、騎士たちは乱れた統率を持ち直し始めた。


騎士は……この世界の“光”なのかもしれない。


私にはそう見えた。


「レオン!!」


それは愁弥の声だった。


振り返ると王の間で、メロウ達の炎に包まれるレオンの紅い髪が、見えた。


王の間には、ガゼル。メロウ達がいる。更に負傷しているザック。それに……肩を抑えた高貴そうな男。


蒼い羽織を着た首飾りトルクをつけた初老の男。


その側にはブロンドの、美しい少女がいた。周りには、やはり高貴そうな人間たちがいる。


レオンは扉の側で炎に包まれていたのだ。


メロウはその前で、炎の渦を吹いていた。それも数体で。


「レオン!」


だが、レオンは炎に包まれながらも剣を握り、立っていた。


「“魔法無効リジェクト”」


レオンの身体は白い光に包まれた。それは、円になり、炎を打ち消したのだ。


「大丈夫だ。俺達は“騎士”。“耐性魔法”は心得ている。」


耐性魔法?? それは私の“守護の発動”と、同じなのだろうか? 詳しく聞きたいところだが、そうも行かない。


レオンが無事なのは、わかったが、通路に溢れ返ったガゼル達。更にメロウも群れだ。


王の間だけではない。他の部屋からも魔物たには、溢れてくる。


外壁をつたい城壁を越えて来ているのか。窓を突き破り、城内に侵入してきているのだ、


「こんなにいるのか」


私には魔物達がまるで、この城に棲んでいるかの様に見えた。


それだけ数が多いのだ。


この城にいる人間を一人残らず……殺さなければ、気がすまないのだろう。


「レオン! ザック! 直ぐに行く! 持ちこたえろ!」


私は王の間で王族たちを護り、戦うレオンとザックに叫んだ。


この魔物たちを倒さないと、王の間には行けない。壊れた扉の前に立ち塞がっているのだ。


レオンは答えなかったが、微笑んでいた。


炎を吹きながら突進してくるメロウたち。守護の盾で防ぎたいが……、それよりも蹴散らしてしまった方が、早そうだ。


王族を護りながら、負傷したら治癒を使う。二人だけの戦いはしんどいだろう。


私はレオンとザックが、心配だったのだ。


「“旋風”!!」


碧風の竜巻を放つ。

メロウの炎を掻き消しながら、彼らの下から竜巻が沸きあがる。


旋空の中で切り裂かれるメロウたち。


愁弥は向かってくるガゼルの突進を、剣閃で弾き返した。


風と風のぶつかり合いの様だった。疾風の様なガゼルの突進。そこに切り裂く様な剣閃。


ガゼルは真っ二つに切り裂かれる。


「愁弥!」


だが、愁弥に向かってメロウ……。トカゲ頭の青緑色の魔物は、火を放つ。


火炎放射の様に愁弥に向かっていった。


「守護の盾!!」


私は咄嗟に、愁弥の前に立ち白い光の盾で、炎を防いだ。


だが、愁弥は炎を防ぐと直ぐに飛び出した。メロウに向かったのだ。


「愁弥!」


何で突っ込むんだ!


私の心配なんてお構いなしだ。愁弥は、メロウを斬りつけた。


その剣閃は縦長の長い首を撥ねたのだ。向かってくるメロウを前に、愁弥は手を翳した。


氷の吐息フリーズ!」


吹雪が巻き起こりメロウは、氷の塊に覆われた。更に向かってくるメロウに、直ぐに剣を構え斬りかかる。


戦いの最中に……彼は……“成長”している。力の使い方を覚えて、戦い方を学び……、自分のものにしている。


私は久我愁弥くがしゅうやの、底知れない“戦士としての素質”を、感じていた。


センスや素質。でもそれだけではない。私や騎士たち。更にルシエル……。自分の目の前で、戦う者達の姿を目に焼き付けているのだ。


それを“ヒント”にして、実戦する。


この男は大きくなるかもしれない。私など追い抜かすだろう。直ぐに。


素直に真剣に……強くなろうと、しているのだから。




「よっしゃ! とりあえずなんとかなったな!」


愁弥の奮迅。そのお陰で、目の前のガゼルとメロウは、片付けた。


「全く。愁弥には驚かされる。」


私はそう言った。王の間に向かいながら。


「俺は強くなる。もー決めた。護りてーからな。」


愁弥のその言葉を聴いて……、私は驚いた。


何を? と、聞きたかった。だが、今は何も言わないでおこう。


この戦いが終わったら……聴いてみたい。愁弥の“護りたいモノ”を。


それはきっと“強さ”に繋がるものだから。


王の間は、散乱していた。


ここでレオンとザックが、奮闘していた。それが良くわかる。


彼等は負傷しながらも……、魔物たちを見据えていた。


肩を怪我している王族……。その姿からして、ミントス王だろう。治癒を受けていた。


どうやら王族の少女は、回復魔法ヒーリングを使える様だ。


魔物たちから離れた所にいる。


「大丈夫か? レオン。ザック。」


突き破られた窓の下には、メロウとガゼルがいる。その前で、鼓舞する様に剣を構えるレオンとザック。


「来てくれたんだな。助かりました。礼を言う。瑠火殿。」


レオンのその表情は、疲れ果てていた。私は、腰に下げた布袋から、“傷治療薬チップ”を二枚取り出した。


「レオン。ザック。」

「有り難い。治療薬は使い果たしました。」


ザックは安堵した表情で、手を伸ばした。


紺碧の髪に、ピンク混じりのオレンジの眼。どう見ても勇ましい青年。なのだが……、とても穏やかな人だ。


「ここで耐えてたのか? もしかして。」


愁弥は剣を構えた。


「ああ。外に出す訳にもいかない。皆は戦っている。」


レオンの碧の眼は、強く煌めいた。


「それはすげーな。まじで尊敬する。」


愁弥のその声に、レオンだけでなく……ザックも少しだけ、笑った。


「制圧する。力を借りたい。」


レオンは長い剣を構え、そう言った。


「勿論だ。」


私のその声と共に……戦いは、始まる。


王の間は、とても広い。だが、かなり荒れ果てている。魔物との戦いで高貴な部屋も、台無しだ。


王室の家具ですら……崩壊している。大半は扉を防ぐ為に……使用されたのだろうが。


ガゼルは突進。それが武器の様だ。一つ覚えの、単純攻撃に見えるがこれを群れでやられると、ひとたまりもない。


ガゼルは更に長い尾を使う。それで払いのけるのだ。


それにメロウの炎。火炎放射で体制を狂わされる。実に……厄介な魔物たちだ。


「“火炎舞”!!」


ガゼルの周囲を炎で包む。炎の渦に囲まれ、次第に消失する。


ザックとレオンは、その横から飛び出してくるガゼル狙いの様だ。


「「“騎士の包囲ステイトラップ”」」


ガゼル達の身体を白い光が覆う。彼等はその光で宙に浮いた。


まるで静止している様だった。


レオンとザックの連携攻撃だった。二人は浮いているガゼルに突っ込み、斬りつけてゆく。


「やっぱ。すげーな。騎士ってのは。」

「ああ。」


愁弥の声に、私は頷いた。


窓から這い上がって来る者達はいない。だが、城内は未だ騎士たちの声と戦いの気配に、包まれている。


そんな中で聴こえたのは、外からの声だった。悲鳴ではない。掛け声の様なものだった。


「城に入れるな!」

「まだいるぞ! 応戦しろ!」

「騎士団を助けるんだ!」


オー!!


それは……戦士たちの勇敢な声だった。


「まさか……援軍か?」


レオンにも聴こえた様だ。


「レインズタウンの青年騎士団や、招集された者達。それに……シラークタイトの騎士たちだ。きっと。」


私は懸命に城下町で戦っていた者達を、思いだした。ハーレイタウンと同様。城下町ミントスも壊滅状態だった。


だが、私達は先に行かせて貰ったのだ。騎士団達が、戦い……、そこに青年騎士団たちも、駆けつけた。


更に冒険者、戦士、魔道士たちも。


ハーレイタウンのルシエルやみんなは……どうなっているのか。


「そうか。シラークタイトの者達が……」


レオンは安堵の息を零したのだ。


「どうゆうことだ? レオン。まさか余に黙って援軍を、頼んだのではあるまいな?」


だが、それに対しミントス王からは厳しい声が、飛んだのだ。


「それについては……後ほど、報告致します。」


レオンはそう言うと、未だここにいる魔物たちに、向かって行った。


その顔はどうにも……怒りを、滲ませていた様に見えた。


制圧……。


王の間は何とかしたが、城内は魔物の巣窟だった。


「王族の警護を。」

「わかりました!」

「ご無事で何よりです! レオン団長! ザック副団長!」


レオンは通路で戦う騎士団たちに、そう言った。彼等は十人。王の間に向かった。


王族もそれぐらいいたが、城の下では援軍が戦っている。


さっきの様に無数で襲ってくることは、無いだろう。


「一気に片をつけるぞ。」

「はい! レオン団長!」


騎士団は、団長、副団長がいることで、明らかに変わった。


その顔つきも明るくなった。


陣形技を駆使し、通路にいる魔物たちを制圧していく。


「崩すな! そのまま突っ込むぞ!」


レオンの声に、ザック率いる騎士たちは、陣形技を放つ。


「「“騎士の五芒星ライトミッション”」」


私達もそれに後押しされながら、怯んだメロウの群れに、突っ込んだ。


と、そこに


カッ!!


この通路の魔物たちを、纒めて吹き飛ばす黒い狼犬の姿が見えたのだ。


蹴散らす破滅の波動は、魔物たちを一気に消滅させてゆく。


相変わらず……凄い力だ。


「ルシエル!」


ルシエルは、黒い波動を放ちメロウ、ガゼルを消滅させながら、向かってきた。


巨大な身体が通るので、騎士たちが避けようとするが、その頭上を飛び越える。


「瑠火! 倒したぞ! 褒めろ! 肉をよこせ!」


そっちか……。どうやら無事な様だ。


「ルシエル! 無事だったか?」


愁弥の明るい声だ。


「当然だ! 俺様は破滅の幻獣ルシエル様だ!」


ルシエルは私達の前に、とん。と、降り立った。黒い毛に金のトサカみたいなたてがみ。更に、背には紅い毛も混ざる。


紫色の眼をした大きな狼に似た幻獣だ。


「召喚士はいたのか? ルシエル。」

「いない。消えた。暗黒の使者ダークレイが。」


ルシエルはそう言ったのだ。


「消えた? 倒したと言わなかったか?」


私がそう聞くと、ルシエルは頭を上げた。


「もう少しだった! 女魔道士たちとどでかいヤツを、ぶつけてやろうとしたら、消えた。」


ルシエルはとても必死だった。


肉を貰えないと思ったんだろう。


「消えたってのはなんだ? 倒したんじゃねーの?」


愁弥の声に、ルシエルは頭を向けた。


「いや。使い手の所に戻ったんだ。多分な。じゃなきゃ、死ぬまで消えない筈だ。召喚獣じゃないなら。」


幻獣は召喚獣になる者達だ。契約せずに自由に生きる者達もいる。だが、人間には協力的だ。召喚獣と召喚士として契約を、交わす間柄だからだ。


「そうか。」


どっちにしても……今は何もわからない。


「街の中も見てはみたが、召喚士なんていなかった。それにダークレイもな。」


ルシエルの言葉は、悔しそうだった。寸でで、逃げられたからだろう。


「とにかく、今は魔物の制圧だ。ルシエル。大丈夫か?」

「何がだ? 俺様は最恐だ。」

「自分で言うのかよ……」


この幻獣は、どうにも自己主張が強すぎる。


ルシエルの力、援軍たちの甲斐もあり……、その後、魔物討伐は終わりを迎えた。


だが、王城ミントスは実質的に、陥落した。





























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