第3話  ミントス城>>>シラークタイトの騎士

ーー王城。それは国の象徴であり王の住む場所。蒼い国旗が揺れる白い城は、ミントスの街からはまだ、美しく気高い姿を見せていた。


だが、私はその姿を前にして……“落城”。その言葉が頭に浮かんだ。


火の手があがっていた。城の周りを囲む草地。城壁の周りで、所々に火は立ち昇る。


鉄壁ーー、城を囲む城壁は本来ならそうなのであろう。だが、穴が開き侵入を許した形跡があった。


壊された城壁の落石で、辺りはガレキが散乱している。城下町から一本道。この橋の上も落石と、崩れ落ちた城壁のガレキ。それらが埋める。


その中に蒼いマント……。白いアーマーに身を包んだ青年たちが、倒れ臥していた。


息絶えた者達だけではない。負傷者たちも橋の上にはいたのだ。皆、手を貸し合い助け合っていた。


頑丈な門扉は破壊され、城への入口はものの見事に……開放されていた。


私と愁弥はそこに辿り着いたのだ。


城の中からは声と破壊音が漏れている。中で戦闘しているのがわかる。


城壁を突き破り上がる炎すらも、見えていた。城門の前には、青緑色のウロコに覆われたトカゲに似た魔物たちがいた。


だが首が縦長だ。頭はトカゲだが……。胴体そのものは、カメレオンに近い。


それらは火を吹き城を護らんとする騎士たちを、囲んでいたのだ。


「愁弥!」


私は愁弥に声を掛けながら、双剣を手にした。


「りょーかい!」


愁弥も神剣を抜き、大きなトカゲの魔物めがけ、駆け出した。


「“水雨みずあめ”!!」


剣を持ち果敢に戦う騎士たち。その前にいる魔物たちに、水の発動。


水流が立ち昇る。魔物たちを滝の如く強い水流の中に、閉じ込めた。


大きなトカゲ達が数体。水の中で蠢くのは異様な光景だ。


「“風刃”!!」


風の発動。碧風の無数の風刃が、魔物たちに向かってゆく。カマイタチの様な刃だ。


背後からの急襲に、魔物たちは反応出来ていなかった。風刃に斬りつけられ、怯んだ魔物たちを、騎士たちと愁弥が剣で攻撃する。


だが、城の周りにいた別の魔物。それらが、向かってきたのだ。


それらは長い胴体をした奇妙な者達であった。サーベルタイガーの様な長い牙を、上顎から剥き出し。一見たてがみがある事から、獅子に見えるが違う。


獣の様な顔をしてはいるが、レッドオレンジの毛があるのは、その顔の周りのたてがみだけだ。胴体は同色のウロコがついていた。


姿は爬虫類系、顔は獣。奇妙な魔物であった。


「城に入れるな!」

「動ける者は陣形を組め!!」


騎士たちは懸命であった。私は、トカゲの魔物ではなく長い尾を揺らし、飛び掛かってくるそのレッドオレンジの魔物に、向かった。


「瑠火!」


愁弥の声が後ろから聴こえた。


「“旋風”!!」


風の発動。猛進してくる大群に、碧風の竜巻を放つ。勢いよく立ち昇る竜巻は、魔物たちを巻き込み、風の中で切り裂く。


「まだあんなにいたのか。」

「“ガゼル”が来るぞ!」


ガゼル? 


騎士たちの声に、私は城の周りに彷徨いていたこの……レッドオレンジの魔物の事だと、認識した。


爬虫類系の胴体だが、獣の様に駆けてくる。そのスピードは速い。


身体をくねくねと揺らしながら猛進だ。突進してくるこの勢いは、雪崩の様だ。


なるほど。これで城壁を突き破ったのか。


旋風で切り裂かれたガゼル達の周りから、新たな者達が突進してくる。


「“火炎焦”!!」


火の発動。火炎放射を放つ。


群れとなり突進してくるガゼルに、私の火炎放射は直撃した。


「“氷の吐息フリーズ”!」


私の横でその声は聴こえた。愁弥だった。火炎焦で葬れなかったガゼルに、吹雪を起こし、氷の塊に凍結させる魔法。


それを放っていたのだ。


「あんま無茶すんな。」


愁弥は隣で少しだけ……苦笑いしていた。


ああ。そうか。ガゼルの群れに突っ込んだ私を、心配してくれたのか。


「ありがとう」

「どーいたしまして。」


はにかむ愁弥の顔。


「“騎士の五芒星ライトミッション”」


それは眩い光に包まれた剣術であった。ガゼルを取り囲む騎士たちの、5連撃。


五芒星に包まれた白い光。ガゼルを捕らえ、身動き出来なくするのだろう。


ガゼル一体を五芒星の中に閉じ込め、剣での攻撃。陣形技と呼ばれるものだった。


「ここはお任せ下さい!」


五方からの攻撃にガゼルは、為す術もなく切り刻まれていた。


そこにいた青年騎士が叫んだのだ。


私と愁弥は騎士たちに援護を受け、城内に進んだ。


「すげーんだな。騎士ってのは。」


城門から入った後で、愁弥がそう言った。


「ああ。確かに」


陣形ーー、それらを組み戦う事が出来る。急襲には耐えられなかったのだろうが、今の状態なら、持ち直せるのだろう。


城の中は荒れ果てていた。ガゼル。それに青緑のトカゲの魔物だ。


だが、火の手あがるガレキの中の城内には、数多くの騎士たちの姿があった。


戦っていたのだ。


「怯むな! 陣形を組み確実に倒せ!」


その中に銀色の鎧を着た男たちがいた。騎士たちとは、体格が一回り以上……上だ。


それにその風格も。更に長く太い剣だ。大剣とは違う様だが、通常の片手剣より重そうだ。


城内の広い通路。そこで騎士たちの先陣を切り、戦う者達。


始めて見る男たちだ。数多いガゼルと青緑のトカゲの魔物たち。それらと戦っていた。


「そなたらは? 何故こんな所に。」


そこに声を掛けて来た男がいた。銀色の鎧。かと思ったが、近くで見るとその輝きは紅くもある。紅と銀の混じった鎧であった。


銀に真紅の宝石を混じえて造られているのだろうか?


にしても……デカい。愁弥を越えている。更にこの風貌。武人。その言葉が似合う。


深いブラウンの髪。赤と黒の混じる眼は、色彩が深く、不思議な煌めきだった。


「ハーレイ騎士団の団長と副団長を、探している。彼等はここにはいないのか?」


ハーレイ騎士団の青年たちはいるが、レオンとザックの姿は見えない。負傷者たちもここに来るまでにいたが、そこにもいなかった。


すると、その男は目を見開く。


「そなたらは何者だ? 何故、騎士団を? 見た所、青年騎士団ではないな?」


少し太めの声。騎士団たちよりも年上であろう。だが、その重みはある。


「私達はクロスタウンで、彼等に会った。助けて貰ったのだ。その恩を返しに来ただけだ。」


右手に長い剣を持つこの騎士は、私と愁弥を見つめる。


「そうか。そなたらが……。レオン殿とザック殿。それから騎士団の者達の多くは、上階にいる。我等も向かうつもりではいるが、この通りだ。」


騎士の背後。広間やこの通路では魔物たちと、奮闘する騎士たちがいる。


「上階?」


愁弥は通路の奥を見つめた。奥には階段がある。


「王族を護っておられる。」


男の眼は少し翳りを見せていた。


「ダグラス様! ここはどうにかなりそうです! 上階へ!」


その中で一人の騎士が叫んだのだ。銀色の鎧。このダグラスと言う騎士と、同様のものを着た男であった。


ダグラスは魔物と戦う騎士を見ると、私達に視線を向けた。


「同行させて貰おう。」


その声に、私と愁弥は顔を見合わせた。


「失礼。見た所……ハーレイ騎士団では無い様だが? 貴方は?」


私はダグラスを見上げた。すると、彼は左手を差し出した。


「我等は“シラークタイト王国騎士”。そなたらの活躍は、ハーレイ騎士団 団長から聴いている。」


私はダグラスの手を取った。握る。


「そうだったのか。私は瑠火。」


ダグラスは愁弥にも手を差し出した。その手を掴むと


愁弥しゅうやだ。よろしく。」


がっちりと握手したのだ。


やはり大きな手だ。このダグラスと言う騎士は。


私達は、魔物と戦う騎士団や、シラークタイト王国騎士達。援護するカタチになってはしまったが、上階に向かった。


「“雷光らいごう”!!」


どの階も魔物たちが多い。まるで棲息地だ。


私は着くなり目の前にいたガゼル達に、雷の発動。稲妻を放った。


稲光しながら強力な稲妻は、ガゼル達に落ちる。愁弥がすかさず後ろから、向かってくるガゼルを斬りつける。


「“インペルファニマ”!!」


ダグラスだった。

彼は飛脚し、そのまま魔物の群れに剣を振り下ろしたのだ。


だがそれは、地をまるで叩きつける様な斬撃。その斬撃は魔物の立つ地を揺らし、震わせると、魔物たちはまるで痺れを与えられたかの様に、電撃を喰らっていた。


「すげー。なんだ? あれ。」


愁弥は紅い稲妻みたいな電撃を食らう、魔物たちを見ると目を丸くしていた。


ダグラスは剣を手に


「“剣術”と言うものだ。俺の使う剣術は、魔術との合成術。“雷と斬撃”の合成技だ。」


と、そう言ったのだ。


「雷!? 今のがか? すげーな。」


魔物達が倒れてゆくのを見ると、愁弥は目を輝かせていた。


魔術との合成技。そんな事も出来るのか。


私も感心してしまった。


「そなたの技は……魔法に似ているが、どうやら違うみたいだな。絶命させる為の力か。」


ダグラスは私の顔を見つめた。険しい表情だった。


この紅い眼と黒髪を見ているのだろう。


月雲つくもの民か。伝承でしか聞いてなかったが……。そうか。生存していたのだな。」


ダグラスはそう言うと、通路の奥を見つめたのだ。


「この先に階段がある。王の間のある最上階には、そこからしか行けない。突っ切るしかないな。」


ダグラスはそう言ったのだ。


憂いに似た眼で見られただけ。それで済んでしまった。


レオン達もそうだったが……騎士と言うのは、不思議だ。気にならないのだろうか。


「瑠火。行くぞ? 大丈夫か? 力を使いすぎたか?」


愁弥の声に私は顔をあげた。心配そうに覗いていた。


「大丈夫だ。」


最上階を目指して、私と愁弥は走りだした。



回復魔法ヒーリング”と呼ばれるものを使いながら、騎士たちと護衛騎士たちは、負傷者を助けながら、戦っていた。


使える者とそうでない者がいる様だが。何か“線引”が、あるのだろうか? 得意、不得意か? 私のように。



私達は魔物達を相手にしつつ、上階に向かった。誰もが……王族と騎士団を案じていた。



王族の階。


通路には魔物が集まっていた。さっきまでの通路とは違い、本来なら美しい装飾、高価な骨董品。それらに目を奪われる場所であろう。


だが、今は魔物の棲息地だ。


青緑のウロコに覆われたトカゲに、似た魔物は長い首を向けた。


メロウ……。そう言う魔物だと聞いた。爬虫類系の身体だ。だが、やはり不思議な姿をしている。


土地によって魔物の容姿や、形態も違うのだな。


ガゼルは獅子に似た頭をした、胴体の長い魔物だ。この広い通路がこの者たちの居るお陰で、どうにも狭く感じる。


「奥に王の間がある。」


ダグラスは剣を握りそう言ったのだ。


通路の奥。大きな扉が目に入る。固く閉ざされているが、魔物たちが扉めがけ突進していた。突き破ろうとしている。


他の部屋は既に開放済みの様だ。この通路も騎士団の青年たちと、魔物との戦いが繰り広げられていた。


「立て直せ! ここで退く訳にはいかない!」


騎士達は声をあげ、魔物たちに立ち向かう。



「そなたらは、奥に進め。」


ダグラスは懸命に戦う騎士達の方に、向かったのだ。かなり負傷者が多く、劣勢に見えた。


「行こう」


私と愁弥はダグラスに援護されながら、向かってくる魔物たちを倒し……奥に進む。


































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