第2章 戦士たちの咆哮

序章   王都ミントスへの旅路

 カース島。クロスタウンを出ると草原だ。ここより左手に進むと、私達の行ったハクライの森。聖女マリファスの神殿になる。


 私達はここより更に直進し、王都ミントスに向かうのだ。


 クロスタウンにいた時は、雪がちらついたが、今はすっかり穏やかな陽射しになった。どうやらこの辺りは、天候の波が激しいのか。


愁弥しゅうや。真っ直ぐだったな?」


「ん? あー。そう。地図を見る感じだとな。ミントスの手前に、ハーレイタウンと“レインズタウン”ってのがあるな。」


 愁弥は草原を歩きながら、地図を広げていた。ぐるぐると回しながら見ている。


「何故? 回転を?」

「あ。いや。なんか見づれーんだよな。いつもはスマホだからさ。」


 スマホ……。愁弥にはじめて会った夜に、見せて貰ったものだ。


 何やら画面に映像が出たり、音が聞けたりする不思議なものであった。


 ただ、電波がねー。とか、繋がってねー。とかで、使えなかったのだが、内蔵アプリとやらで、音楽を聴かせて貰った。


 正直。良くわからなかった。ルシエルが吠えたからだ。


 同調して音と一緒に吠え、喚いたのだ。


 ただ、愁弥の顔が写るものは美しい景色や、面白そうな景色ばかりであった。


 それに楽しそうな笑顔たち。共に過ごして来た仲間たちなのだろう。


 彼等の元に早く……戻れるといいのだが。


「瑠火。おい。聞いてるか?」


 私は……ぼぉっとしていたらしい。と言うよりも考えこんでしまっていた。


「あ……ああ。何だ?」


 私は愁弥の心配そうな声を聞いて、そう聞いた。


「“エレス”ってのから、“レイネリス神殿”ってのに行けるんだ。」


 愁弥は草原を歩きながら、私の隣で地図を広げ見せたのだ。


 私はその言葉に地図に視線を向けた。


 大陸ーーを、こうして見るのは何度目か。地図は何度か……、クロイに見せて貰った。


 村長は……里の者たちの事を考え、地図を持ってはいたが、余り広げなかった。世界の事を知ると…里の者たちが、非嘆の感情に襲われるからだ。


 やはり広い世界だ。アルティミストは。


 大陸戦争の場所になった、七大陸。今は五大陸だ。二つの大陸はルシエルが滅ぼしたからだ。


 世界の中心に位置していた。


“アストニア大陸”。“ビルドー大陸”。“カサンドラ大陸”。“セルフィード大陸”。“オルファウス大陸”。


 この五大陸を中心に周りに島国。群島諸国。大陸などが、集まる世界。


 海に囲まれたアルティミスト。

 これだけ見ても壮大な世界だ。


「オルファウス帝国。聖国アスタリアか。」


 五大陸の一つ。オルファウス大陸。そこはこのオルファウス帝国が、治める地なのだろう。


 小さな国の名前もあるが、どうやら統治しているのは、大陸名の国の様だ。領地分けされ色で区分されている。


 その中に聖国アスタリアはあるのだ。


 とても見やすい地図だ。


「この神剣……貰ったしさ。気になるんだよな。壊されたんだろ? 神殿。」


 愁弥はそう言ったのだ。


 確かに。クロイが神殿からこの神剣を、貰ったのか……商人だから買ったのかは、わからないが“神器”である事は変わりない。


 十二の神器ではないそうだが、それでも“神の化身”。つまり“神の器”の様なものだ。祀られていた。そう考えるのが、自然だろう。


「そうだな。聖国アスタリアとオルファウス帝国の争いかもしれない。とは、言っていたが……。気になるな。」


 愁弥は私の言葉に頷いていた。


「盗っ人扱いされるしな。このままだと。」


 と、ルシエルの声だ。


「え? まじ??」

「ルシエル!」


 愁弥がとても驚いた顔をしたので、私はルシエルに怒鳴った。


 ルシエルは素知らぬ顔で、フセていた。


「神殿から神器を奪うヤツがいるんだろ? タイミング的に絶妙だ。愁弥が犯人! だと思われるかもな」


 このバカ狼!

 言い方にとても悪意がある。にやけているのが、手に取る様にわかる。


「愁弥。大丈夫だ。盗まれたのは“破壊神”に纏わる、十二の神器だ。その神剣はクロイが、神殿から譲り受けたのかもしれない。」


 愁弥は顔面蒼白だった。


 泥棒扱いをされる。と、思ったのだろう。


「それに、クロイは商人だ。商品を買った。その可能性もある。」


 私は更に続けた。不安そうな愁弥の顔を、見ていられなかった。


「あー。だよな。」


 愁弥は未だ……不安そうではあるが、そう頷いた。


 だが、バカ狼は一言。


「崩壊した神殿から盗み出した。のかもしれんぞ。」


 と、言ったのだ。


「ルシエル! 黙れ!」


 私が怒鳴り覗くと、ルシエルはにやけていた。わざと煽っているのだ。愁弥の不安を。全く! なんてひねくれたヤツだ。


「俺ってなに? 犯罪者になんのか?」


 愁弥はふとそう呟いた。


「神殿から盗みだした。となると、聖国アスタリアでは“斬首”だな。極刑だ。」

「ルシエル!」


 さーっと、愁弥の顔から血の気が引く。私はルシエルの檻篭を、ばんっ! と、叩いた。


 ルシエルは不貞腐れた顔をした。


「行ってみればわかることだろ。こんな所で悩んでても仕方ない。」


 不貞腐れた顔のまま、ルシエルはそう言ったのだ。


 ん? まさか。わざとか?


 愁弥の不安を取り除こうとしたのか? ルシエル。とてもわかりづらいぞ。


「だよなー。てことで、瑠火。行き先にしてくんねー?」


 愁弥は私にそう言った。


「そうだな。神剣の事もあるが、聖国アスタリアの内情も気になる所だ。」


 と言うよりも……あの魔獣だ。


 私は何となくではあるが、この件は知らん顔を出来ない気がした。


 何故なら……“里を襲った黒龍”だ。それと白雲しらく村長の前に現れた……あの黒い人影。


 それらが……繋がってる。とは思えないが、このアルティミストで起きてる事に、関連している。そんな気がしたのだ。


 その為にも“調査”は必要だ。


 なるべく……戦乱の起きてる場所に、立ち寄るべき。そんな気持ちになったのだ。


「瑠火。破壊神ベリアスの封印に、首を突っ込むつもりか?」


 ルシエルからの言葉は、不思議だった。


 まるで、私の心を読んだかの様だった。


「“災い”と言うのは“災い”を呼ぶ。何かわかるかもしれないだろう?」


 私がそう言うと隣で、地図を片す愁弥が


「どーゆう意味だ?」


 と、聞いてきた。


 愁弥は茶の革袋を持っている。そこに荷物や、アイテムを入れている。右肩に掛けられる様に革紐がついた袋だ。


 そこに地図をしまったのだ。


 私も同じもので、黒い革袋を持っている。


「厄災には元凶がある。それは同時に集まってくるものだ。同じ様な事が起きてる地には、意外と元凶が同じだったりする。」


 私は愁弥にそう答えた。


 そう。そして……“闇”はそこに付け入るものだ。聖国アスタリア。月雲の里。クロスタウンのハクライの森。


 もしかしたら……“繋がってる”かもしれない。


「よくわかんねーけど、瑠火の里の事を言ってるのか?」


 愁弥の言葉には驚かされる。


 彼はそのまま続けた。


「だとしたら……“神殿巡り”ってのも、頭に入れた方がいいかもな。」


 そう言ったのだ。


「あーそれは面倒くさい! なんで神巡りしなきゃならん!」


 そこにため息ついたのはルシエルだった。


「ルシエル。とりあえず“聖国アスタリア”を目指す。文句はないな?」


 私はそう言った。


「わかったよ。俺様はどーせぶらぶらしながら、着いてくだけだからな。出れないから。」


 ルシエルは目を閉じた。

 不貞寝か?


 愁弥がその声に笑う。


「決まりだな。港町エレス。聖国アスタリア。瑠火……ついでに、王都ミントスか? なんかすげー旅になりそうだな。」


 何だかとても嬉しそうだな。わくわくしている。そんな表情だ。


「ああ。」


 私もーー、この旅の始まりを噛み締めた。


 何が起きるかはわからないが、私達の旅は始まったのだ。


 はぁ。


 ルシエルはため息ついた。


「途中で俺様を出せ。退屈だけはごめんだ。」


 そう言いつつも既に寝る体制だ。檻篭の中でくるまった。


 兎にも角にも……私達は、王都ミントスに向かって歩きだしたのだ。

















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