第7話 2月7日 新型肺炎警鐘の武漢の医師死去




 とにかくレポートをやっている。



 こんなぎりぎりに高校転校して通信制に入ったのは、なんとかして今年中に高校卒業見込みの資格が欲しかったから。じゃねーと、今年、大学受験出来ねえ。

 スポーツ進学あきらめた俺が、次にやりたいことは、と考えたとき、自然に浮かんできたのが絵だった。


 バスケよりもずっと前から。小さい頃からずっと好きだったのは絵を描くこと。

 お絵かき帳とクレヨンは俺の宝物だった。

 たぶん、上手く言葉に出来ない気持ちをぶつけられるのが、紙だったんだと思う。

 それはいつか、ボールを投げたりぶつけることで発散できるようになったけど、絵を描くのが好きだという気持ちは、俺の中にずっと残っていた。



 だから。


 絵、イラスト、デザイン、とにかくなんでもいい。美術に関することが仕事に出来れば、と思った。

 最初は、学校に行けなくなった俺が進めるのは専門学校かな、って思って。

 親に相談したら、どうせなら美大を目指せ、と言われた。

 だけど、美大は難しい。

 試験も、毎年課題が変わって、得意不得意があるから、運に左右されることもすごく大きい。絶対に今年受かるとは言えないから、って言ったら、ごく自然に、浪人すれば? と言われた。聞いたこっちのほうが、はあああ???って感じだった。



 親曰く、普通高校を卒業できないというのは、それだけで大きなハンデとなる。


 それを跳ね返して、マイナスをせめてゼロレベルに戻すには、大学に入るくらいしかない。

 それでも、普通に浪人すれば微妙にマイナスのままだけど、美大なら、一浪くらいならまあ多めにみてもらえるんじゃないかという気がする――だと。


 浪人してもいいの? って聞いたら。

 予備校とかなし。自分で勉強すること。小遣いはバイト代で稼げ。

 それなら、高校の学費と小遣いがかからない分、こちらは別に負担はないから。食費光熱費が一年多くかかるだけで、と言われた。



 そのかわり、浪人は一年だけ。来年は専門学校か、就職か選んでもらう。

 どちらにしても、茨の道だから、心するように、って。

 まあ、今年受かれば、そんな心配もいらないけど、だとよw



 正直、正式に絵の勉強を始めてまだ半年、今年は受かる気がしねえ。

 だけど、来年のために今年一度受けとくのと、来年ぶっつけだったら、絶対に今年受けといた方がいい。

 そのためには、とにかくレポートレポート。

 これ出さなきゃ、通信制でも留年だわ。




 クルーズ船の感染者は41人増えて計61人に。倍々ゲームどころじゃねーな。

 今回の新型肺炎に対してごくごく初期に警告発し、デマだと処分受けたりした武漢の医師もこの病気で亡くなった。どんだけ悔しかったろうな。

 

 今はまだ、注意しつつもわりと普通の生活が送れてるけど、新型肺炎周囲との落差がひどい。

 俺たちもそのうち、あっちの世界の住人になるんだろうか。いや、さすがにそれはなー。




   *

 


『新型肺炎、警鐘の武漢の医師死去 自身も感染、「デマ」と摘発』


2/7(金) 6:34配信

【北京共同】新型コロナウイルスが猛威を振るう中国で、原因不明の肺炎に早期に気付きインターネット上で声を上げ、当局に摘発された湖北省武漢市の眼科医李文亮さん(33)が7日午前3時(日本時間同4時)ごろ、新型肺炎で死去した。感染し入院中だった。病院が会員制交流サイト(SNS)で明らかにした。


 早くに警鐘を鳴らしていた行為が知られており、中国では「心が痛む」「受け入れられない」と衝撃が広がった。


 李さんを含む一部の武漢の医師らは、昨年12月に原因不明の肺炎が確認され、SNSで「重症急性呼吸器症候群(SARS)が発生した」などとやりとりしていた。




『クルーズ船新たに41人感染 新型肺炎、集団感染計61人』


2/7(金) 9:28配信

 厚生労働省は7日、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の新型コロナウイルス集団感染問題で、新たに乗客41人の感染を確認したと発表した。有症者ら273人を対象としたウイルス検査の結果、感染者は計61人となった。船内で感染が急拡大したことが明らかになった。中国・武漢から邦人らを退避させる日本政府のチャーター機第4便は7日、武漢から羽田空港に到着した。


 41人のうち21人が日本国籍で、米国8人、オーストラリア5人、カナダ5人、アルゼンチン1人、英国1人。年代は20~40代が3人、50代が3人、60代が8人、70代が21人、80代6人で、重症者はいない。

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