第25話 1月25日 京都と「彼女」からの電話


 

 朝いちの特急で京都へ。

 荷物抱えたまま、京都美術スクールへ向かう。駅から徒歩圏なのが救い。


 教室には、20数人の生徒がいた。学生服のやつもちらほら。これが全部美大・芸大志望だっつーんだから参るよな。



 今日はデッサン。

 ティッシュボックスと、それから引き出したディッシュペーパー、それに、黄色のテニスボールを組み合わせて、鉛筆の濃淡だけで描いていく。5時間で。

 まじかー。ティッシュ超苦手。白いは、柔らかいはで、素材感出すのがめちゃくちゃ面倒。

 それに、黄色のテニスボールって。ティッシュとの対比でどう塗り分けりゃいいんだか。

 少しでもマシな構図探って、あーでもない、こーでもない、と位置決めするだけで半時間以上費やした。本番こうなら落ちるわ。



 しかも、描いてる途中にLINE通話が。

 マナーにはしてあったけど、ぶーぶー震えて気が散ってしかたない。

 出なかったけど、誰がかけてきたかだけちらっとチェックしたら――藍川だった。


 よりによってこんなときにかよ!

 おかけで集中力がた落ち。

 あんのじょうの仕上がりにしかならなかったし、周りの連中はみんな超上手く見えてビビるし、テンション爆下がり。




 授業後、担当の講師に描き溜めた絵を見てもらって講評してもらった。

 開口一番、「わりと描いてるね」


 これって、褒め言葉? けなし言葉?


 各絵について一枚一枚、丁寧な意見をもらう。

 これは正直すげえ勉強になった。プロはそんなところを見るんだ、という視点も、こういう風にしたらもっと良くなる、ってテクニックも。

 俺の絵はデッサンよりも色彩デザインの方がハッとするものが多い、と評価してくれた。

 だから、なんとか一次のデッサンをクリアして二次色彩に進まないとね、だって。


 で、最後に、俺の志望校のK美大についての傾向と対策。

 これから1ヶ月強、なにをすべきか、効果的な練習方法。

 まだ明日の授業は残ってるけど、わざわざ京都に来た甲斐は十二分にあったと思う。



 全部終わったら8時だった。

 ホテルは京都駅からまた各停に乗る。

 そこで上手く店みつかるかわかんなかったから、京都の駅ビルで晩飯食ってこうと思った。

 いくつかぶらぶら物色して、結局伊勢丹の上で仙台牛タン定食食った。


 牛タンはうまかった。が。

 エレベーター待ってるときに、横に、家族連れが楽しそうに並んだんだけど、中国語で話してた。



 逃げなかったし、よけなかった。



 普通にそのままいっしょに並んで、エレベーター待って、乗って、降りたけど。

 内心では、「コロナじゃねーだろーなー」って思った。

 正直、出来るなら、離れたかった。

 こんな受験間近で、万が一、に当たったら、シャレになんねーし。

 けど、あからさまによけるのは、なんつーか、差別じゃねえの、とも思ったし、けど、病気を警戒するのは常識のような気もするし、いろいろ考えて、頭ぐるんぐるんしてるうちに、エレベーターが下に着いて終わった、っていう。


 

 日本を楽しんでくれればいーな、という気持ちと。

 こんなときに日本に来て欲しくねーなー、という気持ち。

 どっちもが、本当の俺の気持ちで。


 今でも、なんつーか、そのとき感じたもやもやが喉の奥にひっかかってる感じ。



 おかげで、藍川に折り返し連絡するの忘れた。



 アメリカは、自国民を封鎖されてる武漢から退避させるらしい。



 

   * 




『米政府、武漢から退避へ航空機 26日にも運航か』


1/25(土) 23:31配信

【上海共同】中国での新型コロナウイルスによる肺炎拡大を受け、米政府が封鎖された湖北省武漢市に取り残された米外交官や米市民を米国へ退避させるため早ければ26日にもチャーター便を運航させる手続きを進めていることが分かった。米政府関係者が25日、共同通信の取材に明らかにした。


 米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、米政府は中国当局から既に許可を得たという。チャーター便は座席数が約230席で、武漢市の米総領事館の外交官や米市民が対象だが、席に余裕があれば他国民も乗せるとしている。乗客の感染の有無や拡大防止のため、医療スタッフが同乗する。

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