第17話 1月17日 中国で死者2人目



 阪神大震災から25年たった。


 当然俺は生まれてないから記憶があるはずがない。

 まだ独身だったオカンは東京で就職して一人暮らししてるときで、明け方いきなり電話がかかってきたと思ったら、「無事だから大丈夫! 心配しないで!」というばあちゃんの声で目が覚めたって。

 なにが大丈夫なんだって聞き返そうとしたら、すでに電話は切られてて、慌てて折り返しかけ直したら、すでに電話は不通になってたらしい。

 

 テレビつけたら、崩れた高速道路が映ってて、ああ、なんかとんでもないことが起こってるんだ、って思ったらしい。まあ、ばあちゃんと連絡ついてたから、そこまで切羽詰まった心配はしなくてすんだらしいけど。

 だからもしも離れたところでなにかあったら、一言でいいから連絡だけはつけなさいよ、それがひいては周囲の安全を守ることになるんだからね、というのがオカンの口癖だ。



 どれだけ大きな災害なのか映像なら一目見ただけで伝わる、というのは、3.11のときに経験した。

 真っ黒い津波が、まったく勢いを感じさせないのにみるみる膨れあがっていくあの映像は、忘れたくても忘れられない。

 広島の山津波、熊本の地震、茨城の水害――恐ろしい災害の記憶だけが増えていく。そしてその記憶は、より新しい、より悲惨なものに上書きされて、少しずつ輪郭がぼやけていく。俺たちのような傍観者にとっては。


 けど、巻き込まれた当事者にとっては、他の災害がいくらおころうと、自らが日常を喪った災害はいつまでも消えない――いや、消せないのだと思う。


 25年。


 だけど、まだ25年。




 日本で発症した中国肺炎の患者は、武漢市には行ったが、海鮮市場には立ち寄っていないらしい。ということは、武漢では相当街中に保菌者がいるってことか。しかも、ウイルス自体、感染力が相当強いんじゃねえの?

 中国では二人目の死者が出てるし。



 亮太からは愚痴満載のLINE。ツイートすんのは止めたけど、ときどき覗いてはダメージ喰らってるらしい。バカか。バカだな。



 明日は天気が崩れるらしい。まじかー。

 センター当日だっつーのに、雪なんか積もったら最悪だ。



   * 

 


『新型肺炎で死者2人目、中国武漢 69歳男性』


【北京共同】中国湖北省武漢市当局は16日夜、新型コロナウイルスによる肺炎で男性(69)が15日に死亡したと発表した。死者は2人目。


 当局によると、男性は昨年12月31日に発症し、今月4日に病状が悪化した。市内の病院に入院して治療を受けていたが、深刻な心筋炎を患っており、胸水や、胸膜の肥大などが確認された。15日未明に死亡した。


 当局は15日時点で41人の発症者数は変わらず、重症は5人で、12人が退院したと明らかにした。

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