第18話 1月18日 センター試験



 久しぶりに寒くて、念のためにコート着てくか迷った。

 っつーか、そもそも、制服着ていくかも迷った。

 今の俺はもうこの制服の高校の生徒じゃないから。


 通信制のM校に編入したけど、そこで新たに制服を作るのは考えもしなかった。

 登校するわけじゃなし、5ヶ月しか在籍しねーのに、何万もかけるなんてアホすぎる。

 ただでさえ、転学と大学入試で信じらんないほど金かかってんのに。


 以前の制服で行くべきか否か。

 正直、前の学校の連中に見つけられんのは面倒くせえ。まあ、俺のクラスや部活連中でセンター受ける奴はほとんどいねえと思うけど。推薦と私立狙いばっかだろうから。


 んでた俺の心を決めさせたのは、オカンの一言。

「制服だと、周りの浪人にプレッシャーかけられるかもよ」

 うっし。制服で行っちゃるw 我が親ながら性格悪いww あ、俺もかwww


 玄関の扉には、「センター当日! ほどほどにがんばー」という七海の張り紙が。

 激励なのか? 気が抜けるっつーの。



 制服着てってよかったこと。

 昼休み、っつーか、昼飯の時間に、元担任の中沢探しに、教師の控え室に行ってみたんだよ。

 ドアのとこから中覗いたら、制服に気づいた中沢が、すぐに外に出てきてくれた。

 で、無事に転校して、それなりに無事にやってるっつー報告と、そのために書類とかいろいろ骨を折ってくれたことに礼を言った。

 おう、よかったな、と中沢は喜んでくれた。たぶん、中沢も、三年の10月になって転校なんてことになった俺が気になってたんだと思う。元気な顔を見られただけでほっとしたって。



 で、制服着てって、なんつーか、判断に困ること。

 藍川に会った。



 思ってたとおり、同じ高校の奴は何人か見かけたけど、顔見知りはいなかった。

 英語終わって、外に出て、人の流れに乗りつつ、会場の大学の外へ出ようと校門を目指したら――校門の横に藍川がいた。

 制服着てたから、すぐに見つかったんだと思う。



 なんか、久しぶりに見たけど、髪が長くなったような気がした。って、別にそこまで以前の藍川をはっきりと覚えてる訳じゃないけど。

 あいつは、元女バスの選手。で、身体壊してからはマネに転向した。いちおう女バスのマネだったはずだけど、男ばっかでいろいろと細かいところが杜撰な男バスのマネに頼まれて、こっちのことも手伝ってた。


 同学年なこともあって、それなりに仲は悪くなかったと思う。けど。

 俺が怪我してからは、手術や入院で学校休みまくってたし、そのまま引きこもって行かなくなったあげく、ろくに挨拶もしないまま転校した。

 だから、藍川と会うのは、去年の夏休み以来だ。


 夏休み――怪我したあの日、以来。



 校門のとこで目が合って、あ、これ、俺待ってたな、ってぴんときたけど、なんて言っていいのかわかんなかったから、そのまま横を通り過ぎようとしたら、あっちから駆け寄ってきた。

 で、久しぶりとかなんとか挨拶めいた声をかけてきたから、おお、とか低い声で唸るように返事したら、元気そうでよかったとか言われた。

 正直、あいつも怪我してバスケやめてるから、俺にシンパシー感じてんのかな、と思って、ちょっと逃げたくなった。今はまだ、同情とかそーゆーの、しんどいんだよ。


 そんな俺の様子に気づいたのか、藍川は、少しだけ寂しそうな顔をした。で、LINE交換して? とだけ言った。

 さすがに罪悪感が湧いたので、そそくさと交換だけして、すぐに帰ってきた。



 スマホは、手に取る気にもならずに、ベッドの上に放りだしてある。

 ちなみに、まだ、なんの連絡もない。




 センターの試験以上に、いろいろ疲れた1日だった気がする。

 あ、英語むずかったです。



 

 上海で肺炎患者が上海に飛び火。タイでも二人目。

 イギリスの大学の研究発表によると、これまでに中国当局が発表した患者数より、遙かに多くの患者が存在する可能性がある、って話だけど、んなこと、みんな最初っからわかってるっつーの。ほんとに4、50人しか患者がいないんなら、中国はもみ消すに決まってるって。

 本当は2000人近くいるんじゃねえか、って、たぶん、そっちの数字のほうが本当なんだろうなー。

 んな中で、武漢でオリンピックの最終予選やるっつーボクシング協会、本気か? 

 本気なら頭沸いてんな、としか思えん。

 


   * 



『上海と深センで新型肺炎感染疑い 中国、武漢は計45人に』


1/18(土) 10:35配信

【上海共同】香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは18日、中国上海市と広東省深セン市で計3人が湖北省武漢市で見つかった新型コロナウイルスによる肺炎に感染した疑いがあると報じた。感染が確認されれば、中国国内では武漢市以外で初の事例となる。


 同紙によると、深セン市では2人が感染症専門の医療施設に隔離され、上海市では1人が治療を受けたという。


 武漢市の衛生当局は18日、同市で発症者を新たに4人確認したと発表した。病状は安定しているという。これで同市での発症者は計45人(うち2人死亡)となった。ほかに日本で1人、タイで2人の発症者が見つかっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る