2話 天使のようで、悪魔な彼女


長かった入学式とクラスメートとの顔合わせも終わったところで、俺は図書室に行こうとしていた。

ふぁ~、眠い...。

昨日発売されたばかりの本を、ついつい徹夜で読んでしまったのだ。

朝起きたら、起きたで妹に、

「お兄ちゃん、そんな本読んでるからモテないんだよ。」

と、皮肉を言われた。

別にいいじゃないか。俺が何読もうと関係ないだろ。


そんな俺の事を、

「ふっふっふー。誰かなぁ、やらしい目をしているのは。ハッ!

もしかして見ているのは、本じゃなくて......女の子!?」

と、からかってくる香澄ばばあ...じゃなくて先生は、

今頃、良いところを見せようと先に新刊の整理を始めているんだろう。

でもどうせ、倒れてきた本の下敷きになって助けを求めていると思う。

その姿を想像して、先生なのにどんくさと思いながら図書室に入った。


それはそれは、面白いほどその通り。かなり苦戦してるようだった。

「先生、そこにいつから居たんですか?」

すると香澄先生は、

「15分くらい前かな。それより時羽くん、はやく助けて!」

と、言った。

亀みたい...。

あまりにも面白いので、記念にパシャリと写真をとって、

「先生~。これ、後でコピーして廊下に貼りますね。」

と意地悪を言ってみた。

「ととと時羽くん...!?そんな事しないで...。わかった、わかったわ!この間読みたがってた、超激レアなサイン本貸してあげるから、助けて!」

俺は心の中で喜びながら、

「約束ですよ。」

と、彼女を本の山から引っ張りだした。

「ちゃんと写真消してよー。」

「はーい。」

と返事だけして、写真を保護した。

ふぅ、重かったなぁー。先生絶対太っただろ。

「じゃあ僕はHRで疲れたので、寝てますね。」

「えー。片付け手伝ってよ~…。あ、そういえば昨日のアレ、読んだ!?」

「はい、めっちゃ面白かったです!徹夜で読んだんで今日は暇です。」

そっかー、暇なんだ、暇なんだね、と先生の笑みが、どんどん深まっていく。

あ、しまった...。

「そーんなに暇な時羽くんには、今月の新刊の並べ替えをしてもらおうかな~。」

「...分かりました。今日はそのつもりで来たので、ちゃんとやりますよ。」

ため息混じりにそう言って俺は、目の前の崩れた本の山のもとへと行くのだった。


「時羽くん、ありがとう。助かったわ。」

綺麗に揃えられた本棚を見て、満足そうにそう言われた。

「なら、片付け終わったので僕は次こそ寝ますから。」

「はいはい、おやすみ。」

そうしてカウンターに座り突っ伏して寝ていると、

「そういえば時羽くん。中学の時は首席だったのに、何で高校は普通科にしたの?」

と、先生から質問された。

「特進は、大学の推薦がもらえないんですよ。」

「そっかー、知らなかった。」

と「納得した」というように言われた。

すると、誰かが入ってきた。

「あら、確か新入生代表の...サカミさん。」

新入生代表って、こんな娘だったっけ?

腕の隙間から見たサカミさんと呼ばれるその女の子は、高校生とは思えないほど幼くて、びっくりした。

しょ、小学生...!?

うちの妹と同じくらいじゃないか。

強いて言っても中1くらいだろ。

「いえ、サカ『イ』です。堺美緒です。こんにちは。」

口調は大人っぽいなぁ。

あ、早速香澄先生に気に入られてる。あの人小さいモノ好きだもんな、、、。


「あの!」

先生達の会話を聞いていたそのときだった。

大慌てで、生徒会の三神先輩が入ってきた。

かなり大変そうで、いつも気にしている前髪がはねていた。

「去年の生徒会の会計資料、貸してください!」

「あー、私はあんまり詳しくないから...時羽くん!お願い~‼」

うん、いつものことだよね。何で先生は図書の先生になったんだろうね...。

「生徒会資料なら、手前から3番目の棚の上から4番目の棚にあると思うよ。」

「ありがとう。」

先輩は、急ぎの用なのか、すぐに走って出ていってしまった。


......?

なんか、堺さんの視線を感じる。

ん~...俺、なんかした?

彼女は何かをひらめいたようで、嬉しそうにこちらに近づいてきた。

その顔は、何か悪巧みをしているな..。.

「ねぇ。高校教員室への行き方、教えてくれない?」

...出た。出たよ。女子の必殺技、上目遣い!

涙の次に強いともされるこの技。普通の男子はイチコロだな。

だがな、俺は妹で散々経験してきたんだよ。

そういう時は......。

「え、嫌。めんどくさい。先生に頼んで。」

と言い顔をふせ、寝たフリをすれば大抵の女子(妹)は諦めてくれる。

だが、彼女は納得がいかないようですぐに、

「あなたね、」

と少し声色を変えて、そういった。

「まあまあ、堺さん。時羽くんも案内してあげなよ。」

うわー、やっぱ余計なことをする先生。

どうせ起きているんでしょ。と言っているような気がする。

顔をあげると、にやけた先生がそこにいた。

そ、れ、に、

「さっき本を読み終わって暇だって言ってたじゃない。さぁ行ってらっしゃい!」

決定的な証拠を突きつけられたが、ここで引き下がるわけにはいかない。

「なんで俺が...。」

香澄先生の笑みがどんどん深くなっていく。

"こんなかわいい娘のお願いが聞けないの?"

うーん、ものすごい幻聴がする。

先生は、

「行ってきなさい。」

と言い、俺と堺さんを廊下へと投げ出した。

また、

「美緒ちゃんを泣かせたら、承知しないからね!」

とひそひそ声で言われた。

了解でーす。案内すればいいんでしょ。

面倒くせ〜、と思いながらも教員室へと歩き出した時…。

「ちょっと待って。あなた何処へ行くの?」

と言われた。何処にって...、

「教員室、行くんだろ?」

言わなくても分かると思ってた。結構『女子』の扱いって難しいんだなぁ。

まあうちのは、女子でもガキだしな。

そう思いながら、スタケタ歩き出したら、

「ねぇ、あなた。」

と呼び止められた。ん?なんだ?

「教員室に行くのだから、最低限の身だしなみは整えなさい。」

しかめっ面で俺の首元を見ている。

あ、服を直すの忘れてた。

ボタンを留めようとしたが、なかなか留まらない。

あれ?おかしいな。いつもならすぐなのに...。


ぐいっと、引き寄せられた。

急すぎて、理解するのに時間がかかった。

こんな事を思うのはなんだけど、その時の彼女はとても綺麗だった。


目は明るい茶色で、まつげは作り物のように細く長かった。

さっきの小学生要素は何処にもなく、今はちゃんと高校生にみえる。

肌は透き通るように白く、触れると壊れてしまいそうで怖かった。


堺さんは上から順に、慣れた手つきでボタンを留めていった。

いつも誰かのやっているのかな?

仕上げにキュッとネクタイを締めると、彼女は満面の笑みで、

「よし!できたよ、お兄ちゃん。いってらっしゃい。」

と言った。

え?...オニイチャン?

「お兄ちゃん?」

不思議そうにみてくる彼女は、間違いに気づくとすぐに顔を真っ赤にした。

そんな顔もするんだ。

「あ、...。えっと、ね、これは......。」

必死になって言い訳を探しているみたいだ。

...なんか今、すごく堺さんがかわいい。ヤバい。先生の気持ちが分かる!

まさか、俺ってロリコンだったのか!?

「まぁ、(どちらにせよ)ありがとう。」

どうしよう。話すのめっちゃ緊張するー‼

それでも堺さんは微笑みながら、

「ごめんね、間違えちゃった。」

と言った。

そして、少しギクシャクしながら教員室にたどり着いた。


そんな天使のようで悪魔な彼女と高校生活をおくるとはこの時、思ってもいなかった。

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図書室の番犬と首席の彼女 Sirokuro @Kurosiro

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