図書室の番犬と首席の彼女

Sirokuro

1話 眠りの番犬

「新入生代表、堺 美緒」


入学式が終わり、静かになってきた校舎の中で、私は上の階へと足を運ばせていた。

「3階は、図書室らしいわね。」

広い校舎をこれでもかなり回ったのに、いまだに高校職員室が見当たらない。

そういえば、入学式中に前列で寝ていたあの男なんなの⁉︎

先生や保護者の方がいる中で、よく堂々と寝れるわね。

中学からこの学校に居るからって、のんびりしすぎなのよ。

どうゆう神経しているの。

そういえば、ここの制服結構可愛いのよね。

それに、髪を短くしたおかげで、ちゃんと高校生らしく見える‼︎

今まで何度、小学生に間違えられたことか…。

ほらこれ。リボンがあって、高校生らしく見える!

あーあ。こんな感じで身長伸びないかな…。

なんてことを頭の中で思ってるうちに、古い大きな扉の前まで来た。

上に「図書室」と書いてある事からここがそれだと言うことは、間違いでは無いらしい。


「図書の人は、教えてくれるかしら。」

今年でこの学校は、創立140周年だという。

ここの図書室には、世界でも数少ない珍しい本や、貴重な本が沢山あるらしい。

そんな昔からあるのかと思えば、なるほど。

入り口の扉はその長い歴史を感じさせるようなものだ。

私も少し、ほんのちょっぴり、興味がある。

中はどんな感じだろう、と思いながら扉を開けた。

そこは、外見と違いおしゃれで暖かい雰囲気をもったところだった。

「あら、新入生代表の…えっと確か、サカミさん?」

入って早々、図書室の先生と思われる、若くて綺麗な女の人に話しかけられた。

「いえ、サカイです。堺美緒です。こんにちは。」

『イ』を強調して言うと、クスクス笑われた。

「そっかー、堺さんね。こんにちは。図書の香澄 綺莉絵です。」

すると、何故かそのまま私の頭に手を乗っけて「よ〜し、よ〜し」と優しく撫でて来た。

確実に子供扱いされてる…。高校生になったから子供扱いされないと思っていたのに…。あ〜。でもこの撫で方いい〜。

「あの!」

先生の撫で撫でに癒されていると、女の子が大急ぎで入って来た。

いかにも、助けて!という顔をして入って来た。

「えっと、生徒会資料の本で、去年の会計資料ないですか?」

すっごく慌てていて、髪がはねているのも気にしていない感じだった。

「あー、私はあんまり詳しくないから…時羽くん!お願い〜。」

すると、カウンター席で顔を突っ伏していた男の子が、ダラダラと顔を上げた。

ん?なんかこの人、どこかで見たような…。

「生徒会資料なら、手前から3番目の棚の上から4段目の棚にあると思うよ。」

女の子はホッと息をつくと、

「ありがとう。」

とお礼を言い。本を取ると同時に、走って出て行ってしまった。

嵐のような子だなぁ。

それより、この眠そうな顔、どこかで……。

うーん、、、。うーん、ぐぬぬぬぬ。

あー‼︎入学式中、前列で寝てた人だ!

なによ、ネクタイ緩めちゃって。(結構きまってるけど…。)

そうだ!叱るついでに、行き方教えてもらおうっと。

「ねぇ、高校教員室への行き方、教えてくれない?」

カウンターの近くに行って、聞いてみた。

「え、嫌。めんどくさい。先生に頼んで。」

と言い、そのまま顔を突っ伏した。

まだ、寝るの?

なんなのこの人⁉︎女の子にお願いされてるんだよ!

ここは顔を赤くして、

「うん。もちろんいいよ。堺さん(ハート)!」

っていうところでしょ!

なにめんどくさがってんのよ!

「あなたね、」

「まあまあ、堺さん。時羽くんも案内してあげなよ。」

香澄先生がなだめるようにポンポン、と私の肩をたたいてくれた。

「さっき本読み終わって暇だって言ってたじゃない。さあ、いってらっしゃい!」

「なんで俺が……。」

と、愚痴っている時羽くんに、

「行って来なさい。」

と笑顔で言って、一緒に廊下へと無理矢理押し出した。

すると、彼は私を置いてさっさと歩き出した。

「ちょっと待って。あなた何処へ行くの?」

またもやめんどくさそうに、

「教員室、行くんだろ?」

と言って先に歩きだした。

いい顔立ちなのに、言葉遣いが悪いのが玉に傷ね。

それに教員室に行くのに、その格好はないんじゃない?

「ねえあなた。先生方に会うのだから、最低限の身だしなみは整えなさい。」

そういって私は、なかなかボタンの留まらない彼を引き寄せ、時々兄にするように、上から1つずつ留め、ネクタイをキュッと締めた。

「よし!できたよ、お兄ちゃん。いってらっしゃい。」

あれ?反応がないわ。ん?

「お兄ちゃん?」

と、上を向いて見えたのは、驚いた時羽くんの顔だった。

「あ、…。えっと、ね、これは……。」

「まあ、ありがとう。」

すごく、すっご〜く恥ずかしい!まさかお兄ちゃんと間違えるなんて‼︎

「ごめん、ね。間違えちゃった。」

そういって、また歩き出した彼の背中を追った。

ふっと見えた彼の顔は、ほんのり朱に染まっていた。


季節は春。


こうして、私と時羽白斗は出逢ったのだ。

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