第22話 絶句する掛賀

 掛賀久園がホテルのベッドで目を覚ましたのは7時10分だった。… セットしていた自分のスマホのアラームが枕元で鳴ったからである。

 …昨夜は古墳調査から自衛隊と合流して怪獣対策と目まぐるしく動いて疲れた身体を生ビールで癒したからか、寝つきも良くグッスリ眠れた掛賀だった。

 サッとシャワーを浴び、洗面してメイクをして身支度を整え、一階のレストランへ朝食を摂りに行こうとした時、「秘密兵器」を入れたトートバッグが部屋に無いことに気付いた。

「…甲斐路 優ちゃんが部屋に持って行ったのかしら?…」

 掛賀はそう思って甲斐路の部屋に内線電話でコールしてみたが反応は無かった。

 乙掛の部屋もコールしてみたがこちらも反応が無い。

「朝食に行ったのかな?…」

 仕方ないのでエレベーターで階下に降りてロビー脇のレストランに行ってみたが、そこにも二人の姿は無かった。

「まさか… !? 」

 …にわかには信じがたいことながら以上の状況から、掛賀の頭に浮かんだ答えはどう見ても一つしか無い。

(U - ホークと直接コンタクトを取りに行った !? …)

 …掛賀はたまらずに間森一佐に連絡を入れた。


「…状況は認識しました。現在、自分は先生をお迎えに向かっています。ホテル到着は 8:00 (まるはちまるまる) の見込みです」

 掛賀の話を受けた間森一佐は冷静な声でそう応えた。

「あの二人が、私の用意した器具を持ってU - ホークの元へ行ったことは間違いありません!…ひょっとしたら自衛隊はもうそのことを分かってらっしゃるんじゃないんですか?…もしそうなら、今日のU - ホークへの攻撃はどうするつもりなのかしら? あの二人に何かあったら私… !! 」

 掛賀の声には切羽詰まった感が表れていた。


 同時刻、県庁15階の戦闘指揮管制室では、U - ホークへの再度の攻撃を前にして緊迫感が高まっていた。

 80インチのメインモニターには、宇都宮市の地図画面上を目標の赤い丸に向かって刻々と近づいている特殊装甲車の青い四角が映っていた。

「…こちら装甲車、現在宇都宮環状道路を西へ移動中、目標との距離2500 ! …鳥の群れ等の状況はありません。作戦遂行に支障無し ! 」

 特殊装甲車を運転する瀬唐内雄(せからうつお)一尉から管制室に無線が入った。

 それを受けて管制室の部隊長が指示を出す。

「よし、現在U - ホークは高校生二人と対峙して北西方向を向いている。そのまま直進して目標まで距離1000の地点で停車、目標の背面方向からミサイル2基を発射し、ぶち当てろ!その距離からなら奴が振り返って弾丸を撃つ前に着弾出来るはずだ !! 」

「了解、目標まで距離1000で停車し、ミサイル2基を発射、命中させます!」

 瀬唐一尉が高揚感を滲ませて応えた。

「今度こそ、我々の手であの怪獣をやっつける!」

 部隊長が管制室のスタッフの顔を見渡しながら言った。


 一方、護神獣と対峙している甲斐路 優は、必死にその怒りを鎮めようと対話を続けていた。

『お前たちは私への礼無き仕打ちを何もせずに赦し、過ちを省みることもせず私に帰れと言うのか?…私は勝手が過ぎるお前たちに戒めを与えようかと考えるが… ! 』

 甲斐路と乙掛に護神獣は静かに言った。

「我々は昔に御様と心を通わせた時の者たちのことを知りません。したがって御様が我々の友であることをほとんどの者が知らないのです。時が流れ今では御様への礼も忘れ去られ怖れと疑いの火を我々は持つに至りました。我々に今ひとたびの礼と友への学びの日々を与えたまえしと願います」

 …不覚にも僕は隣で護神獣に必死に訴えている甲斐路の姿を見て、自分が涙を流しているのに気付いた。昨日の県庁内での戦闘会議の中での大人たちの発言が、今僕の脳内にちらちらとよぎったが、甲斐路や先生の言うことなど結局誰も聞いてやしなかったのだ。地球外からの知的生命体とコンタクトを取り、友としての関係を築いた古代人の頃から僕たち人類は果たしてどれだけ進歩したと言えるのか?…むしろ畏れも忘れ礼も失い、火力を持てば何でも出来ると傲慢無知になって思い上がった馬鹿ばかりになっているんじゃないかと、護神獣と甲斐路を見てそう思えて来た。

「戒めを与えるとおっしゃるなら、我の命を差し上げます!…怒りを鎮めどうか我々に学ぶ時を与えたまえし…!」

 さらに訴える甲斐路に、

『お前の命など要らぬ。…しかしお前の連れの"聞き入れる者"は今になって学び始めているようだ。学ぶことは"聞き入れる"姿から始まる。…火を放つ者たちは何故学ばないのか?』

 …護神獣の言葉が僕の胸に刺さった。


「近距離ミサイル攻撃ですって !? …いったいどういうことですか?」

 鹿沼市のホテルで、間もなく到着した間森一佐から話を聞いた掛賀は思わず叫んだ。

「目標の背後、距離1000の地点から81式誘導弾(短SAM)2発を撃ち込む作戦です。二人が目標に襲われる恐れがあるため、緊急時作戦として幕僚長承認の上、遂行指令が出ました。ミサイルは間もなく発射されます」

「そんな ! ……」

 間森一佐の報告に掛賀はもはや絶句するしかなかった。








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