第21話 U ‐ ホーク対甲斐路 優

「護神獣が呼びかけに応えてくれたわ!…これからが正念場よ !! 乙ちゃん、ビビらないで頑張ってね!」

 甲斐路が僕を横目で見て言った。

「…えっ !? …あぁ、うん、僕は大丈夫さ ! 人類を救うからな」

 答えながら自分の顔がこわばっていたことに気付いた僕だった。

 …上空をぐるぐると回っているカラスの群れは、やがて少しずつ高度を下げて来て、螺旋状に渦を巻くように僕たちとU ‐ ホークの周囲にパタパタと降りて、羽根をたたんだ。

 目の前にU ‐ ホーク、背後から周りの道路、駐車場、そして建物の屋根までぐるりとおびただしい数のカラスに取り囲まれた状態となり、僕と甲斐路は緊迫と静寂の中に二人で立っていた。…カラスたちは僕たちを360度の輪の中心に置いて、今は不気味に無言のまま監視している状況となっている。


「宙より来たる聖なる遣いの者よ!…我らの偽り無き求め訴えを聞き賜えしと望む!」

「御様の求め訴えを真にまごうこと無く聞き入れたいと望む!」

 甲斐路と僕は護神獣と気持ちを通わせようと、必死に用意した台詞を叫び、手を合わせ目を閉じた。

「………………」

 僕は、護神獣へというよりはむしろ甲斐路と気持ちをシンクロさせようとして、雑念を払い、心を無の状態に置こうとしていた。


 …しばらくして、頭の中に何か振動音のようなものが微かに聞こえて来た。

(…キィィィィィィィィィィイイイイイイン!)

 …その音はだんだん大きく響いて来て、やがて脳内に反響し始め、ちょっと頭が痛くなりかけて来た時、波が引くように小さくなり、完全に消えないまでも気にならないくらいに落ち着いた。

 僕と甲斐路は目を開けて再び護神獣を見上げた。

 護神獣はまだ僕たちを射るような鋭い目で見下ろしていた。

(キィィィィィィィィィィ…ィィィィン ! )

 僕の頭の中にまたさっきのノイズがかすかに聞こえて来たが、今度は気になるほどの音にはならない…。

 すると、耳からというより、僕の脳内に突然言葉が響いて来た!

『…お前たちは私の友なのか?…敵なのか?』

 それはまるで女性が話すような、落ち着いた高い声に聞こえた。僕と甲斐路は思わずハッ! として顔を見合せたが、すぐに甲斐路は拡声器を上に向けて護神獣に話を続ける。

「我らは永く永く変わらずの友なり!…しかしながら我らの中には愚かな者がおり、礼無きことをした由、心より恥じ入り、お詫び申し上げる」

(凄い ! …本当にU ‐ ホークと会話してる!)

 この状況の中でビビらずに堂々と巨大獣と渡り合う甲斐路に僕はもう感心するしか無かった。

『しかし、そのあともお前たちは私に小賢しい破裂玉や、炎の矢尻を放って来た…友のすることでは無い。お前の言葉に信は置けぬ』

 …うわ~ ! 護神獣怒ってるよ~!と僕は心中で首をすくめて震えていた。

「我らはまだ幼く愚かゆえ、御様が我らの速く走る乗り物を壊したことに恐れおののき、災いを除けようと過ちを犯したもの…つまらぬ迷いごととお許しを乞うものなり」

 甲斐路は護神獣から目をそらすことなく淡々と言葉を続けた。

『…お前たちと初めて出会った時には、あのような速く走るものは無かった。お前たちの巣の集まりの周りにあのような速く動くものが駆け回っているのでは煩わしかろうと思い、止めてみたのだ』

 …古墳を汚され、破壊したことへの報復じゃなかったのかぁ ! …。

 護神獣の言葉に、僕は思わずまた心中で呟いた。

『ホウフク…とは?…仕返しのことか ! 』

 その心中の呟きに突然護神獣がツッコミを入れて来たので僕は心臓が破裂しそうになった!

『お前たちは私から見ればあまりにも幼い…生きている時が儚いからなのか、学びが遅く、知り得た覚えも身体が滅ぶのと共に無くなってしまう…初めて出会った時のお前たちは、私を畏れ敬ってくれた。礼をもって迎えてくれた。友になろうと心を通わせようとしてくれた。…時を置いて見た今のお前たちは言葉を交わすこともなく私を敵のように扱い、火をぶつけて来るのは何故か?…』

 …僕は護神獣の言葉から目をそらし、周りを取り囲んでいるカラスたちを見た。

 カラスは護神獣に同調するかのように僕たち二人をじっと見つめていた。

「鳥は人間を常に観察しています!彼らが敵意を持って来たら我々はひとたまりも無く…」

 掛賀先生の言ったことが生々しく今リアルに感じられる。

「御様のおっしゃる通り我らは愚かで、身体が滅ぶ時に魂も無くなってしまう者なり…しかしながら、ゆえに我らは"記す"ということをして、覚えを次の者に残して来た。御様と友である証しの小塚(古墳)も然り。我もまたそれゆえ御様と気持ちを通わせ、再びまた真に友となりたきと思う!愚かな我らの多くの者どもには誠をもって話を説くゆえ、我らを許し気持ちを納めて元の御処 (多気山) に戻ってまた我らを見守って頂きたきと願う」

 …甲斐路が必死に護神獣と交信を重ねて宇都宮の、いや人類の平和を取り戻そうと命をかけて頑張っていたこの同時刻、陸上自衛隊は密かに作戦を進めていた。

 ミサイル発射ユニットを連結牽引する特殊装甲車が、時速35キロで一般車規制中の宇都宮環状道路を西へ…U ‐ ホークの背後から近づいていたのである。










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