第20話 自衛隊の画策

 …僕と甲斐路は総合運動公園の野球場脇の駐車場に自転車を入れ、隣接する塚山古墳上に立っているU ‐ ホークを見上げた。

 翼を休め、目を閉じているその巨大な鷹は、まるで生物というよりはバカデカイ置物かモニュメントのようだった。

 甲斐路は自転車の前かごからトートバッグを持ち上げ、中から取っ手付きの拡声器を取り出した。取っ手の脇には小さい箱型の周波数調整装置と思われる機器が装着されていた。…何だか想像していたよりは簡単な作りだ。

「何か…秘密兵器感が無いなぁコレ ! …こんなんでU ‐ ホークと対決出来るの?」

 僕の胸にはしかし不安感だけがずんずん湧いて来ていた。

「ここで今さらグタグタ言わない!…昨晩打ち合わせた通りに行くよ !! 」

 甲斐路がピシャリと答えて「秘密兵器」をU ‐ ホークに向けてスイッチを入れた。

「宙(そら)より来たる聖なる遣いの者よ!」

 甲斐路が目の前の護神獣に声を上げた。

「我は求め、訴える者なり!」

 そう言うと、拡声器を素早く僕に手渡した。

「我は畏れ、聞き入れる者なり!」

 僕もまた、打ち合わせたセリフを口にした。


「大変だ!…あの二人、直接目標とコンタクトしようとしてる !! 無謀過ぎるぞ、鹿沼の掛賀先生に連絡を取れ!いったい何を考えての行動なんだ?」

 監視カメラの映像を見ていた多々貝自衛官が叫んだ。

 それを受けて間森一佐が携帯を手にホテルの掛賀教授にかけようとした。しかし、

「待て !! 」

 部隊長が制止した。


「…U ‐ ホーク全く反応しないぜ、ダメじゃん秘密兵器…」

 呼びかけにも動きを見せない護神獣を見上げながら僕は言った。

 今さらながら気付いたが今日も昨日に引き続き上空は曇天で、灰色の雲が低く垂れ込めているような感じだ。…僕は正直に言えばこのままU ‐ ホークが反応せずにいてくれれば良いなぁとこの時ちょっぴり思っていた。

「もう一度やるわよ!……宙より来たる聖なる遣いの者よ!我は求め、訴える者なり !! 」

 甲斐路は再度怪獣に向かって叫ぶ。

「我は畏れ、聞き入れる者なり!」

 仕方なく僕も叫んだ。

「…………… ! 」

 呼びかけの後、しばらく二人で様子を見ていると、

「あっ !! …」

 パチッと護神獣の目が開いた!


「なっ !? …この状況で目標にミサイル攻撃を仕掛けるんですか?…しかし部隊長 !! 住民の避難も無く、火力兵器を市街地で使用することは…!」

 県庁内の戦闘指揮管制室では多々貝自衛官が思わず声を上げていた。

「この状況になってるからこそだよ!…今現在、目標のすぐ足元で高校生二人が生命の危険に晒されているんだ!コトは緊急を要する事態だ、目標の背後からミサイル2発、必ず命中させて倒す!」

 部隊長が言った。

「しかし、ミサイル攻撃をしても奴は口から弾丸を発射して迎撃します!精度も百発百中です !! …戦闘機を使えば鳥の群れを出現させて襲って来ます!正直有効な手段とは自分には思えません !! 」

 多々貝自衛官が応える。

「そんなことは分かってる!…だから考えた。いいか?今までの奴の行動を振り返ってみろ!奴が自身で直接攻撃行動を取ったのは、東北道を走行中のトラックとバス、走行中の新幹線車両、報道ヘリ、そして我々の戦闘ヘリに対してだけだ!…地上の人間の生活上での動きなどには反応を示していない。現にあの高校生二人は自転車で奴の足元まで簡単にたどり着いている!」

「…………… !? 」

 管制室の自衛官らは部隊長の言わんとしてることをまだよく理解出来ずに沈黙するしかなかった。

「つまり、奴は速く動くモノ…最低でも時速90キロ以上で移動する車両や機械を攻撃するんだ!…おそらく、低速でしか動かない物なら敵意を持たない ! …というのが自分の考えだ」

 部隊長がキッパリと言った。

「…なるほど」

 周りの自衛官らが頷く。

「だから、二人が奴とコンタクトを取っているこのタイミングを逃さず、地上を低速移動で奴に近づき、至近距離で背後からミサイル2基を撃ち込む作戦で行く!…大至急攻撃準備にかかるぞ !! 」

 部隊長が語気を強めて言った時、間森一佐がしかし懸念を示した。

「部隊長、ミサイルが目標に着弾した際、二人への影響は無事では済まないと思いますが……!」

「そんなことを言って俊巡してるうちに二人が奴に踏み潰されてしまったらどうする?…我々の仕事は市民が、民間人が犠牲になる前に、一刻も早く奴を倒すことだ!」

 部隊長は頑として言い放った。


 …護神獣は首を動かし、視線を僕たちに向けた。

 僕たちは見上げながら、怪獣は見下ろしながらで視線が交差する状況というのはものすごい恐怖感だ。

「ギャーッ!」

 すると護神獣が突然雄叫びを上げ、僕は思わず目をつむり耳を塞いだ。

(こ…怖い!何が起こるんだ?)

 ビビりまくりながらゆっくり目を開けると、甲斐路はまだ真っ直ぐに護神獣を見上げていた。…そして僕の耳には周囲からの鳥の羽音が聞こえて来た。

 …バサバサバサ…!

「アーッ!」

「アーッ !! 」

 見ると、この塚山古墳に向かって街のあちこちから、カラスが飛んで来るのが見えた。…何十羽、いや何百羽という数だ。

 そして接近して来たそいつらは、護神獣と僕たち二人の頭上をぐるぐると黒い輪になって周回飛行を始めた。

「……………!」

僕が茫然と見上げていると、さらにカラスは押し寄せて来て、その輪はどんどん太く大きくなって行った。








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