第23話 81式誘導弾 短SAM
…塚山古墳の前で甲斐路と二人、U - ホークと対峙する中で、僕はだんだんと真実が見えて来たような気がした。
そもそもの話、遠い宇宙から覗いた青く美しい星…地球に魅せられ訪れてみたと言う者なら、もうそれだけでも僕たち人類なんかよりはるかに高い知能や科学力を持つ優れた者たちだと分かる…古代人は素直にそれを讃え、畏れ敬い気持ちを通わせ互いに友として接しようとしたのだ。今、甲斐路が懸命に訴えそう努めているように。
しかし現在の人類は久しぶりに現れた彼らを拒否し、排除する意志をもって闘いの火を向けてしまった。完全な愚行、なのにほとんどの人間はそんな簡単な事実に気付いていない ! … "学ぶ" 姿すら示すことも無く、自分たちには高度な知能も科学も火力もあると過信して見当違いの平和を能天気に感じているだけだ。
…僕はそのことに気付いて何だか言いようのない悔しさと訳の分からない怒りに似た感情が自分の中にこみ上げて来ていた。
"求め、訴える者"
"畏れ、聞き入れる者"
その言葉の意味が胸にじわじわと迫って来た時、護神獣を見上げる僕の顔に曇天から落ちてきた小雨がポツポツと当たって、涙と共に頬を流れた。
…戦闘指揮管制室のモニター地図画面上をゆっくりと動いていた特殊装甲車の青い四角が止まった。
「こちら装甲車、瀬唐一尉報告!…現在地点宇都宮環状道路外回り、市内宮の内町付近、目標まで距離1000の地点に到達、車輌を停止しました!」
管制室に装甲車から無線が入り、部隊長がそれに応えた。
「よし ! 81式誘導弾、短SAM2基の発射準備に入れ!」
…管制室のスタッフに緊張感が高まる。
その時、僕たち二人と護神獣を取り囲んでいたカラスの群れが、バサバサバサッと羽ばたいて一斉に飛び立った。
甲斐路と僕が驚いて思わずカラスたちを見回すと、その何百何千の数が上空を一瞬真っ黒に覆った後、西の方向へと飛び去って行く。
「…何が起こるんだ、いったい !? 」
思わず僕が叫ぶと、甲斐路が応えた。
「きっと良くないことだよ !! 気を付けて!」
「81式誘導弾短SAM、発射準備完了しました。目標照準よし!」
特殊装甲車から管制室に最後の報告が入り、部隊長が力を込めて言った。
「よし、撃て!」
ビシュッ ! ビシュッ !!
装甲車の後ろに連結されたミサイル発射ユニットから、ついに81式誘導弾が2発、U - ホークに向けて放たれた。…だが!
次の瞬間、上空灰色の雲間からスッとオレンジ色の光線が一筋射してミサイルを空中で捉えた。
「ドドオオォォォォォォォン !! …」
僕が護神獣の後方に放射状に膨らむ爆発炎を見ると同時に、その巨大鳥はバッ ! と翼を広げていた。それだけでかなりの風圧が巻き起こって僕たち二人はよろけながら後ずさりしたが、次の瞬間には爆発による石か瓦礫か木片か何かのカケラがバラバラ飛んで来た。
そのほとんどは護神獣の背中と翼で防がれたが、翼の下部の羽根に当たり角度が変わって飛んで来たカケラが足元のアスファルトに跳ね返って甲斐路の頭を直撃した。
「ゴッ !! 」
鈍い音とともに甲斐路は地面に仰向けに倒れた。
「甲斐路っ !! 」
叫んだ僕の右腕にも物が当たり、痛みが走ったが、とにかく甲斐路に駆け寄り顔を覗き込むと、左の額の上から赤い血が流れて意識を失っていた。
「くそっ!」
僕は何が起こったのかもどうして良いかも分からず、頭の中がパニックに陥っていた。
「落ち着けっ!落ち着いて考えろっ !! …今は甲斐路を守らなきゃ!」
自分にそう言い聞かせて甲斐路の前髪を指でそっと上げて見ると、やはり額上の髪の中に裂傷があり、そこから血が出ていた。
(大変だ!どうする?)
僕が心で叫んだその時、周りが急にライトに照らされたように明るくなり、ハッ ! として顔を上に向けると、雨雲の中から目映い白光がクルクルと小さく回転しながら姿を現した。
しかし、その回転する光の目映さのためにはっきりした形は分からない。
(何 !? …UFO?)
思わぬ事態の連続に、僕はただ茫然となっていた。
…塚山古墳から約6キロ半離れた戦闘指揮管制室の窓からも、81式誘導弾短SAMの空中爆発とU - ホークの上に現れた光はハッキリ肉眼で視認されていた。
「いったい何がどうなったんだ?…」
部隊長が想定外の事態にショックを隠せずに呟いた。
「上空、雲間から出現したあの未確認発光体にミサイル攻撃を妨害された模様です!…81式短SAMは発射直後、目標到達前に空中で爆破されました」
多々貝自衛官が言った。
「くそっ!…何なんだアレは?」
部隊長の言葉に多々貝自衛官が冷静に答えた。
「視認した状況から見て、一昨日長岡百穴古墳上空に出現した未確認発光飛行体と同一のものと思われます」
「装甲車…瀬唐一尉は?無事か !? 」
「分かりません、通信不能です!」
部隊長とスタッフのやりとりが続く中、
「目標付近の高校生二人ですが、娘の方、甲斐路さんが路上に倒れています…負傷している模様!」
監視カメラを見てスタッフが言った。
「目標への攻撃が失敗した以上、至急救出に向かわないと!」
多々貝自衛官が部隊長に言った時、管制室に外部からの無線が入って来た。
間森一佐からだった。
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