第14話 鳥の群れ
…戦闘指揮管制室の大型モニター映像は再び宇都宮市の地図画面となり、戦闘ヘリを示す青い三角と、U - ホークを示す赤い丸が画面上を刻々と移動していた。
「1号機、市街地を抜けました。現在瓦谷町通過中、U - ホークは距離4500で追尾、間もなく県庁上を通過します」
多々貝自衛官が言った。
「…またあの風圧が来るのか?」
県知事がボソッと呟くと、
「今回は飛行高度が高いのでほとんど風圧は受けません」
と間森一佐が冷静に言った。
「そうか、それは良かった、ありゃあ心臓に悪い」
県知事が呟いた。
「ところで掛賀先生、U - ホークが発射する弾丸…あれは何なんですか?射程距離はどれほどなのか?」
戦闘指揮を執っている部隊長が訊いて来た。
「…推測でしか言えませんが市街の北西部、U - ホークが格納されていた多気山にかけてのエリアは大谷石の産地でもあり、多気山も内部は岩山となっていると思います。おそらく岩を喰んで口内で球状に加工し、弾丸として武器にしてるかと…なので口内には岩を砕く鋭い牙があると思います。射程距離は、これも推測ですが今までの映像やその体格から考えて、静止状態で2000~2500メートル、飛行時で1200~1800メートルくらいかなと思います」
それを聞いて僕は、
(凄いな掛賀先生!…そんなことまで見て考えてたんだ、さすが生物学者 !! )
と心中で驚いていた。
そして窓から外に目を移すと、自衛隊のヘリが上空からバラバラバラ…と僅かにローター音を響かせながら通過して行くのが見えた。
「…こちら6号機、目標追尾中の5機は現在県庁上を通過、目標への距離6000 ! ミサイル発射準備に入ります」
戦闘ヘリからの無線を受け、部隊長が応える。
「よし、その距離のまま追尾しろ ! 現在1号機が目標を北へ引っ張っている。追尾5機は羽黒山を通過後、目標をロックオンして5機同時に撃て!目標をミサイル集中攻撃にて鶏頂山南麓に落とす !! 」
「了解!ミサイル集中攻撃にて、目標を鶏頂山南麓に落とします !! 」
戦闘ヘリから声が返って来た。
僕と甲斐路、掛賀先生の調査隊3名も緊迫の面持ちでモニター画面上を移動するU - ホークと戦闘ヘリを見詰めていた。
「1号機、東北道上河内SAを通過、間もなく羽黒山上空。U - ホークは1号機を距離4000で追って飛行中 ! …現在状況は作戦通り進行中です」
多々貝自衛官が緊迫感に支配された戦闘指揮管制室の面々に一息つかせるように冷静な声で言った。
(よ~し頼むぜ、自衛隊 ! )
僕は胸中で呟く。
「…目標追尾中の5機、間もなく市街地上空を抜けます。目標までの距離6000 ! 」
続く多々貝自衛官の報告に、
「よし、6号機の映像を出せ!」
部隊長が叫ぶ。
切り替わった画面に映った6号機からの映像は、両脇に他の戦闘ヘリが並んで飛んでいた。
6キロ先の目標は、さすがに肉眼では小さく霞んで飛行しているのが何とか視認出来たが、雨が止んだばかりの曇天は時々モヤがかぶって来て思ったよりも視界は良くなかった。
「ギャーーーーーッ !! 」
その時突然U - ホークが長く大きく鳴いた。
「こちら6号機、現在高度800、目標が今、咆哮のような鳴き声を上げました。しかし飛行状況に変化無し、作戦行動を継続します ! 」
戦闘ヘリからの報告に部隊長が、
「よし、作戦変更無し、行動を継続しろ!」
と応えたその時だった。
画面映像の正面前方に、何か黒い霧のようなものが、下から湧き上がって来るのが見えた。
「ん?…何だ !? 」
黒い霧は近づくにつれ、黒い夥しい数の点になり、さらに接近した時にはそれらが発する様々な「声」も聞こえて来た。
「…鳥です!鳥の群れが突っ込んで来ます !! 凄い数です!回避不能 !! わ~っ !! 」
6号機からの叫びの直後、
ガン、ガン、ガンガンガン !!
続々と銃弾のように鳥がヘリのフロントガラスにぶつかって来た。
その映像に僕たちが息を呑む間もなくガラスは突き破られ、激しい風の音とともに侵入してきた鳶か烏か何かが画面に一瞬アップとなったとたんにブツッ ! と映像が切れた。
「6号機、どうした?通信を切るな!…ヘリ部隊、目標追尾の各機、応答しろ!」
部隊長が青ざめた表情で叫んだ。
「…ちら2号機、…全機にバードストライク……やられて制御不能…続行出来ません…」
直後に2号機から応答が返って来たが、風と、ガンガン鳥がぶつかる音と鳥の羽音とでハッキリ聞こえず、そしてこちらもすぐに通信は切れた。
「……………!」
戦闘指揮管制室に無言の重たい空気が流れた。
「…目標追尾の戦闘ヘリ5機、反応無くなりました。市内河内町笠松山東麓、サンヒルズカントリークラブ付近に墜落の模様 ! 」
多々貝自衛官の言葉に、
「…これもU - ホークの仕業だというのか… ! 」
部隊長が呆然とした顔で呟いた。
「目標が飛行速度を上げました!1号機までの距離を2800に詰めています !! 」
「戦闘ヘリ5機を襲った鳥の群れが、市街の東側へ移動して行きます!」
さらに続々と状況報告が入って来て、室内は正直なところ静かなパニック状態に陥っていた。
( いったいどうなっちゃうんだ !? この先 )
そして僕も思わず胸中で呟いていた。
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