第15話 10台のバイク

「…最悪な展開になったわね、優ちゃん ! 」

 掛賀先生が今までの状況を見て言った。

「私、ある程度は予想してました。たぶんこうなるんじゃないかって…」

 甲斐路が応える。

 …しかしそんな女子二人の冷めた反応に対して、部隊長の方は明らかに動揺した感じで叫んでいた。

「1号機、目標を追撃する予定の5機がやられた!作戦を中止する!…U - ホークの追尾を振り切って帰還しろ!」

「1号機了解、目標からの追尾を振り切って帰還します !! 」

 ヘリからそう無線が返って来たが、

「無理よ ! …U - ホークはまだ飛行速度に余力を残しているはず、追い付かれるのは時間の問題だわ!」

 甲斐路と掛賀先生はそう言って頷き合った。

「…1号機、現在塩谷町玉生 (たまにゅう) 上空を通過!」

「目標がまた飛行速度を上げました。1号機まで距離2200!」

 …モニター画面を見詰める戦闘指揮管制室のスタッフらの顔色に、いよいよ緊迫感がどっと滲んで来ていた。

「1号機 !! …目標が飛行速度を上げて来ている!距離を1800以下に詰められると、奴は例の弾丸を発射して来る !! 振り切れないと判断した時は、機を捨てて脱出しろ、絶対に無事に帰還するんだ!分かったか !! 」

 ついに部隊長が叫んだ。

「了解、距離1800で機を捨てて脱出します!」

 1号機から無線が返る。

「…1号機、東荒川ダム名水パーク上空を通過!」

「…目標との距離、1800を切りました!」

 多々貝自衛官がそう叫んだ時、パイロットは戦闘ヘリ1号機を捨てて空中に飛び出していた。…と同時にU - ホークはクチバシを開けて弾丸を発射した。

 それはまさしく間一髪だった。

 パイロットの頭上90メートルで戦闘ヘリは弾丸をくらってガシャッ ! と音を発し、直後に炎を吹いて爆発、四散した。さらにその後、U - ホークがシャーッ !! と風切り音を立ててその場を通過し、風圧が降下中のパイロットの身体を大きく煽ったが、何とか体勢を直してパラシュートを開いた。


「1号機、佐木育夫 (さきいくお) 一尉報告…機より脱出、現在パラシュート降下中 ! …ヘリはU - ホークに撃たれ大破、鶏頂山南東側県民の森付近に墜落しました。自分に負傷はありません」

「…よし、降下したらまた報告しろ!」

 1号機パイロットから無事脱出の連絡が入り、部隊長はややホッとした顔で応えた。

( …しかし戦闘ヘリ6機は結局全滅 、 作戦は完全に失敗、U - ホークの戦闘力圧倒的過ぎるじゃん ! )

 僕は心中で呟く。

「…目標、鶏頂山南麓を左へとゆっくり周回しながら進路を変えています!」

 モニター画面を見ながら多々貝自衛官が言った。

「取り敢えず用を済ませたから、また街に戻るつもりね… ! 」

 甲斐路が言った。

「何だと!…」

 部隊長が疲れた声で呟く。

「…目標、鬼怒川からさらに左へ旋回、国道119号線 (日光杉並木街道) に沿って南下、宇都宮市街方面に戻って来ます!」

「クソッ !! 」

 モニター画面上に表示される目標の動きは、自衛隊や管制室スタッフをあざ笑っているかのようだった。


 同時刻、市街の東側…宇都宮市氷室町の国道123号線を、けたたましい爆音を響かせて10台の改造バイクが走っていた。

「…古墳を守る護神獣、U - ホークだってよぉ!」

「記者会見してたあのネーチャン、超可愛かったよなぁ、怪獣ちゃん ! 」

「甲斐路 優だろ!」

「アレがそんなヤバい場所だったとはなぁ!」

「古墳にチョッカイ出して、護神獣召還しちゃったの、俺たちで~す!」

「って暴露したら、会えんじゃね?」

「怪獣ちゃんにサインもらうべ!」

「ハッ ! …まずは何しろ俺たちが呼んじゃった、怪獣U - ホーク拝むべ!」

「ワクワクすんなぁ~ !! 」

 ライダーらの平均年齢は18.5歳、大声で笑って話しながら、まっすぐ宇都宮市街へと向かって行く。

 …しかしその時、先頭バイクの少年が、右手前方の上空を移動している黒い筋に気付いた。

「何だアレ?…」

 黒い筋はゆっくりと左へとカーブして正面方向に回り込み、幅を広げながら上空から近づいて来る。

「ん?…アレは鳥の大群だぁ!…何であんなにたくさん !? …」

「気味悪いなぁ、こっちに来てるぜ…!」


 …残念ながらこれがライダーたちが交わした最後の会話となった。


 …結局U - ホークは、何ごとも無かったようにまた宇都宮の街に戻り、塚山古墳に降りて羽根を休めた。

「…こうなったら今からでも市街地の住民を避難させて、もっと強い火力兵器を使って攻撃するしかないんじゃないか?」

 戦闘指揮管制室内では、とうとう県知事がそう言い出した。

 しかしちょうどその時、

「ちょっと待って下さい、今県警に事故の報告が入りました!」

 宇都宮東警察署長が話を遮って言った。

「…市街東側の国道で、暴走族らしきバイク10台が鳥の大群に襲われ、ライダーらが死亡したらしい!」

 それを聞いて甲斐路が叫んだ。

「そいつらよ!古墳を汚した奴らは !! そうじゃなきゃ襲われる訳が無いわ!…バチ当たり野郎の顔を見てみたかったわね… !! 」

 しかし署長は苦々しそうな顔で応えた。

「私もそれは同感だが、奴らは鳥の群れに容赦無くめった突きにされて、人相も何も分からぬ凄惨な死体になってたようだ。恥ずべき話だが現場を見た交通課の署員が道端で吐いたらしい…」


 室内にまたしばし重い空気が流れた。

















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