第12話 記者会見

「番組の途中ですが、栃木県宇都宮市に出現した巨大鳥対策について、暗部首相の記者会見の模様を中継でお伝えします」

 …午後2時、テレビの画面が切り替わり、栃木県のみならず日本全国の人々が一斉にその画面に目を向けた。

 中継は東京の首相官邸前に設けられた臨時のブースで行われ、暗部首相はデスクの上に並んだマイクに向かって顔を上げて話を始めた。

「…本日、宇都宮市に出現した巨大鳥につきまして、私を含め、現在宇都宮市の栃木県庁にて、対策会議を行っています。…防衛省並びに栃木県警、陸上自衛隊宇都宮駐屯地、宇都宮市長、栃木県知事が会議メンバーですが、すでに現地にて東北自動車道、東北新幹線、また報道機関のヘリコプターなどが鳥の被害に遭い、市民が事実上鳥に蹂躙されている状況のため、鳥を排除すべく、現在は自衛隊を中心に具体的な鳥への攻撃作戦を立てているところです。…ただ、市民の安全を考慮し、攻撃は慎重にならざるを得ません。それから、対策会議上において、鳥の名前を、U - ホークと呼称することと致しました。これは今回の鳥出現までの一連の状況を調査して頂いた、宇都宮大学の掛賀教授の助手で、鳥第一発見者である甲斐路 優さんの命名によるものであり、会議参加者同意を得て私が承認致しました」

 首相がここまで話した時、詰めかけていたマスコミの記者から質問が飛んだ。

「鳥…U - ホークが出現する前に現地調査していたということは、古墳と未確認飛行物体とU - ホークには明らかに関連性があるということですね?」

「U - ホークは何故出現したんですか?…あの生物の正体は何なんですか?」

 暗部首相は小さく頷きながら、

「それに関しては、実際に調査に当たった掛賀先生や甲斐路さんに答えて頂きます」

 と言って、画面が県庁の会見室に切り替わった。

 映った画面の中央には掛賀先生、左隣に甲斐路、右隣に僕というセッティング。なお、先生のすぐ後ろには50インチのモニターが用意されていた。

 そして間森一佐が僕らをサポートするように、画面に映らない位置に立っている。

「私は甲斐路 優と申します。今回、掛賀先生より調査協力を依頼されて古墳の状況など現地にて見て来ました。あの鳥…U - ホークは古墳を護る護神獣としての役目をおっていましたが、今回古墳が汚され、破壊されたために出現したんだと思います」

「ではU - ホークは人類の敵として現れたということですか?」

 東京の記者団から甲斐路に質問が飛ぶ。

「それは違います。あの宇都宮市内2ヶ所の古墳は元々古代の人々と、それとは別に超高度の科学技術を持つ知識人類との友好の証しとなる遺跡なんです。護神獣は私たちをむやみに攻撃する目的で出てきた訳じゃありません」

 甲斐路はそう言って返したが、

「しかし現実にU - ホークは出現早々宇都宮市内で攻撃行動を起こし、交通機関をマヒさせ、我々報道機関の人間も犠牲になっています!人類への敵意は否定出来ないんじゃないですか?」

 記者団が声を大きくして叫ぶ。

 それを見て僕は何とかして甲斐路を弁護したかったけど、実際には何もできずにただホゾを噛む思いで記者たちを睨んでいた。

「あの鳥、いや怪獣U - ホークに関してそもそも感情を持った一般的な生物と捉えるのは無意味なことですよ」

 掛賀先生が発言した。

「昨日の未確認飛行物体からのサインを受けて出現したという経緯を見ても、U - ホークは最初からあの大きさで人為的に造られ、多気山の中に格納されていたと考えざるを得ません。古代人の、いや地球の人間の技術で出来ることとは到底思えない…生物学の範疇を超えた怪獣なんです!自衛隊はこの後、U - ホークに攻撃をするとのことですが、相手はまだ私たちに未知の能力を持っている可能性もあります。万一駆除に失敗した場合、より深刻な状況に発展すると思います。くれぐれも油断の無い作戦行動をとって頂くようお願いします」

 掛賀先生は記者団を制するように毅然とした態度でそう言って、甲斐路と視線を合わせ頷いた。

 記者団がさらにモニターの僕たち調査チームに質問しようとしたけど、暗部首相がその時突然口を挟んだ。

「会見の途中ですが、たった今防衛省から私に決定事項の発表を依頼されましたので、内閣総理大臣として緊急事態上での承認事項として国民の皆様にお知らせ致します!」

 記者団に一瞬の緊張感が走り、全ての目線が暗部首相に注がれた。

「防衛省、陸上自衛隊宇都宮及び北宇都宮部隊は本日15時40分より、U - ホークへの攻撃を開始します!…なお、周辺住民の皆様の避難等が困難なため、U - ホークを上空へ移動させ、山間部へ追い込んで、対戦ヘリによる空中戦にて討伐する作戦であります」

 首相の発表に記者らは大きくざわつき、

「…以上で緊急記者会見を終了します!」

 の声を待たずにキビスを返して続々と会見場から外へと飛び出して行った。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る