第11話 会議は踊り、僕は目が泳いだ!
4機のヘリを撃墜した鳥は、再び塚山古墳に降りて翼をたたんだ。
「早くあの鳥を攻撃しないと!ミサイルを撃ち込むとか、いくらでも方法はあるだろう!自衛隊は何をためらっているんだね !? 」
県知事がやや語気を強めて言った。
「住民の避難が無い中で、火力兵器を使用する市街戦は許可されません」
多々貝自衛官が答えた。
「やはり鳥が出て来た時点で、さっさと避難を進めるべきだったんじゃないのかね?…それとも鳥を攻撃出来ないように、そこの女子高生のお嬢ちゃんが仕向けたのか?鳥さんが可哀想とか言って… !! 」
すると宇都宮中央警察署長がそんなことを言い放って、僕は突然に怒りがこみ上げて来た。
「黙って聞いてりゃあ何て言い草ですか!…あの鳥に関しては甲斐路はしっかり調査した上であなた方の誰よりも正しい理解を持って臨んでいます!攻撃するにしても彼女や掛賀先生の話をキチンと聞いてからにして下さい!」
思わず立ち上がってそう言ってから、僕はハッ! と我に返ってうつむきながら椅子に腰を降ろした。…それを受けて掛賀先生が頷きながら学者らしく努めて冷静に発言した。
「まず、鷹のような風貌から、皆さんアレを鳥と言っていますが、アレは鳥…鳥類ではありません。卵から孵化して餌をもらい、成長して来た過程が全く感じられない未知の生物です。地球上の生物学では分類出来ない、言わば『怪獣』です」
「怪獣?…ずいぶん荒唐無稽な話だが、ならばなぜ怪獣が突然何の目的で宇都宮市に現れて悪さをしてるんだね?」
画面の中から暗部首相が質問して来た。
「それは…」
甲斐路 優がそれに応え、古代人と地球外知的生命体との交流から古墳との関係、護神獣の存在と今回の古墳荒らしや古墳崩落による怪獣出現まで一気に自説を淀みなく堂々と話した。
「…だから今アレを攻撃して古墳がさらに破壊されると、本当に人類と護神獣との戦争になります。戦場は宇都宮市から全国に広がって行きますよ!」
…しかし甲斐路の訴えに県知事らは、
「ずいぶんとまたSFファンタジー的な推測だ。…だが今は目の前のアレをどうやって退治するかを科学的に議論してるんだよ、お嬢ちゃん」
と威圧的に反応した。
「失礼ながら申し上げますが、科学というものは推測から始まるんですよ!皆さん」
今度は掛賀先生が発言した。
「残念ながら現在まで起きている事実が、皆さんも見た通り甲斐路さんの推測を充分に裏付ける結果になっています」
美人学者の言葉にさすがに一同は沈黙した。
「掛賀先生の言う通りだ!…甲斐路さん、会議での失礼をお詫びします。何か、あなたから他に意見はありますか?」
モニター画面から暗部首相が言った。
「…意見というか、要望が一つあるんですが…あの鳥、怪獣に名前を付けたいんです!」
甲斐路の意外な要望に一同がどよめく。
「…確かに、唯一無二の怪獣であれば特定の名前を付けることは必要ですね!甲斐路さんは何て名前を考えてるの?」
掛賀先生がフォローするように言った。
「U - ホークです!」
甲斐路のキッパリした発言にまた会議室がざわめく。
「…その、ゆーほーくのUは、甲斐路 優さんのゆーですか?」
暗部首相の質問に、
「いえ、宇都宮…Utunomiya のUです!」
と甲斐路が答えると、
「なるほど、私は良いと思います。他の人から特に異存が無ければそれで決定しましょう」
…という訳で、多々貝自衛官が
「ではこの会議名称をただいまから、U - ホーク緊急対策会議に変更の上で続けます」
とあらためて宣言した。
「いずれにしても、塚山古墳にアレが…U - ホークが居座ってる限り攻撃出来ないということか…!」
服田県知事が呟いた。
「しかし、早く何か行動を起こさないと現在市役所には、何とかしろ!と言う市民からの電話やら何やらが凄いことになっています!」
嵯藤市長からも泣きが入った。
「マスコミの連中も、報道ヘリが撃墜されたから大騒ぎしている!…勝手にやって来て勝手にヤラレたのに、うるさくてかなわん!…いや、オフレコ発言だが」
宇都宮中央警察署長がポロッと言った。
「それなら、鳥…U - ホークを飛ばせて空中戦に持ち込もう!市街地上空から移動させて攻撃する!陸自北宇都宮の戦闘ヘリを出動させろ!目標を倒す作戦はそれしか無い!」
モニター画面から防衛省幕僚長が言った。
「……… ! 」
その瞬間、甲斐路 優が厳しい表情を見せたが、唇を噛んで発言を控えた。
「それでは、この後は防衛省ならびに陸上自衛隊宇都宮の方々に具体的なU - ホーク攻撃作戦を立てて頂くことにして、私と掛賀先生、甲斐路さんと乙掛君はこの状況について一緒に記者会見を開いて国民に報告して頂くようお願いします!」
「えっ !? 」
暗部首相がいきなりそう発言して僕は驚いたが、
「では掛賀先生と助手のお二人は、別室に移って下さい。記者会見用のセッティングを致します」
多々貝自衛官が否応なしにそう言って僕たち3人を目で促した。
「ほら、乙ちゃん ! 行くよ」
甲斐路に背中を叩かれて僕は強制連行されるように席を立った。
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