第5話 掛賀教授と間森自衛官
…翌日、午前8時半。
僕と甲斐路 優はJR東北線快速列車のE231系二階建グリーン車輌の座席にて宇都宮に向かっていた。
先ほど7時57分に上野駅を発車したこの列車は、現在蓮田市付近を走行中、宇都宮には9時27分に到着予定だ。
僕はスマホを取り出し、座席で彼女のブログを見ていた。
昨夜、彼女からの電話は、
「明日、宇都宮に行くから!JR上野駅の6番線に7時40分集合ね !! 快速列車のグリーンに乗って行くから、ホームのその付近で待ち合わせってことで!…じゃあお休みっ !! 」
という、僕に嫌も応も無い全く一方的な内容だった。
しかしもちろんそれを断るという選択肢は僕には無く、昨夜のニュースで言ってたUFOの出現やらレーザー光線やらに、正直惹かれた部分もあった。…それとやっぱり彼女と一緒にいたかったのが本音だ。
彼女のブログは、「怪獣少女のミカタ」というタイトルで、古代人と地球外高度知能生命体との交流の可能性とか、それを推測させる遺跡や、特異な伝説、それと護神獣などの話が分かりやすく表示されていて面白かった。…不思議とこれを見る限り、彼女の話もそれほど荒唐無稽じゃないように感じられた。
…僕はいったんスマホを上着のポケットにしまい、さっき上野駅構内で買った駅弁を彼女と二人で食べ始めた。…こうしてみると二人楽しく秘密の旅行に行くみたいな感じだけど、もちろん今日の旅行きはイチャラブデートでは無く調査が目的だ。
「…宇都宮に着いた後の行動予定は?…どうするつもりなの?」
僕は窓側の座席で外を流れる景色を見ながら弁当を食べている甲斐路 優に声をかけた。
「駅には宇都宮大学の掛賀先生が私たちを待ってるはずなの…後は先生が案内してくれると思うけど、たぶん長岡百穴古墳や多気山に行くことになると思うわ ! 」
…彼女はご飯を頬張りながら僕に顔を向けてもごもごと答えた。
「えっ !? 大学の先生が…何で?」
意外なことに驚くと、
「私のブログのフォロワーなの ! 」
彼女はサラリと答えた。
「…それにしても、やっぱり列車で窓に流れる景色を眺めながら食べる駅弁って最高だわ!」
じわじわと緊張感を高める僕とは対照的に、彼女はまるでピクニックに行くかのように楽しげだった。
住宅地と田畑が交互に現れる沿線風景がのっぺりと続く関東平野を走り抜けて、列車は定刻通りに終点宇都宮駅に到着した。
…列車を降りて二人で改札口を出ると、30代前半くらいの女性と、迷彩服を着た30歳くらいの男性自衛隊員が僕たちを待っていた。
「掛賀先生 !! …」
「甲斐路 優さん !? 」
彼女と相手の女性が笑顔を交わして歩み寄る。
(この人が宇都宮大学教授の掛賀先生 !? …凄い美人じゃん!しかも自衛隊員と一緒って、どーいう展開?)
驚いて固まっていると、掛賀先生が僕を見て、
「こちらの方は?甲斐路さんの…」
と彼女に訊くと、
「クラスメートで、私の助手です!」
と彼女はキッパリ答えた。
(えっ!助手 !? )
僕はさらに戸惑って固まる。
しかしその美人教授は優しい笑顔を僕に向けて、
「宇都宮大学の掛賀久園 (かけがひさえ) です、今日はよろしくお願いします」
と挨拶し、続いて迷彩服の背の高い精悍な男も、
「私は、陸上自衛隊北宇都宮(駐屯地)所属の間森益男 (まもりますお) 一佐です ! 本日は掛賀先生並びに皆さんの調査に同行し、サポートするよう命令されています!」
ビシッと直立不動、敬礼付きで迎えてくれたが僕はさらにさらに戸惑い…っていうか正直ビビった。
「え~と、乙掛輝男です…よろしくお願いします」
…僕は緊張感の中、何とかそう言って頭を下げた。
…という訳で僕たち調査隊4人は間森自衛官運転の車 (ジープかと思ってたら普通の SUV 車だった) で宇都宮駅前のコインパーキングから市街地の大通りに出て北へ向かった。
…栃木県の県庁所在地、宇都宮はそれなりに都会ではあるが、東京のような背の高いビルはさほど無く、低層階建造物が並ぶ市街の上を見れば、空がずいぶんと広く感じられた。…しかし、今日はあいにくの曇り空だ。
「…市街地を北に向かってるってことは、長岡百穴古墳に行くんですね?」
僕と並んで後席に乗せられた甲斐路 優が、県別マップル (栃木県道路地図) を見ながら 助手席の掛賀教授に言った。
「…それにしても何故自衛隊の方が同行されるんですか?」
一方の僕は間森自衛官に訊く。
「ニュースで見たと思うけど、昨日街の上空に未確認発光飛行体が出現してるからね!…明らかに国内の飛行機じゃない変な飛び方してレーザー光線出してたから、県知事が慌ててウチの大学と自衛隊に調査出動依頼してきたのよ!…今回の現象って、優ちゃんの学説に沿った通りに来ているし、ぜひ調査に協力してほしくて呼んじゃったって訳なの!」
大学の美人教授が見た目によらぬ軽い言い方で答えた。
「で、来ちゃった訳なの!」
さらに甲斐路 優が応える。
「助手連れて?」
「そ、助手連れて!」
「…プッ ! 」
「アッハッハッハ~ッ !! 」
…車内で訳の分からぬことで大喜びする女子二人に正直ドン引きした僕だったが、そんな中でハンドルを握る間森一佐は全く表情を出さずに黙々と任務を遂行していた…。
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