第6話 ついに護神獣出現!

 …駅前から15分ほど走って、車は市街の北のはずれ、宇都宮環状道路から一本脇道に入って、景色が急にのどかになった山裾を進んでまもなく長岡百穴古墳に到着した。

 ここに来たのは僕は当然初めてだ。

 昨日のサキタマ古墳と違って、単純に街外れの山裾に何のテライも無く百穴古墳はそこにあった。…古墳の前は普通に土の野菜畑だった。

 しかし見学者用に道路脇には駐車場もあり、畑の脇から古墳への立ち入りは自由だった。

 しかもこの古墳は、その名の通り大きな一枚岩に人が入れるほどの大きさの横穴がボコボコといくつも開いていた。

 古墳前にある説明板を見ると、凝灰岩の表面に、52箇所の横穴があるとのこと。

 僕が以前何かの写真で見た、埼玉県の「吉見百穴」に似た感じだ。

「…これは、酷いわね!」

 甲斐路 優と掛賀先生が同時に言った。

 古墳の穴の中には石仏が鎮座していたが、その顔には赤や青のスプレー塗装をかけられ、表情が分からなくなっていた。

 しかも外の岩面には、「極悪重来」「唯我独走」などのイタズラ文字がやはりスプレーで描かれていた。

 さらに昨日の地震によるものと思われる亀裂が古墳の左側に2筋斜めに入っていて、亀裂の途中にかかった穴は崩落して上部の岩が落ちて中の石仏が破壊された状態になっていた。

「…昨日のUFOは、ここへ何しに来たんですかね?」

 僕は素朴な質問を掛賀先生にしてみた。

「おそらく私たちと同様、状況視察に来たんだと思うわ ! 」

 先生の返答に続いて甲斐路 優が、

「これ、人間による破壊行為だと判断されなきゃ良いけど…」

 と呟いた。

「…この状況を見に、わざわざ宇宙人が地球に来たってことですか?」

 さらに質問すると、甲斐路 優が答えた。

「昨日のUFOは、単なる中継衛星だと思う。状況を写して発信するだけの機器ね。それによって破壊行為とジャッジされたら、たぶん次のアクションが起きるはずよ ! …」

「君が言ってた "護神獣" が出現するってこと?…」

 …僕と彼女の会話を遮るように、掛賀先生が車に戻りながら叫んだ。

「次は多気山に行ってみましょう!…何だか天気が怪しくなって来たわ ! 」

 …という訳で僕たちは再び車に乗り、長岡百穴古墳を離れた。

 上空を見れば確かに雲は厚みを増して濃い灰色になり、宇都宮市をじんわりと覆い始めていた。

 今日は傘を持って来てないので、雨になったら困るな…と僕は心中で呟く。


「でも、SF映画なんかだと、宇宙人は圧倒的武力や科学力で地球侵略にやって来るけど、実際にはそんな話は聞かないし、僅かにUFO目撃談とか、古代遺跡に宇宙との関係を推測されるものがある程度ですよね?…仮に宇宙人が居たとして何故彼らは地球にやって来ないのかな?」

 …多気山へ向かう車中で僕は、この際だからと言ってみた。

 すると、甲斐路 優が話を始めた。


「…昔々、太陽系外のある星にお爺さんとお婆さんがいました。…ある日二人は長年楽しみにしていた宇宙旅行に出掛けました。そして途中、通りがかった太陽系で、青く美しい星を見つけたのです。…二人がその星に降り立つと、残念ながら大気の組成や多種多様な微生物や、生物に寄生するウィルスなど、そこは自分たちが生存するに適した所ではありませんでした。…当時そこに居た古代人らは野蛮で不衛生な暮らしをしていましたが、二人は少しばかり進んだ科学を彼らに教え、金属の作り方など伝授して、たいそう感謝され、神様のように崇められました。彼らが何か礼がしたいと言うので、二人はこの青く美しい星に自分たちのお墓を造ってもらいました。後世に古墳と言われるものです。しかし一方で略奪や戦いに明け暮れる当時の人類からこの墓を静かに守る手立てが必要でした。そこで二人はこの星の何種類かの生物をバイオテクノロジー操作して護神獣を造り、墓に危害を加える者が出た際にそれを出現させ、人類を戒めることにしたのです…」

「…なるほど」

 僕は彼女の言葉に頷き、掛賀先生はそんな僕たちを見てニヤリと笑みを浮かべた。

 …間守一佐は相変わらず黙々と運転し、車は宇都宮環状道路から右折して県道70号線を今市方面に向かう。


 スマホで調べたら、多気山は市街の北西約8キロのところに位置する、標高377メートルの山だ。…東側山腹には多気不動尊が祀られている信仰の山でもある。

 …市街を外れてだんだんと景色がのどかな里山風景になり、車が向かう正面にギザギザした山の稜線なんかが見えて来て、間守一佐が、

「まもなく多気山です!」

 と言った時、その正面上空に黒い大きな影が現れた。

「えっ !? 」

 僕たちが同時に小さな叫びを上げると、黒い影は一瞬のうちに大きく近づき、あっという間に車の真上を通過して後方の市街地方面に飛び去って行った。…そして直後に強い風圧が降りて来て、道路周辺からブワーッ !! と砂塵が舞い上がった。

「…巨大な鳥?…あれが、護神獣 !? 」

 僕たちは窓を開けて飛行体を目で追った。

 …間守一佐は道路端に車を停めて携帯電話で所属部隊へ報告を入れる。

「間守一佐報告!多気山付近に巨大生物出現、鳥に似た飛行体、上空を南東宇都宮市街地方面に向かった模様!翼長推定80メートル以上、被害発生の恐れあり、繰り返す!巨大生物出現…」


(マジ !? …大変じゃん !! )

 …僕は驚愕の事態に思わず叫び出しそうだった。





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