再び訪れた日常 【 幼少編最終話 】

 そんな日が続き、早2か月。誰だ1か月くらいと言った奴は。僕らは未だに拘束され質問攻めにあっている。


 一方で秋の気配が深まる中、ここを拠点に出て行く兵士達の量も多くなった。

 センドルベント侯爵領――正しくはアルフィナ様の影響圏だけど、そこは完全に崩壊。いや、世界が変わってしまった。

 今では見た事もない不思議な生き物や無機物、そして謎の現象に悩まされているという。詳しくは知らないけどね。


 一方で、メアーズ様の……と言うと変だね。サンライフォン男爵領だった港町メイボローは、もう完全に魔物の巣となってしまったそうだ。

 海には巨大な怪魚が悠々と回遊し、海岸からは亜人や魔物が上陸してくる。

 そんな状況なので、さすがにこれ以上の放置も出来ないのだろう。


 王国の正規軍を中心として、各地から続々と兵士や魔術師、ついでに学者なんかが向かっていったわけだ。

 僕はもう二度と行きたくは無いけどね。


 そんな僕は、今もアルフィナ様の懐で温まっている。

 こうしている時が一番落ち着く。もう戦いとかはこりごりだよ。僕の本質はただの村人なんだ。

 でも……それじゃあダメな事も分かっているよ。ちゃんと学ばなくちゃ。世界のありとあらゆることを。多分それでも足りない。アルフィナ様と共に生きるって事は、多分そういった事なんだ。


「テンタは今日も大人しいわね」


 アルフィナ様が、服の上から優しく撫でてくれる。

 あの教会で、バステルの姿だった僕をすぐにテンタだと見破った。きっと右目の力だ。

 でも、その事はあれから一言もなかった。僕が明かす時を待っているのだろうか?

 それとも、もう全てを忘れて静かに生きようと考えているのだろうか?

 まあ、後者は無いと思うけど、真意は分からないな……。


「アルフィナ様、申請書の返事が届きました」


 シルベさんが、何やら立派な筒を持ってくる。

 あれはプラチナ製? とてつもなく高価な物だ。

 蓋には蝋封がされており、開けると一瞬魔法陣が光った。厳重だなー。


 そしてその中には同様に蝋封された丸巻の羊皮紙スクロール

 その中身を見ると、アルフィナ様は満足そうに頷いた。

 僕も読んじゃって良いんだろうか? いやダメだね。その辺りは常識を弁えなくっちゃだよ。


「テンタ、出かけるわよ」


 ん? 何処へ行くんだろうか。

 でも関係無いか。僕はアルフィナ様と共に行く。そこがたとえ、世界の果てだったとしてもね。

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