二人繋いで

 メアーズ様の頭が、徐々に使徒の口へと近づいて行く。

 彼女も必死に抵抗をするけど、足が浮いてしまった今となってはどうにもならない。

 ラウスはもう動けない。僅かに命の鼓動は感じるけど、それも治療をしなければどうなるか……。


 僕も触手を使徒に巻きつけるけど、こうなっては何の意味もない。

 そうだ、アルフィナ様は!?

 でもアルフィナ様はミリーちゃんに引っ張られて少し言い争いをしていた。

 こんな時に何を!


「その右目、今は動いていないんでしょ? いいから素直に言う事を聞いて」


「お断りよ。助けに来た友人を置いて逃げるなど、ありえないわ!」


「あたしらは貴方を救いに来たの。貴方と世界を! アルフィナ様さえ逃げ切れば、あたしらの勝ち。その為の覚悟は全員して来ているんだよ」


「今を逃げて、それで何になるというの? 数日? いいえ、数時間の時間すら稼げはしないわ。使徒を倒さない限り、どうしようもないのよ」


「だからその手段がないの! 悔しいけど、あたしの工房の品は役に立たなかったんだよ」


 ミリーちゃんの言葉は確かに間違ってはいないかもしれない。

 もうこいつには勝てない。倒す手段が思いつかない。使徒だからとか、多分関係ない。こいつ自信が強いんだ。


 もうどうすればいいんだろう。そもそも、来て何をする予定だったんだ。

 ラマッセが初めて現れた時、ヴァッサノが再誕しようとしていると言っていた。

 だけどそれだけじゃない。他の神もそれを狙っていると。


 今の所、ヴァッサノにそんな動きは無いように感じる。というより、アルフィナ様の右目の歪みがいつもと同じ程度になっている。ぐるぐるぐるぐる、周りが歪む。だけど、精々僕の感覚器官では顔が見えない程度。それ以上の影響は無い。


 そしてこの使徒。こいつがヴァッサノの力を横取りしようとした神の僕ってやつなんだろう。

 でもだから? それが分かったからどうしたらいいんだ!

 僕らは何も出来ない。ここで何をすればいいの? 教えてよラマッセ!


「我が神ルコンエイヴよ! ここにアステオの使徒になり損ねた半端物を捧げます。僅かでも、そのお力の糧にならんことを!」


「おやめなさい!」


 ミリーちゃんを振り切ってアルフィナ様が拾った剣で使徒に斬りかかる。

 だけどダメだ。乾いた金属音だけが響く。

 何度も何度も打ち据えるけど、使徒には何も効いてはいない。


「無駄な事を。花嫁はそこで静かに待っているが良い。例え両親が揃わずとも、その分だけ贄を増やせばいいだけの事。この子娘は、さぞかし良き贄になるであろう」


 メアーズ様も必死に抵抗する。だけど両手両足を剛毛で巻かれ、宙に浮いた状態では何もできない。

 僕の触手は使徒に巻きついているけど、ただそれだけだ。体重差があり過ぎて、僅かの動きを止める事も出来やしない。


「だ、大丈夫よ、アルフィナ。わたくしは……誰も恨みなどないわ」


「そんな事、聞きたくないわよ!」


 使徒に叩きつけた剣が折れる。これで完全に終わってしまった。メアーズ様……ごめんなさい。ごめんなさい……。


 そんな絶望に染まってしまった僕を、誰かが掴む。

 あ、この感じ!?


「どうして直接聞いていない私の方が覚えているのよ!」


 そう言って、シルベさんが僕をポイと投げる。アルフィナ様の元へ。

 そうだよ! 僕をアルフィナ様の元へ連れて行く。元々は僕がそうしたかったから付いた嘘だ。

 だけどラマッセも同じ事を言った。色々状況は予定と違っていたけれど、僕が最初にすべき事は決まっていたじゃないか!

 使徒に対するよりも何よりも、先ずはアルフィナ様の元へ行くべきだった。

 今までは戦いに参加できずに遠回りに様子を伺っていたシルベさんだけど、この機会を狙っていたんだね。

 さすがは年長者だ!


 ゆっくりと放物線を描いて、僕はアルフィナ様の右手に収まった。

 その瞬間、力が湧いてくる。

 いつも触られてきた日々とは違う。緊急事態だからだろうか? それとも、アルフィナ様が求めているからだろうか?

 ――戦えと! 共に戦うと!

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