メアーズの挑発
奴が動いたらどう対処しようか?
そんな事を考えていたけど、使徒は動かなかった。まるで彫刻の様に。
「ほら、やってみなさい。意味があるのならね。貴方が何をしたところで、今の状態では貴方の神は
アルフィナ様は強気だけど、そんな挑発するような事を言って大丈夫なんだろうか?
「信じられぬ……このような事が起きるなど…………信じられぬ!」
「ミリー、これ本当に使徒ですの?」
「確かに反応はそうなっているよ。まあ実際の使途を捕まえて実験する事なんて出来ないから、その点は予想だけどね」
「ならこいつは使徒ではありませんわ。もしくは貴方が以前話した様に、低級も低級。ギリギリ使徒ってところかしらね」
メアーズ様も加わって更に挑発する。
まずい。僕の人生経験では、無駄に怒らせるとロクな事が無い。ここは
「調子に乗るなよ、小娘ども。我らが神ルコンエイヴ様の信託は絶対。今この地に降臨なさるのだ」
「あら、『信じられぬ』などと言ったのは貴方でしてよ。神の信徒ともあろう者が神を疑う。人の世の神官ですらタブー。それが……」
メアーズ様がクスクスと笑うと、
「使徒と呼ばれる存在が自らの主を疑うなんてね。わたくしも使徒の成り損ないなどとは言われましたが、貴方こそ使徒としての資格は無いのではなくて? それとも、その肉体が無能だったのかしら?」
「このボント・ワーズ・アーケルト伯爵を愚弄するかー!」
教会中に響き渡る叫び。だけど、僕に恐れはなかった。
それどころか、冷静に考えていた。こいつは結局、どちらなのだろうかと。
使徒? それともアーケルト伯? 多分だけど、2つの意識が混ざり合ったもの。
こいつは僕が持ち込んだ剣を知らない様子だった。でも彼は相当身分が高かったと思う。それは武器や鎧が証明している。
部下の事など気もかけない人間だったのだろうか?
いや、そうだとしても、あれだけの名剣を覚えていないなんて事があるのだろうか?
だから僕は、こいつが使徒と言う化け物であったのだと思っていた。
でも心の中に、自分がアーケルト伯であったという意識がある。
改めてこいつが言った言葉を思い出す――僕は、もしかしたら本当に使徒なのだろうか?
テンタという意識はある。だけど同時に、アルフィナ様に巣食うヴァッサノの思い通りに動かされているんじゃないだろうか?
「先ずは最初に貴様を贄にしてやる!」
黒と銀の剛毛を水草の様に揺らしながら、見た目より俊敏な動きでメアーズ様に迫る。
しまった! 余計な考え事なんてしている場合じゃなかった。
「メアーズ様!」
だけど横からラウスが斬りかかる。僕も支援しなきゃ!
急いで拘束触手を伸ばして足に絡ませるけど、重量差が違い過ぎて何の役にも立たない。そのまま引っ張られるだけだ。
そんなことをしている間にラウスの剣が使徒の胴を薙ぐ――かに見えた。
カァン!
安い合金製の剣特有の乾いた音が響く。使徒の全身を覆う毛は一本たりとも切れてはいない。
2度、3度。無視する使途を止めようと斬りかかる。だけどダメだ。やっぱり完全に無駄。一体どうなっているんだ?
「ミリー殿、まるで効いて――」
ラウスは抗議の声を上げるけど、それを言いきることは出来なかった。
使徒の攻撃――正しくは伸ばした剛毛が、鞭のようにラウスを打ち据える。
でもその寸前、一瞬で踏み込んだメアーズ様の右ストレートが使徒の腹にめり込んでいた。
もしあれが無かったら、ラウスの命は無かっただろう。だけど――。
「贄の方から飛び込んでくるとはな。所詮は愚かな人間よ」
剛毛が縄のように巻きついてメアーズ様を締め上がる。
そのままギリギリと音を立て、ゆっくりと上へと持ち上げる。
そこに待っているのは使徒の顔。開いた口の中にはびっしりと牙が生え、その中央には青い瞳が覗いている。奴がしようとしていることは明らかだった。
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