教会ブロック
「やっとここまで来たかー。長かったねぇ」
反対側に降りたミリーちゃんが、感慨深そうに呟いた。
「ここが目的地ですの?」
「ここからじゃ見えないけどね。このブロックだよ。教会はこの先だから、もうロープは必要ないね」
そういやここに来るまで何メートル使ったんだろう。ミリーちゃんの袋が無ければ色々と手詰まりになっていたね。
「ふむ、確かに教会があるのはこのブロックで間違いない。では行こうか。そこへテンタを持っていけば良いのだったね」
「テンタは今の所……」
「ちゃんと持っている。安心してくれ」
手の内側からにょきっと出す。いつもの様に、掴んでいるように見えるはずだ。
「貸して、貸してー!」
興味深々と言った感じでミリーちゃんが要求するが、当然ながら絶対にダメ。
「さて、それでは行くとしよう。ただこれまでは出てこなかったが、最初の入った時にかなり強力な魔物が居た」
「あの死体……というより、残骸の山ですわね」
「魔物も気になるけど、どうやってああなったのかも気になるわ」
「それはいずれな。とにかくかなりの強敵だ。不意を打たれたらひとたまりも無いだろう。十分に注意してくれ」
「分かったわ」
そう言ってぴったりと僕にくっついてくるシルベさん。
うーん、やっぱりいつもと勝手が違う。女性らしすぎて逆に怖い。この霧のせいなのだろうか?
でもそうだとしたら、この一件が解決したらきっと全部元に戻る。
今はただ、頑張ろう。
近づくにつれ、霧はますます濃くなってくる。もう足元すら見えない。
それどころか、
それは周囲や空どころか地面までも。まるで何もない空間にいるようだ。
でも行くべき方角が分かる。なぜなら、霧の中にシルエットが見えるからだ。
こちらは全く逆。近づくにつれ、不自然なほどにクッキリとその姿が浮かび上がる。
まるで誘っているようだ。いや、アルフィナ様が呼んでいるのかもしれない。そう前向きに考えよう。
それが何かは言うまでもないだろう。“絡まる螺旋と太陽の神アステオ”の教会だ。
「よくこんな状況で進めるね。さすがと言うかなんというか……」
いつの間にかミリーちゃんが腕にしがみ付いていた。
よく見えればその肩には鳥が乗り、後ろにはメアーズ様、シルベさん、ラウスと続く。
もう繋がっていないと方向感覚どころか上下の感覚すら怪しくなってきた。
これは少し困ったものだ――そう考えた時だった。
やっぱり来たか……。
霧の中に、沢山の気配を感じる。多くは人間の兵士。正しくは、人間と同じくらいの兵士だろう。
数はよく分からない。感知しきれないからだ。反射が酷すぎて、奥が正しく判別できない。だけどおそらく百人はいそうだ。
この町の守護隊としては極少数だけど、こちらの数からすれば戦いにもならない。
しかも当然の様にいる。あの筋肉の怪物たちだ。
こちらは別の意味でどうにもならない。あの連中の攻撃から全員を守る。不可能だよ。
こんな事なら、全員をコップランドの町へ帰してしまえば良かった。
十分な数の敵がいることを予想していたけど、いざ出会ってしまうと恐れてしまう。誰かを失う事に。
僕の様子を察したのか、後ろから付いてくる皆の緊張の高まりを感じる。
「ようやくお出ましですの?」
「ああ。だが100を超えている。人外の化け物もいる。とても戦える相手じゃない」
「それは困ったものだ。それで、向こうはこちらに気づいているのかい?」
とても困っている様な感じのしない鳥の声に少しイラっとする。
「まだだ。だが奴らは霧の中でも普通に襲い掛かってきた。近くに行けば必ず気付く」
「見えれば戦い様もあるが、この視界だ。襲われたらお終いだぞ」
「あたしらはここに残るって手もあるけど……」
「それこそ、巡回して来たら一巻の終わりですわ」
確かにそうだ。今まで出会わなかったのは、運と言っても良いと思う。
この町は今や奴らの本拠地で、そしてここには大量の兵士が配属されていたんだ。
アジオスの様子を考えれば、他に傭兵や亜人がいる可能性もある。入り口での戦いの跡も、やがて見つかるだろう。
いや、もう見つかっているかもしれない。
「とにかく、ここまで来てしまったんだ。行くしかないだろう」
「お前の本体は別のところにあるのだろうが、こちらはそうじゃない。そう簡単な話でない事を説明しているんだが……」
一緒に突破は無謀。だけど残していく事も出来ない。
……何処かの建物に待機していてもらうか?
そう考えた瞬間、脳裏にベリルの姿が浮かぶ。
長く僕から離れていたら、どうなってしまうか分からない。完全に手詰まりだ。
それに、皆がいなければここまでは来られなかった。なのに置いて行くのか?
アルフィナ様になんて説明する? そんな事、考えられない。
「大丈夫だ。ミリーの報告が確かなら、この先に安全圏があるのさ。誰も手出しできない。この異常の影響も受けない。そんな場所がね」
「それは初耳だ。是非教えて貰いたいが……」
「基礎理論から説明すると、相当に長い話になるね。それはいずれ、学校で教えたいところだね。さあ、今は動く時だ。詳しい事は、全てが終わってからじっくりと話そう」
この鳥をどこまで信じて良いのかは分からない。だけど今が動く時だという意見には賛成だ。
「どうすればいい」
「それでは説明しよう――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます