一度戻って
ご隠居は消え、僕はポトリと地面に落ちる。もう何度目だろう。何人の人を見送ったのだろう……。
ここからの目線で見ると、撒き散らされた肉や内臓、それに血で凄い状況だ。
女の子たちに見せるのは気が引けるけど……なぜだろう、誰も『キャー』とか言いそうな様子が思い浮かばない。
まあとにかく、合流方法を考えよう。
門の上までは触手のままで行けるとして、下までは拘束触手2本と繁殖触手を繋げれば届くだろう。それで引き上げるとして……却下。
今一つ確証があるわけじゃないけど、繁殖触手を握られると絶対に何かが出る。出てしまう。とても引き上げるどころじゃない。
だけどご隠居になっても巻き上げは無理だろう。
あれは左右同時にやらないと、ずれて引っ掛かってしまう。どんなに力があっても一人じゃ無理だ。
そんなわけで――、
▼ △ ▲
「それで
鳥は何か含みを持たせた言葉を吐くが、考えてみれば、飛べるお前が偵察に行っても良かったんだぞ。
僕は悩んだ末、バステルの姿で戻る事になった。
今までラマッセが来ていた服はサイズが合わないので、服は適当に飛び散った布を見繕って巻き付けた。これでは蛮族だが仕方が無い。いつもの全裸よりはマシだろう。
というよりも、触手だから全裸生活も長い。最近では服を着ることに違和感すらある。
いや、これは注意しないといけない事だね、うん。
「広間にいた敵は一掃した。ただ一人でこの扉を開けるのは無理だった」
「そりゃそうでしょう。最初から開けて来るとは思ってはいませんでしたわ」
そう言いながらメアーズ様が手渡したのはロープだった。赤い猫目が『最初から持っていけばよかったのに』と無言で言っている。はい、確かにその通りです。
「偵察だけの予定だったのでな」
軽く言い訳をしながら壁を登る。
やる事はさっきと同じだ。触手が一本増えたけど、繁殖触手だからね。こういう時は使えない。
というよりも、未だにこの触手のベストは使い方が思いつかない。
弾力はあるけど、意外と固く巻きつくような柔軟な動きは出来ない。
幸いメアーズ様に噛まれても千切れない硬度もあるけど、その割にやたら敏感だ。
ちょっと先っぽに触れただけで、体液が吐き出されてしまう……。
まあいいや、今は別の事を考えよう。
大扉の左右には滑車や歯車が複雑についた機械があって、これが回ると扉が上へと開く仕組みだ。
今は動かせないから、ここのロープを結ぶ。
用意したのはミリーちゃんだろう。長さも十分で、そのまま反対側に降ろすことが出来た。
ちょっと手間はかかったけど、これで準備は完了だ。
▼ △ ▲
「何があったのかは……聞かない方がよさそうですわね」
反対側に降りて早々、メアーズ様が顔をしかめる。
まあそりゃそうだろう。広間は酷い状態だ。立ち込める血と肉、それに内蔵の匂いは、慣れていないときついだろう。
まあ僕は大丈夫だけどね。というか、全員平気なのが怖いよ。
「ここから教会までの道は、ミリー殿が分かるんだね?」
「その点は大丈夫。往復しているからね」
「では行こう。早いところ、この問題を片付けてしまわないとね」
――と、いきなり木彫りの鳥が仕切り出したけど良いものだろうか?
でも多分この中では一番の知恵者と思われる。それにシルベさんの上司だ。
任せるしかないか……。
この町は防御を考えて作られた要塞だ。というよりも、ここを町というには抵抗がある。
内部は高い壁により何重にも仕切られた迷路。しかも不定期に
通常は全部上げているのだろうけど、戦闘時には全部下ろしている。
そして今は全部降りている。ふざけるなと言いたい。
「ここも締まっていますわね」
「もう全部締まっていると考えた方が良いんじゃないかな」
「さあ、時間もないのよ。ちゃっちゃとやっちゃいましょう」
シルベさんがパンパンと手を叩いて合図する。ハイハイ。
ロープを肩にかけ、触手を使って門の上まで登る。防衛用の城塞なのだから、当然抜け道なんて無い。
ただそろそろ中央も近い。内部は単純な迷路ではなく、兵舎や倉庫が並ぶ町の様相になっていた。
ただ当然、それも広い目で見れば壁に囲まれたブロック単位。
いっその事城壁の上を行けばひと手間省けるけど、敵がいたら一転大ピンチ。
メアーズ様なら何とかなるんだろうか? と少し失礼な事を考えてしまうけど。
そんな事を考えている間に反対側に降りてロープを引く。
当然最初のロープは上の滑車に結びつけてあるけど、こちらに降りるロープはその途中に一度結んである。
引けば向こうにも伝わるって寸法さ。まあ、考えたのはミリーちゃんだけどね。
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