広間の怪物たち
門の上からの視界は霧で良く見えないし、
だけど構造はなんとなく分かっている。外壁は2重になっていて、内側にあるのは袋小路で出入口なんてものは無い。一度下りたらもう一度登らなきゃいけないんだよ。落とし物なんかしたら最悪だ。まあ、戦闘中ならそれどころじゃないけどね。
遠くて完全に把握出来てはいないけど、それだけに何がいるかも分からない。
だから入るのは、どうしても門である必要があったんだ。
素早く音もなく反対側に降りて、周囲を確認する。
とにかく、どれだけの敵が潜んでいるのか分からない。もしかしたら、また人間を殺さなければいけないかもしれない。強力な魔物がいるかもしれない。
そんなのといちいち戦ってなど居られないからね。とにかく隠密行動だ。
門を上げるための巻き上げ機はすぐそばにあった。まあ当然だよね。
でもこれどうするの? 無理だよ。
ハンドルではなく、鎖の巻き上げ機の横には横に四本の棒が付いている。もちろん金属製。これを四人で押して回す仕掛けだ。
負荷の高さが分かるね。それが門の両側に付いている。
幾らバステルが力持ちでも、こればっかりは無理。
ほんの少しでも開けてから皆を入れようとしていた計画は台無しだ。
仕方が無い、戻ろう。幾らメアーズ様でも、この扉の破壊は不可能だ。どっから見ても彼女の胴体より分厚いからね。
ミリーちゃんからロープでも借りて……そんな僕の背後に、突然何かが現れた。
いや、降って来たんだ。おそらく城壁の上から。
咄嗟に横に飛ぶ。だけど同時に分かる――死ぬ。
すぐにラマッセの姿を解除して
同時に受ける強烈な衝撃。まるで体が何度も変形して潰れたよう。最初は何が何だか分からなかったよ。
実際には空中で叩き落とされ、地面に叩きつけられバウンドした所を蹴られたんだ。
最後は扉に一直線。思いっきり叩きつけられて、地面にポトリ。
……し、死ぬ。
唯一幸いだった事は、テンタの姿だったことだ。
僕程度が勢いよく叩きつけられても、向こうのみんなには聞こえない。
それよりも、こいつ――こいつらは何だ?
見た目は人間か。筋肉が肥大化し、まるで球体のよう。
膨張した肉で目は潰れ首の境界もよくわからない。だけど腕はハッキリしている。あれはさぞかし器用に動かせるだろう。
足は太く短くて鈍そうだけど、安定性はかなりありそうだ。
身長は170センチほど。千切れて微かに残った布が、かつて人間であった事を示している。
だけどもう違う。確認するまでもない。あれは化け物だ。
そして問答無用で襲って来た。あいつらは、最初から僕を敵と認識して襲って来たんだ。
でも僕だけで良かった。他の誰が狙われていてもダメだっただろう。
だけどどうする? バステルかエリクセンさんになるか?
いや、ダメだ。弓矢も剣も通じそうにない。それに一体じゃない。あいつら――見える範囲だけで6体。
侯爵の配下なんだろうか?
それとも元はただの人? ううん、この世界の存在ですらないかもしれない。
でもどっちにしたって、倒さなければ進めない――どうする!?
――ようやくで番かのう。
――待ってました!
――そろそろ我慢できないと思っていたよ。
え、誰?
――いやいや、ここは良いタイミングだって。
――他に適任者もいないしな。
――今のテンタなら、きっと上手く使ってくれるさ。
いや、だから誰?
「ワシを忘れてしまったかのう。それはちと寂しいぞ」
体を光が包み、膨張する。そしてそれは人の姿となる。いつもの変身だ。
そしてその声……と言うよりも雰囲気から、それが誰かは分かる。判るのだけど……。
180センチを超える
肌は白く、真っ白い髭もあって、外見はまるで雪の巨人だ。因みに髪の毛は無い。
顔に刻まれた深い皴。きっと想像も出来ない程の高齢だ。でもそこから下の筋肉はやっぱりおかしい。
はち切れんばかりの筋肉に、丸太の様な手足。その姿は、周囲にいる怪物たちと比べても引けは取らない。
いや、むしろ頭一つくらい飛びぬけている。
更に股間からは生前の僕の腕より太い男性器が生えていて、それは天を衝くようにそそり立っていた。
ご、ご隠居だよね?
確か繁殖触手の隠居だ。
想像では、もっと大人しい人だったと記憶しているんですけども……。
――久しいな、ご隠居。
――ワーズ・バトルマスターの力、存分に見せてくれよ。
――あんときゃ惜しかったよな。雪辱はここでって訳だ。
――まさに最高の舞台だな。最後の一暴れ、楽しんで来いよ、ロスター。
「おうよ。見ておれよ、テンタ。お主に本当の戦いというものを教授して進ぜよう」
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