巨大城壁
濃い霧の中を巨大な馬が進む。結構早いので、目的地まではすぐに到着しそうだ。
今はラマッセの姿だけど、これで正解だったと思う。ピリピリと奇妙な感覚が肌を刺す。
透明なクラゲや蟲たちがフワフワと漂っている。
襲っては来ないし霧で見えないけど、大型の生き物が低空を飛んでいる。平べったい魚みたいな感じだ。
道も奇妙な感覚だ。大きな石を埋めたしっかりとした街道。それなのに、感覚は空中で足をばたつかせているよう。
本当に進んでいるのかちょっと不安になる。
だけど感じる。強大な、そして不気味な何かを。それは確実に近づいている。間違ってはいないはずだ……多分。
そんな焦ると不安はあったけど、
巨大な壁。高い……5? 6? いや、10メートルはある。
左右の範囲は遠すぎて判らない。だけどずっと続いている感覚だ。
ようやく到着した。目的地だ。
馬を止めたので、他の皆も気がついたのだろう。
「着いたのかしら?」
「ええ。今入り口を探しています」
「本当に、この霧の中が見えるのは便利ですわね。ねえ、貴方と一緒にテンタを握れば、私にも見えるのかしら?」
「そういえば一緒にはやって無かったねぇ。試す?」
「貴方たち、緊張感がなさ過ぎよ」
シルベさんがピシッと締める。流石年長者。
でもしっかりメアーズ様は
「やっぱりダメですわね。仕方ありません、お任せいたしますわ」
うん、最初からそのつもり。
だけど凄いな。城塞の町とはよく言ったもので、ずっと巨大な石垣を組み合わせた壁が続いている。
その上は矢を撃ったり防衛するスペースがある、その点はアジオスとかもそうだ。
だけどこの町は、さらに奥にもう一段高い壁があって、そこにも同じ様な造りになっている。
いわば二重の防壁だ。当然、矢避けの壁なんかは反対側には無い。もし仮に最初の壁を登っても、そこから先には絶望が待っているだろう。
まあ、僕は普通に入り口を探しているんだけどね。
「今どのあたり? どこに向かっているの?」
僕が水平に動き出したのが気になったのだろう。
「どこからでも良いのですが、やはり東門が良いと思います。近いですし」
「本気なの? 正面から突入するつもり?」
「壁を越えていくよりも、楽だと思います」
どう見えても、頭にクエスチョンマークを浮かべている感じだったけど、まあ到着すればわかるだろう。
ここまで走って、生き物の気配を感じない。でも無人でもない。
何かが
どのような魔物なのだろうか? 気配が感じる限りだと相当な数だ。
でも生き物的な気配がする。使徒じゃない事は間違いないと思う。
そんな事をしている間に入口に到着した。
内側から鎖で開けるタイプの大扉だ。このタイプは2種類あって、堀がある場合はバタンと倒して橋になる。
でもここは平地。そんな使い方をしていたら簡単に壊れてしまうね。だから普通の巻き上げ式。
裏側に鎖の滑車があって、それでゆっくりと上げるんだ。
当然だけど、そんな手間をかけるつもりは無いけどね。
「では行ってきます。皆さんはここでしばしお待ちください」
「戦いは苦手なのでしょう? 気を付けてね」
メアーズお嬢様の心使いが有難い。
だけどこの体は力が無いだけで、バルテルやエリクセンさんの技術は普通にあるんだ。
もちろん、余計な戦いはしない方が良いけどね。
そんな訳で、触手を使って壁を登る。
ただアジオスとは段違いの高さ。普通にやったら登れない。
でも今はラマッセだから、拘束触手は一本しか使えない。そんな訳で、伸ばすのも無理。繁殖触手や注入触手は脆すぎて使えないし、誰かに変身したら直ちに全裸。持って来た武器もさようなら。
一見手詰まりのようだけど、ノートルさんの吸盤触手に意外な使い道があった。
ただ、くっつけて体重を支えられるほどの吸引力はないよ。
でも一瞬だけでも十分。貼り付けて、壁を蹴り登る。勢いで外れてしまうけれど、そのまま更に上に張り付けてまた登る。これで10メートルの壁も軽々だ。
「あれどうやって登っているの?」
そんな言葉が下から聞こえてくるけど、まあ今度説明しよう。
今更隠すほどの事でもないしね。
登り切った門の上から感じるのはかなりの広間。
本来ならバリケードが敷かれ、最終防衛戦になる。
だけど広間は無人。この辺りにはもう、アーケルト伯爵……いや、もう親が死んだから侯爵?
まあいいや、どうせ本人が自称した名前がそれなんだろう。会ってから考えればいい話なのだから、気にしたって仕方が無い。
ただ今の所、そいつの部下はいない。だけどここは侯爵領最大の防衛都市……と言うより要塞だ。相当な数の兵士も配属されていたはずだ。
あまりにも不自然だけど、ここは既に人の世界じゃない。常識で考えたって仕方が無いか。
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