いよいよ出発
遺体は魔物専門のハンターたちに任せて、僕ら一行は城塞の町ケイムラートへと向かった。
距離は10キロ程度。だけどさすがに霧が濃い。普通に行ったら相当難儀しただろう。
そんな訳で、悩んだ末に僕はラマッセの姿を選んだ。服は宿屋にあった古着を拝借したよ。結構沢山のサイズがあったからね。
「怪我はもう大丈夫ですの?」
メアーズ様は少し嬉しそうだ。やっぱりあの時の戦いでは、かなりの心配をかけてしまったようだ。
幸い、傷はもう塞がっていた。思ったよりも治りが早い。この霧の環境のせいか、メアーズ様の懐で休めたからかは不明だけどね。
自分の事を良く知るためにも、いずれ調べたいな……。でも今は――、
「ええ、大丈夫です。先ずは急ぎましょう。色々と時間を取ってしまいましたからね」
「そうね。こんな事、さっさと終わらせてしまいたいですものね」
こうして僕らは出発した。あの巨大な馬のような生き物に乗って。
厩舎にも入らないので夜中に逃げたらどうしようかと思ったけど、朝にはのんびり周辺で草を食べていた。大人しい性格に感謝だ。
「それでだがミリー、例のモノはもう用意しておいた方が良い」
ちなみに木彫りの鳥も一緒についてきた。まあ男爵様の遺体と一緒に行かせても役には立たないだろうけど、こちらでなら何か意義があるんだろうか?
なんて考えていたら、ふいにそんな事を言いだした。
例のモノ――ああ、多分あの磨き粉だろう。使徒に有効だというやつだね。
でも何で知っているのだろう? と思うけど、考えてみればシルベさんの上司で命令者。そうなれば当然、メアーズ様やミリーちゃんの事も知っている。
普通に考えれば、使徒の事も知っているだろうし、ミリーちゃんの工房の事も全て分かっているのだろう。
「じゃあみんなに渡すから、ポケットの中にでも入れといて」
そういったミリーちゃんが缶に入っていた磨き粉を布に付けて僕らに渡す。
油に混ぜた金属粉。昔にも嗅いだことのある匂い。もしあの時の物と同じだとしたら、何でそんなものがあったんだろう。
というか、あの時に突入した兵士全員、この磨き粉を使っていたんだけどね。
「これは使徒以外……そうですね、強力な魔物なんかにも効果があるのでしょうか?」
ラウスは半信半疑で訪ねるが――、
「無いよ。というよりも、使徒相手に効果がある保証もないよ」
これまたいい加減なものだ。
「だけど効く事を前提に作ってはいるよ。信じろとか期待しろとかは言わないけど、あたしらの代々の努力の結晶ではあるわけよ」
そう言われると、無下には出来ないのが人情というものだね。
どうせラマッセでは使えないけど、他の人に変わった時には使うだろう。今は大切にポケットに入れておく。
「予想は付くと思うけど、効果は1回。もしかしたら2回目もあるかもだけど、期待されても困るよ」
そりゃそうだ。本来は錆びを取ったり潰れてしまった刃を磨くための物だ。磨いた効果はずっと残るだろうけど、使徒に効果があるっていうのは、切れ味とかの話じゃない。この磨き粉自体の成分だ。
当然、生き物を一回斬ったら効果は取れてしまう。本当にいざという時に使わないとね。
――ってラウスはもう塗っちゃった後だし。
ペコペコしながら新しく受け取っている姿は、実力のある大人としてはちょっと情けない。でも自分だけでなくご主人様の命も賭かっているからね。
僕も見習わないといけない。アルフィナ様の為であれば、どんな相手にだって頭を下げるよ。
それにしても、もしこれが本当にあの時に使った物だったら、誰が用意したのだろう。
そして――そうだ、あの
今考えれば、不自然だ。僕が勝てないのは分かる。当然と言って良い。
隊長さんや兵士達も勝てなかった。だけどそれは実力差があり過ぎたからだ。
その後に来た騎士たちも、最初は全く勝負にもならなかった。
だけど触手のみんなは?
エリクセンさんも、バステルも、多分他の人達も相当な猛者や知恵者だ。でも殺されてしまった。何でそんなに強かったの?
でもアイツは死んだ。確かにそれを感じ取った。
あれ? でもどうして? あんなに強かったのが、何でいきなり死んだんだろう?
世の中分からないことだらけだ。
「さて、それでは出発いたしましょう。休むときは休み。でも動くときは素早くですわ」
僕の後ろからギュッとしがみついているメアーズ様が号令をかける。
確かにその通り。分からない事を考えていたって仕方がない。
目的はただ一つ。ようやくここまで来た。
「それでは、アルフィナ様を救いにまいりましょう」
こうして僕、メアーズ様、ミリーちゃん、シルベさん、メアーズ様の護衛であるラウス、それに奇妙な木彫りの鳥の一行は、城塞の町ケイムラートへと向かった。
全てに決着をつけるために。
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