多少の不安はあるけれど

 明け方――静かに……本当に静かに足音が近づいてくる。

 僕以外は誰も気が付いていない。さて、どうしようか……。


 食事の後、すぐにみんな寝る事になった。

 見張りはラウスと鳥が交代して行ったけど、実際には僕はずっと起きていたからね。今もこうして周囲の警戒を怠ってはいない。


 ちなみに場所はメアーズ様の懐の中。特に話し合いも無く、ごく自然にメアーズ様が僕を懐に入れて寝た結果だ。

 この旅の間にメアーズ様の懐にも慣れてきた。だけどやっぱりアルフィナ様の肌が恋しい……。


 いやそれどころじゃないか。

 敵か味方かは分からないけど、近づいてくるのは3人か。全員男。鎧は着ていないか、かなり薄い革鎧。

 隠密に長けた連中と見た。そろそろ皆を起こそうか。


「やはり気が付いているねぇ。実に興味深い」


 突然声を掛けられて、一瞬ビクンと跳ねてしまった。

 この鳥は生命反応が無い分、すぐに存在を忘れちゃうんだよね。

 それよりも、何で僕が気付いた事が分かったのか興味津々だよ。何せ僕は鳴かないし、今はメアーズ様の懐でぬくぬくと丸くなっていたんだからね。


「ん……んー……」


 あっと、メアーズ様が起きそうだ。この鳥の件は後回し。今は対処に向かおう。

 モソモソと這い出ようとするが、寝ぼけたメアーズ様にむんずと掴まれた

 ぐええええ! 痛っ! 痛たた! 結構本気で痛い。多分だけど、牛に踏まれるよりも痛い。この子って、将来ちゃんと結婚とかできるのだろうか。

『元男爵令嬢、結婚初日に夫を粉砕する』なんて張り紙を見るのは嫌だぞ。


「ああ、大丈夫だ。問題無いので気にしなくても大丈夫。今こちらに来ているのは私の部下だよ」


 あー、そっち? まあそうだよね。でも今の僕は、新たなピンチで潰れそうです。


「確かに敵では無い様だな」


 そう言って、静かにラウスが立ち上がる。彼も気が付いていたみたいだ。

 髪と同じ茶色の瞳には、僅かの眠気も感じられない、

 この闇、この霧。街道も整備されていて、音では分からない。僕には分からない気配みたいなものを感じ取ったのだろう。

 たまに忘れるけど、僕でも分かるほどの凄腕なんだよな。


 入口まで来た三人は、静かに扉を開けると中に入ってきた。

 フードが付いた紺色の外套コート。武器はそれぞれが帯剣し、弓矢も持っている。

 でも兵士って風には見えないな。


「彼等に、急いでコップランドの町まで運んでもらう」


「信用できるのか? それ以前に、よく用意できたものだ」


「少し位失敗したって、軌道修正するだけの支度はしてあるさ。一手や二手失敗したからと言って投げだしていたら、それこそ勝負など出来ないよ」


「まあ今は信じるしかないがな。置いて行くという選択肢もなければメンバーを分ける事も出来ない。ましてや持っていくなど論外だからな」


 この様子だと、やっぱりミリーちゃんの説得は失敗したのね。予想はしていたけど……。

 死んでも手放さそうだったからね。これは仕方が無い。


 入ってきた3人はちゃんと鳥の部下のようだ。驚きもせずに指示を聞いている。


「これから君達にはこの袋を運んでもらう。但し、中を見ることは許されない。詮索も一切なしだ。その代わり、報酬は十分に支払われる。いいね?」


「了解している。おいっ!」


 リーダーらしい男が合図をすると、残りの二人がそれぞれ麻袋を担ぐ。

 いやいや、染み出た血で真っ黒だし、ものすごく生臭い。何の疑問も持たないのか?


 だけどそんな心配をよそに、彼等は霧の中へと消えていった。

 本当に大丈夫かね。


「彼らはハンターだよ。魔物退治専門のね」


 ラウスに言ったのか僕に言ったのか、それは分からない。


「今この周辺には珍しい魔物が出る。それこそ、他所では決して見られないような生き物がね。危険ではあるが、実入りも多い。そんな訳で、知り合いも何組か来ていたのだよ」


 どうにかして連絡を取ったわけか。その方法は分からないけど、その辺りは今の僕の知識で考えても仕方が無い事だろう。

 ちょっと不安だけど、任せるしかない。

 取り敢えず、この鳥が敵だったら絶対に焼き鳥にしてやろう。まあこれはただの木だし、実際の中身は人間なんだろうけどね。

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