シルベさんの告白

 ボディスーツタイプの革鎧だけを身に着けたシルベさんは、いつもよりもちょっと恥ずかしそうだった。

 普段が無表情だけに、ギャップがすごい。


「……こっちも恥ずかしいんだから、じらさないでくれる?」


 じらすも何も――えええ!?

 何を考えているんだろう。罠? これは罠か? 実はメアーズ様とミリーちゃんが見てるんじゃないだろうな?

 反響定位エコーロケーションで確認するも、他の皆は下の階。木彫りの鳥とミリーちゃんからは激しい音波がぶつかり合っている。また言い合いの最中だろう。


 どうしよう……いやでも治療術を掛けたのは僕じゃないけど僕だ。何かあったのかもしれない。

 いや、何かあっても何も出来ないけれど、今は従うべきだ。


 白い肌には触らないように金具を探す。ただそれっぽいのはあるんだけど、外そうとしても外れない。なんだか、中で針金のようなものが千切れて絡まっているような感じだ。


「無理矢理脱がそうとするとこうなるの。落ち着いて、ゆっくりとね」


 背中を向けたまま、僕の手を取ると肩に触れさせる。


「この辺りから、優しくね」


 これは見た目よりも複雑な造りだぞ。

 普通のボディスーツかと思ったら、何層にも種類の違う薄革を重ねたコンポジット型。

 乱暴に扱えば中の金具が壊れて取れなくなるわけか。

 先ずは肩から外し、中の金具を抜いて脇のパーツを外す。絡み合った針金はまるでパズルのようだけど、僕は透視するように内部の様子が分かるので案外難しくはない。


 というか、意外と面白い。気が付かないほど夢中になって、肩、両脇、お腹と背中と外していく。そして胸元と腰の上に装着した部品を外せば残りは……とっても薄いブラとパンツだけが残った。


 いつの間にかシルベさんがこちらを見ている。というか、夢中になって周りをぐるぐると回っていたんだ。

 やばい、なんかやばかった気がする。ここまで脱がす必要があったか? もっと前に止められただろ僕。

 離れなきゃ! 頭ではそう感じているのに視線が釘付けになって体が動かない。


「ねえ、残りもいいかしら?」


 いや良いとか悪いとかじゃなくて、それを取ったら全裸だよ?

 変身した時の僕と同じだよ?

 いや僕はいいけどね、覚悟の上だし男だし。でもシルベさんはどうなのよ。


 いつもと違って、少し悲壮感を漂わせた熱っぽい視線。身長差があるので、どうしても上目遣いで見つめられる。

 心臓が高鳴る。シルベさんって、こんなに綺麗な人だっけ?

 いつもはもっと芋っぽいというか石っぽい人だったように思っていたよ。


 動かない僕の様子をどう見たんだろうか?

 彼女の方から、そっと僕に抱き着いて来る。いや、僕というよりバステルの体だけどね。


「若そうだし、あまり女性に慣れていないのかしら?」


 まあバステルの外見は16か17か……確かに若い。いやそんな事は関係ない。僕が慣れていないだけだよ。


「私も……そうよ。こんなことは初めて……」


 そういった彼女の肌は、ほんのり赤くなり、そして震えていた。


「私ね、この仕事をちょっと舐めていたのかもしれない。基本は裏方だし、戦闘任務なんてずっとなかった。それにね、殺される時は普通に、あっけなく殺されると思っていたの」


 シルベさんが捕まっていた時の様子を思い出す。


「でもそうじゃなかった。抵抗も出来ないまま散々嬲り者にされて……あの時あなたが来てくれなかったら、どうなっていたかなんて考えるまでもないわ」


 確かに、酷い状況だった。人間が――いや、何処まで人間だったか分からない。だけどそれでも、人をあそこまで醜く感じたのは初めてだった。


「でも、今はこの仕事から降りることは出来ない。許されないの。だから、ね」


 外されたブラが、軽い音を立てて床に落ちる。


「私の、初めての人になってください」


 シルベさんの目は、今まで長く一緒に暮らしてきた仲で、一番真剣なまなざしをしていた。

 いやでも……どうするの? え? 今一つ状況が分からない。頭がパニックだ。


 そのままぎゅっと抱き着いて来るシルベさん。


「その……何をしてもいいから」


 2つの膨らみの感触を感じ、急に頭より先に体が現実を受け入れる。

 いや待って! 待ってよ! いきなりこんな事言われても、ハイそうですかなんてならないよ。


「……だめだ。もっと自分を大切にしてくれ」


 取り敢えず、そう言うのだけで精一杯。そのくせ、自然に腰に回した手は僕の意志に反して離しやしない。あああー、僕はダメ人間だー。


「私だって考えたわ。いつか今夜の事を後悔する日が来るかもしれない。早まったかな、なんて。でもそれで良いのよ。あの時の恐怖……あれはもう嫌なの。あんな思いをするのなら、せめて初めての時は自分で決めたいの。それに――」


 彼女の唇が、僕の唇に触れる。


「貴方が相手なら、絶対に後悔はしないわ」

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