遺体の処理
宿場街道は来た時と同じ。もう完全に無人となったままだった。
「さすがにもうへとへとですわ。休まないともちませんわよ」
うん、十分に分かっている。
本当はもっとすんなりと行ければ良かったのだけど、実際にはこうして生きて戻れただけでも奇跡だよ。
時間は確かに惜しいけど、それでだめならもうどうしようもないよ。
「それで、来た時に使った場所で良いのか?」
内容的にはメアーズ様達に向けてだけど、僕はあえて木彫りの鳥に聞いた。
ここを指定したんだ。何かあるのだろう――なんて思ったのに、
「どこでもいいよ。落ち着ける所で休もうじゃないか」
木彫りの鳥は
まあそんな訳で、行きに宿泊した無人の宿屋再びだ。
「調味料があるのはありがたいですわね」
「小麦には……なんだろう、キノコが生えているよ。歯もあるみたいだし、触らない方が良いかな」
「どれですの?」
そう言ってメアーズ様は赤紫のキノコをひょいと掴む。傘が開きかけの15センチほどのキノコ。傘の下辺りが裂けていて、確かにそこにびっしりと牙が生えている。しかも「シャー」とか鳴いて威嚇しているし。
見れば小麦の袋には、他にもまだ何本もいそうだ。この様子だと調味料もダメだろう。
「毒はありませんし、この程度の見た目なら問題ありませんわ。一応、火は通すとしましょう」
食べるのかよ!
というかもう頭を齧ってあるし。
ジュウジュウと、キノコが焼ける音が暗い宿の中に響く。さっきまではキノコの悲鳴も響いていたけど、これは忘れよう。
濃い霧のせいで昼も夜もあいまいだけど、時間は完全に夜。明け方にアジオスに入ってから、波乱の連続だった。
幾ら僕でも、休まなければいけない事はわかる。
特に食事は重要だ。こんな物でも、無いよりはマシだろう。
キノコは尻から口までを一直線に鉄串で刺し、
なんでも、魚もああやって調理するらしい。流石は海育ち。僕の周辺にも川はあったけど、食べられるようなサイズの魚はいなかったから新鮮だ。
思ったよりも香ばしい良い香りに人間の体が興味を示すが、やっぱり空腹感は無いし食べたいとも思わない。
「君は食べなくていいのかい?」
同じ食べない仲間の木彫りの鳥が聞いて来るけど、こちらが聞きたいのはそっちじゃない。
「それよりどうするんだ? こちらは明け方には出発したい。いや、しなければいならない。最悪の場合は俺一人で行く事になる」
というよりも、いっそ全員、ここからコップランドへ行って貰った方が良いかもしれない。
当然ながら、男爵の遺体も持って。
危険は僕一人で背負う事になる。成功率もそれだけ下がるだろう。だけど、去って行ったベリルの後ろ姿が
彼は死ななかったけど、死んだのと何が違う? 何も変わらない。
それに、これから行く場所は敵の本拠地だ。使徒とやらもいるらしい。
みんなの安全を考えるなら、ここでお別れするべきだ。
だけど失敗したら? 成功率が下がるって事は、当然そうなる確率も高くなる。
そしてその時、全ては終わる。今更コップランドに逃がしたって何も変わらない。
彼女たちもそれを知っているから、少しでも成功率を上げるためにこちらを優先してくれている。
「悩んでいる様だが、結論は出たかね?」
「一番悩んでいるのは、男爵様の遺体をどうするかだよ!」
暢気な鳥め。本体はおそらく安全圏にあるのだろう。おそらくオルトミオン中央学院あたりか。だけど多分それは無理だぞ。絶対に巻き込まれるだろう。
「遺体に関しては問題ない。大丈夫だ。私が対処しよう」
「……今いるメンバーで、最も信用が置けないんだが」
「それは酷い言われようだ。だが安心して欲しい。どうしたって、使徒が来たら誰にも止められないんだ」
一体何を安心しろというのだろうか。
「でも大丈夫。策はしっかりとあるんだ。それもとびっきりのがね」
「聞かせてもらえるかな?」
「君は知っているかな? いや、間違いなく知っているね。ミリーは錬金術師だ。まだ見習いだがね。彼女の袋を使わせてもらう。もちろん私の専門分野は違うが、袋を運ぶだけであれば可能だ。そこに男爵の遺体を入れ、コップランドへと運ぶ。大丈夫だ。使徒は通常世界では表立った活動はしない。魔物を使役する事もない。彼らは我々とは考え方そのものが違うからね。町が襲われる事もあるまい」
長々と説明を受けたが、確かにそれは妙案だ。この役立たずの鳥に最重要荷物を運んでもらい、その間に僕らは要塞の町ケイムラートへ向かう。
確かに他に手は無いだろうな。
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